BASARAの石田を幸せにし隊。

戦国BASARA3の石田三成をひたすらに応援するこっそり避難ブログ

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藤紅創痕

「こんな西軍もアリアリ」第二段。
幸村と三成のお噺です。家三度5%程度で申し訳ありません(吐血
だって鶴ちゃんのお噺、好評だったので…嬉しくて書いてしまいましたよ。
しかも本来なら刑部を出さなければならないポジションに、また“嶋”左近が出張ります。
それでも「みなぎらぁあああ!!」な、御方は↓へどうぞどうぞ…!


大坂城の堅固なる大堀を頂く石垣と、其の中に林が如く生茂る木々の陰の上、まるで錦絵の様に映える半月を見上げ、甲斐の若き虎、真田源次郎幸村は暫しの間、感嘆の赴きで息を呑んでいた。

絢爛豪華。
三国無双――

かつてここに招かれた、豊後国の大友家当主にして、南蛮由来の品々に目利きある宗麟にさえ、そう言わしめる程に。
此処、大坂城は育っていたのだ。
織田の崩壊を、魔道故の自滅を予期し、息を殺し、だが着実に足元を固め。
一兵卒に過ぎなかったあの“覇王”は――
確かに天下を掌握したのだった。
其れを、今は戦城と化していて尚、“絶対不落”を謳われるこの大坂城に。
入城を許されてから幾日か経つが、未だこの広大な敷地を回りきれていないことに、幸村は茶色の明るい瞳で月を捉えながら、改めて豊臣の成し遂げたことの大きさに俯く。


――お館様。


本当ならば共に上洛を果たし、甲斐武田こそがこの群雄割拠、天下相乱れる日の本を統べて風林火山の旗の名の下、このような大城を構えるこそが、自身の夢でもあったのに。
今、天下は再び――あの頃、まだ若さの勢いと、大きな背中を敬愛し守ろうと只々前へ前へ進もうとしていた頃よりも――大きな対極を迎えようとしている。


某は――


「…いや」
ふるふると、月に照らされる明るい小豆色の髪を揺らし、幸村は知らず知らず呟いていた。
「今は甲斐のことだけを案じている事態ではない…某は、西軍の」
「――西軍の」

何だ。

低く押し殺した、地を這うような声音が横から響いてきたので、驚いて顔を其の方へ向けてみれば、親衛隊隊長の嶋左近を引き連れた西軍総大将――“凶王”石田三成が、怪訝な顔をして暗く光る苔色の瞳でこちらを見詰めていた。
「あ、いやこれはっ…三成殿!」
慌てて居を正し、幸村はまず、自分よりも年若くであるのに既に多くの将たちを平伏させるのに相応しい威圧を持つ、西軍総大将に頭を垂れた。
「相すみませぬ、何分天下無双の大坂城、未だに広すぎて自室へ戻るにも時に迷いますれば」
其の答えに、三成が一瞬、大きな吊り目をふわり、と見開いた。険が和らぐような。
「…迷った、だと?」
「あッ…はい、申し訳ありませぬ、此処は今どの辺りになるのでありましょう?本丸殿より確か東…」
「…貴様、それでも甲斐武田の総大将か」
三成が更に低い声音で、目元に皴を寄せながらきん、と冷たく言い放った。
「戦城の地図など其の日の内に脳裏に叩き込め。何処が堅固で、何処が虚弱であるのか。解らずして、秀吉様の遺されたこの大坂城を守れるとでも思っているのか」
「――はっ…申し訳ありませぬ、三成殿…」
明らかにうな垂れて肩を落とす若き将の様に、三成の背後に控えていた嶋左近が、般若の面の下の表情を変えぬままではあったが、こう三成に云った。
「三成様。真田が御大将は、先日ようやっと入城を果たされたばかり。我らも未だ、充分な情報をお伝えしてはおりませぬ。我らが大坂城は下手な小村よりも広大であれば、全体の把握も中々…真田殿を責められは出来ませぬ」
「……」
嶋の言葉に、三成が怪訝に自分より少し背の高い彼の青みかかった切れ長の瞳を見上げた。其の後、蛇のように長く白い首をく、と斜に構えながら、月が射し込み女郎花色に光る、鋭い眼を幸村に向けた。
「…だが。貴様は…まこと、我が西軍の…秀吉様の為、家康を討ち取る覚悟で此処に居るのか。私は未だ、貴様の心の底を戦で垣間見てはおらぬ。城の全見取り図…其れを渡すに値するか。私は…真田幸村。貴様を信じることは出来ん」
「なんと…ッ」
三成の痛烈な宣言に純真無垢な心根の幸村は、眉を潜めて三成に詰め寄った。
「某、甲斐武田の信玄公の御旗を預かりし者なれば、どうしてこの槍に懸けて武士としての誓を違えるなどという不義を働けましょうや!?某の不徳はひいてはお館様の名に泥を塗る羞恥…決して、あの日の言葉に違いはありませぬッッ!!」
だが、幸村のそのような必死の吐露もなにも届かぬかのように――三成は変わらぬ鋭い眼光を幸村に注いだまま。
「――言葉など…」
吐き捨てるように呟くと、三成は己の獲物――居合いの者が持つ大太刀を握り締めた。
「何の保障になろうや…」
静かに、だが刻まれた胸の奥の傷を覗かせる様に俯く三成にそっと、嶋が声を掛けた。
「三成様…」
次の瞬間、三成はたんっ、と回廊の外、土の美しく整えられた庭に飛び出るとまるで木刀か何かを扱うが如き軽さで、大太刀を空に舞わせ、それからぱしり、と受け止めて“大一大万大吉”の銘が刻まれた柄頭の切っ先を、幸村に向けた。
「構えろ、真田幸村」
「――なッ」
余りの予想外の言葉に、思わず幸村が狼狽する。
「私は刑部とは違う。言葉のみの盟約を良しとし、腹の内の探りあいなどする悠長なことは好かぬ。貴様のもののふとしての誓いが誠かどうか…私が見極めてやる。その双槍を抜け!!私を家康だと思って斬りかかってこい!!」
一瞬、さすがの幸村も言葉のみの威圧だと思ったが――三成の真っ直ぐな、余りにも真っ直ぐな強い視線に、直ぐに悟った。
この御仁は、誠に裏表のない、某の心を見極めようとしている。と。
だが、嶋が至極静かではあるが、諌めるように年若き主君に進言した。
「成りませぬ、三成様!此処は城中に御座います!」
「止めるな左近!」
「いいえ、もしも西軍総大将であらせられる御身に万が一でも――」
「…左近、まさか貴様、私がこの甲斐の若虎に――」
「在り得ます」
嶋の毅然とした言葉に、三成がくしゃり、と切れ長の大きな瞳の下に皴を寄せ、くっと息を吐いた。
「では命ずる。嶋。お前が私の代わりに見極めろ。この、真田幸村の本心を」
だが、三成の命に絶対の服従を誓う親衛隊長は――ふ、と戸惑ったままの幸村を一瞥した後、こう云った。
「…三成様の命いえど、出来れば御免被りたい所存に御座いまするな」
「――何?」
「もし私と真田殿が合間見えれば…恐らく、左近の首と胴は離れ離れとなりましょう」
とてもそら恐ろしいことを云いながらも口元に少し楽しげな笑みを乗せて、嶋が三成に答える。
「…左近、それは本気で云っているのか」
「左近が今まで三成様をこのような場で、からかったことがありましたか?」
静かに応える嶋の言葉に、三成がぐ、と口をつぐんだ。
「――強う御座います」
はっきりと。強く短く、石田三成親衛隊隊長であり、豊臣軍の中でも筆頭筋のもののふは、よく響く低い艶のある声音で断言した。
「真田幸村、日の本でも無双を争う位置に在られるもののふでありましょう」
そう云いながら、嶋は今一度、紅き風を纏う若武者に向き直って。
「貴公は、あの奥州筆頭、独眼竜伊達政宗の唯一絶対の好敵手と聞き及んでおります。そして、何よりも…貴公の其の、曇り無き眼差し。己を偽ることの無い、無垢なる者の持つ光、と私はお見受け致すが」
「…そ、それは…」
躊躇いがちに、だが嶋から与えられた賞賛の言葉に、幸村の頬が僅かに上気する。
「貴公は、己にも他人にも――」
嶋が其処まで云った時。
「黙れ、左近!もうよい!他の人間がこの男をどう評していようが知ったことではない!!私は…私以外の眼を…心をもう、信じぬと…あの時、決めたのだ…!!」
「…三成様…」
三成の痛切な言葉に、嶋ももう返す言葉を失った時。
「――あい、分り申したッッ!!」
ザンッ!と。
幸村が背中に背負った双槍を両手に構えながら、勇ましく三成の眼前に舞い降りた。
「某が同盟に値するもののふであると…この真田源次郎幸村、西軍総大将石田三成殿に今、示してみせましょうぞ!!」
炎を纏うかのような幸村の気迫に、三成が顎を上げてく、と笑った。
「そうだ、それでいい…秀吉様の御威光を再び世に知らしめる礎に相応しいもののふかどうか…私に示して見せろ!!真田幸村ッッ!!」
三成の叫びを合図に、二人は共に獲物を構え、獣のように睨み合った。
「…三成様ッ…真田殿…!!」
嶋も――既にこの場を収めることは不可能と覚悟したのか、回廊の縁、一歩じりりと下がると、容の良い唇をく、と噛み締め若き荒武者達を瞬きもせず――見守った。

静かな、戦城とは思えぬ程に静かな月下に。

先に動いたのは、幸村だった。
「――うぉおおおおッッ!!」
その槍の切っ先が摩擦で炎を纏う程の疾さで、幸村は一気に三成の懐へと飛び込んだ。
「――ッ!!」
思いもよらぬ先制に、大太刀でその切っ先を受け止めながらも三成の足元が地面にめり込む。

――疾い!!

しかも、重い。
がっがが、と幸村の渾身の火走を受け止めながら、三成は一瞬で嶋の言葉が決してこの男を買被っていたのではないと察した。

――強い!!

だが、三成も幸村渾身の一撃を受け止め、其の勢いが止まった瞬間を逃さず素早く壱撃、弐激、と抜刀する。
紫の弧円が、すかさず後退する幸村のなびく後ろ髪を散らした。

――疾い!!

幸村もまた、目の前の“凶王”足る男が其の名に相応しい力量の持ち主だと一瞬で悟った。
「…だがッ…」
じりり、と双槍を構えなおしながら、幸村は知らず知らずの内に呟いた。
「軽いッッ…!!」
この手合い――刹那の居合いを得意とする手合いを、幸村は知っている。其れは、其れこそが己の敬愛する師であり主君である男の好敵手の、闘い方であったな、と。
疾く、軽やかに。
だからこそ、相手は手数で勝負をしかけてくる。
幸村がそこまで頭を巡らせている間に、三成は既に刹那の速さで一瞬にして幸村の懐に飛び込んできていた。
「――慙悔ッッ!!!!」
紫色の無数の刃の軌跡が、幸村の槍の柄を叩き割る勢いで繰り出される。
「くっ…!!」
だが、其れだけに留まらず、三成は持ち堪えるだけで手一杯になった幸村に更に追い討ちを仕掛けてきた。
「――シッ!!」
瞬ッ…と一瞬三成の体が後ろに揺らめいたかと思った次の瞬間には、三成は半月の軌道を描き幸村の守りをがきぃいいッ…と崩して。
「――どうした!其の程度か甲斐の若虎よ!!貴様の家康への闘志は其の程度か!!」
嘲笑うかのように高慢な響きで、三成が既に次の手を構える。
「――笑止ッ!!」
だが、幸村もまたその合間を待っていたかのようにザンッと地面を蹴りつけると、空中高く舞い上がった勢いのまま、居合いの構えの三成に
「鳳凰落ッッ!!!」
と重い双槍の一撃を浴びせた。
「クッ…!?」
「三成様!!」
思わず、嶋が声を荒げる。
「槍の使い手だと油断召されるな!!疾く、重い手合いに御座いまするぞッッ!!」
「…云われなくともッッ…!!」
次の瞬間、三成がすかさず繰り出した“断罪”の円弧は、空中の幸村の鳩尾を見事に足蹴にして見せた。
「――ぐあぁ!!」
口から反吐を吐きながら、幸村がそのまま地面に叩きつけられる。
「――舐めるなッッ…!!」
三成がぎりり、と歯を噛み締めながら、紫の波動を一身に集束させていく――
「ふっ!!!」
刹那の居合いが一瞬にして幸村の懐へと再び潜り込んだ次の瞬間、三成は慙悔の嵐を浴びせたが――
「其の技ッッ…」
紫の無数の刃の軌跡の向こう――幸村はしかと、双槍で三成の無数の剣戟を受け止めていて。
「一度見た技なれば!!」
ガキィイイイッッ!!!
鋭い鋼を打ち砕く音が響けば、三成はズザアアアアッッ…と地面を舐めるように転がされていた。
「なッッ…」
弾かれた。渾身の、無数の居合いを――?
三成が眩暈のする頭を横に振った瞬間、過ぎったのはその双槍の切っ先に炎を纏わせ大きく身を捩る幸村の姿――
「――千両花火いっぃッッ!!!」
炎を纏った渾身の一撃は、とっさに大太刀で防ごうとした三成の体勢を容赦なく打ち崩した。
大技の勢いで揺らぐ幸村はそれでももう一度、屈することな両の足を地に踏ん張って、きりきりと周りの空気を紅に染め上げ――
「…徳川…家康ッッ…!!!」
ぎりり、と。
其の口から、甲斐の、武田の宿敵の――そして、主君に叛乱の狼煙を上げて天下を狙う男の名が漏れたのを、三成は見た。
「俺はッッ…」
紅き風が、ぶわっと幸村のざんばらに刈りこまれた髪を逆立てた。
「負けぬぉおおあああああああ!!!!」
炎を纏い、幸村渾身の虎炎が放たれようとした其の時、三成もまた、「…家康ッッ!!!」とガッと力強く大太刀の柄を引き放ち――
「――さッッッ!!!」
どちらの技が、届くはずだったのだろう。
だが、その渾身の打ち合いは、ふたつの切っ先によって遮られた。
二人の刃が交わる前に――
二人の目の前に、闇色の手裏剣と、氷を纏った重い、だが速い波動が立ち塞がって。

「――なにやってんだ!!大将ッッ!!!」

幸村が我に返ってその声のほうへ振り返れば、手裏剣を投げたままの姿勢で眼を見開きこめかみに青筋を立てる、己が影、猿飛佐助がいつの間にか姿を現していた。
「アンタも!!ちゃんと自分とこの大将の面倒くらいみとけよ!!」
ばっと。佐助が今度は、大太刀を引き抜き氷の波動を放ったままの姿勢で歯を食いしばっている嶋左近に詰め寄った。
「だからこうして止めに入った!」
「おっそいよ!!っていうか、アンタら皆あの石田の大将に甘すぎだわ!!うちの旦那になんかあったらどうしてくれるつもりだった!?」
「も、もうよい、佐助ッ!」
よろよろと、ちらりと肩膝をついたままの三成を見やってから、幸村は佐助に向かって声を掛けた。
「お、俺が悪かった、己の立場も顧みず…」
「ほんとだぜ!いいかい、一兵卒の気分は捨てろって俺様何度大将に云いました?ねえ云ったっけっっ!?」
本当に怒って――いや、案じているのだろう、声を荒げる佐助に向かい、幸村は不思議な安堵を感じつつ「すまん、すまん佐助」と繰り返していたが。
「……真田…幸…村…」
そう、低く呟きながら。
ゆらり、と背後で立ち上がった三成の気配を察し、慌てて幸村はその細い体躯を支えた。
「も、申し訳ありませぬ、三成殿!」
「…何を、謝る」
ゆっくりと。幸村と視線を合わせながら、三成は静かに刀を収めながら、真っ直ぐに幸村の明るい茶色の大きな瞳を捕らえた。
「しかと見せて貰った。貴様の、闘魂を。甲斐の虎の魂を受け継ぐ者よ」
三成の言葉に、幸村が息を呑んだ。
「貴様の瞳の先に、家康の姿が在った。私は…貴様を信じよう」
「三成殿…!!…」
三成の細い肩を両手でしかと支えながら。幸村は感極まって、クッ、と嗚咽した。
「――嶋。真田幸村が御大将に大坂城の全見取り図をお渡しせよ。陽が昇ったなら、私が案内しよう…この、秀吉様の遺された“絶対不落”の戦城を、な」
「三成殿…ッッ!!」
既に涙を滲ませる幸村の様子に三成は少し脱力して、改めて目の前の自分より小柄な――だが、焔の如き熱き魂と強さを持つ若虎を見やった。
こうしていると、とても自分より年上、とは思えぬ程に純真無垢な若者なのに。
一体何処から、あの力は沸いてきているのだろう、と。
「――では、三成様。よろしければ早速こちらの副将、猿飛佐助殿に見取り図をお渡ししようと思うのですが」
しばし二人の様子を見守っていた嶋が、静かな、微かに笑みを含んだ口調で三成に問うてきた。
「あ、ああ」
「猿飛殿、ご足労願えるか」
嶋の言葉に、佐助が「…ま、こういうのは早いほうがいいしね」と肩を竦めると長い黒髪を鬼の兜から靡かせる嶋の後ろに並んだ。
「そうしたら。猿飛殿に見取り図をお渡しした後、私が真田殿を寝所までお送り致します故。暫し、此処でお待ち願えますか?」
ふいに振り返った嶋の言葉に、幸村も「しょ、承知」と慌てて答えた。
すると大坂城の磨き上げられた回廊、うっすらと月明かりとあちこちに燃え盛る松明でぼんやり光る場所に、三成と幸村二人が取り残される形となり。
三成が黙って回廊の縁に腰掛けた後、「…貴様も座れ」と幸村を促すのを、佐助は嶋の後ろに続きながらちらり、と見やって、其の後幸村がなにやら熱心に三成に話しかけだしたのを渋い顔で見ていた。

どうせあの熱血漢のことだ。
“あの技は凄かった”やら“どういう鍛錬をしているのだ”とかしか、
訊きだしゃしないんだろうなぁ

と、心の中で溜息を吐きながら。
嶋はというと、美しく背筋を正しすたすた歩きながら、佐助に向かって悪びれもなくこう云ってみせた。
「よう御座った。御二人は歳も近しい。あの手合わせが三成様と真田殿が打ち解けてくれる切っ掛けとなってくれれば、この嶋も安心というもの」
「……」
佐助は冷ややかな視線で、目の前の黒髪を靡かす長身の武者に云った。
「アンタ、止める気なかったっしょ」
大坂城を連日密かに探索し続けていて、先程も際立つ闘氣に気付いて慌てて駆けつけたものの、佐助はあの果し合いを途中からしか見届けることが出来なかった。だが、この武者が本気になれば、止めることは可能だった筈だ。
佐助の問いに「……」と沈黙で以って答えて。嶋は「真田の御大将は、まこと、純真無垢な瞳の持ち主。善き主君でありましょうな」と、静かに微笑んだ。
「云っとくけどね」
やれやれ、大谷刑部以外にも、こんな曲者が傍に居るとはねぇ、と心の中で嘆息しながら。佐助は改めて低い声音で面倒くさそうに云い放った。
「確かに俺達武田軍、義を通して西軍に入らせてもらったけれど。俺様の目の黒いうちは、うちの大将をアンタらに駒扱いさせる気、ないからね」
「――畏れ多い」
はは、と嶋が低く、艶やかな男らしい声で笑った。
「真田殿はきっと西軍随一の将と百年、いや三百年後も語られる器の持ち主でありましょう。我らは其れをこそ、歓迎致しますれば」

――喰えないねぇ

嶋の言葉に改めて佐助は「こりゃ、俺様しばらく時間外労働出ずっぱりだわ」と、眉をしかめた。




「――お、お怪我などは」
其の頃。肩を並べる形となり、三成の隣で少し緊張しながら。幸村は静かな横顔のままの三成に、堪らず声を掛けていた。
「いや、気にするな。それより、貴様のほうこそ」
三成が顔を上げて、幸村と視線を合わせた。
今まで見たことのないような、揺れる月影に染まる淡い苔色の双眸に、幸村が一瞬魅入られる。なんと美しい瞳の持ち主か、と。
「…どうした?」
思わず見惚れていた幸村に、三成が不思議そうに眉を潜めた。
「――いっ、いえ!某もそれ程の深手は負うておりませぬ、そうなる前に止めに入ってもらって、ほんにようござった…佐助秘伝の塗り薬を貰えばなんということはございません」
「そうか」
ふ、と三成が、今までの剣幕が嘘のような静かな表情で頷いた。其の儚げな白い面に、思わず幸村が呟く。
「…三成殿は、何故に…」
「――ん?」
「あっ…いえ、大坂城へ入って以来、このように近しい距離でお話しする機会もありませんでした。遠目に見ていた貴殿は、常に厳しい眼差しで…」

こんな、線の細い儚げな御仁だったとは。

さすがにそうは声に出せずに、幸村は
「…義を背負い、仇を討つ御身成れば、致し方のないことでござる」
と、神妙に呟いた。
「…真田、貴様…」
「――徳川、家康」
其の名を強く発すると、幸村はき、と虚空を睨み付けた後、三成に向き合った。
「主君に叛旗を翻しただけでなく、其の命を奪い、密かに反豊臣派の外様大名達と結託し、あっという間もなく、天下統一を謀るとは」
幸村が苦しそうに、俯きながら声を絞った。
「…太閤秀吉公と徳川殿の間にどのような軋轢が有ったかは、某には図りかねまする。しかし…もし、某が三成殿と同じ立場であったなら、とても」
ぎゅ、と。
幸村が、赤い皮に包まれた拳を膝の上で握り締めた。
「とても…軍を率いられる心持では居られぬと、思います…」
「真田…」
三成が大きな切れ長の瞳を見開いた。
「もちろん、太閤殿を身内の手によって奪われた、三成殿の苦しみや悲しみ…すべて理解出来るとは思ってはおりませぬ。しかし、某もお館様…信玄公が同じ武田の家臣による裏切りで命奪われたとなったら…とても、とても、正気では居られぬやもしれませぬ…」
俯いて拳を握り締める幸村の様に、三成はふ、と自分と同じ影を感じていた。
そうか。もしかしたら――
「…私は幼い頃、石田の家より“子飼い”として大坂に連れてこられて以来、秀吉様と半兵衛様によって育てられた。私にとって、秀吉様は主君以上で、親以上の存在であった。真田、貴様にとって信玄公は、そういう存在か」
「――はっ!!そうでござる!!」
ぱぁあっと。
其れが云いたかったのだ、と顔に顕わにしながら、幸村が勢いよく首を縦に振った。
「某もしがない武家の出でござったが、お館様に拾われて以来、それはそれは熱く、厳しく、心も身体も鍛えて、育てて頂きました!三成殿にとっての太閤殿は、きっと某にとってのお館様なのでござる!!」
きらきらと輝く大きな瞳で詰め寄られて、さすがの三成も気圧されしながら
「そ…そうか」
と、頷いた。
「貴様が…そう云い切れる程に、信玄公は情深く育ててくださったのか」
「はッその通りでござる!お館様はそれはそれは情の深い方にございますればッ!!某、いつも鉄拳による教鞭で以って、己の未熟さを正してもらっておりもうした!!」
「て…鉄拳?」
三成の顔が、一瞬強張る。
「はッッ!こう、ガツーンッッとッッッ!!!!」
「…殴るのか」
「はい!!それにて某の性根が叩きなおされるというか…」
「……」
三成は眉間に皴を寄せ、独り言のように呟いた。
「…私は秀吉様に、そのような無体をされたことはないぞ…」
「は?」
「…いや…甲斐の若虎よ、私は貴様は武田の跡目を継ぐ者と聞き及んでいたが、本当にそうなのか」
「…そう云われますと、身の縮む思いではありますが…今、某は甲斐武田軍総大将でありまする」
まっすぐな瞳でそう云われると、三成もぐ、と言葉を詰まらせるしかなく。
だが――
「…私も豊臣筆頭を担う為、幼き頃からもののふとして強く在れ、と育てられた、が…」
秀吉の大きな掌は、自分の頭を撫でてくれることはありはしても、決して“殴る”、などしなかったし、半兵衛の細い腕は、いつも幼い自分の背を撫でてくれる為にあった。
殴る、などという行為は、三成にとっては折檻以外のなにものでもないように思えたのだ。
「幾ら、教示の為とはいえ、殴るなど…随分と粗野な行為ではあるまいか…」
三成の呟きに、きょとん。と――大きな茶色の目をぱちくりさせた後、幸村は――豪快に笑ってみせた。その様に、三成はますます眉を潜めるばかりで。
「はっはっはっ…そ、そうでござるなぁ…ううむ…三成殿はその御歳で豊臣軍筆頭を、西軍総大将を担うような御方。きっと、幼い頃より聡明であらせられたのでしょう?」
幸村の問いに、三成は戸惑いながらも「…そうであるよう、努力はしてきた」と、答えた。
「某はいかんせん、頭で考えるよりも先に身体が動いてしまうので…こう、ガツーンッッ!!とッッ!!やるほうが早う教えられると、お館様は思われたのかもしれませぬなッ」
けろっと。明るく――夜を照らす松明のように笑って見せる幸村の様子に、三成が
「…そうか…」
と、静かに呟いた。が、やはり心中では「(…しかし、殴られるなど…やはり…)」と戸惑いを隠せず――何分、半兵衛に至っては「躾は言葉で出来るもの」と断言し、褒めることしかしないような育て親たちの元で大きくなった三成にとっては――
「貴様も、苦労をしてきたのだな…」
と、凶王の台詞とは思えぬ言葉を。それどころか、微かに同情の色さえ浮かべた顔をして見せて。
「いいえ、苦労などとは思うておりませぬ、お館様が与えてくださった鉄拳や試練で、某ここまで成長出来たのでござる!!」
うん、とにっこりと頷くと、それから――ふっと思い出したかのように
「…お館様が病に倒れられただけで、某は心波立つ日々を送っております…情けない。佐助や皆を心配させないよう、三成殿のように毅然と、大将として振舞えるようになりとうござる」
と。呟いて。其の様子に、三成は――この男が、ほんの少し前までまともに言葉も交わさずに居た自分にあけっぴろげに己の身の上や心内を話すことに、言葉を超えたところで――分かち合えた気がした。心、を。
「――真田幸村」
凛とした声音で彼の人を呼ぶと、三成は真っ直ぐに、其の明るい茶色の瞳を見詰めた。
「はっ…!」
幸村も慌てて、居を正して三成の苔色の瞳を見詰め返し――
「私は、貴様を信じている」
「…はッ…!!」
「私は、貴様を裏切らない」
「はッ!!」
「…故に…貴様も、私を…裏切るな」
「――三成殿、武士に二言はありませぬッッ!!」
力強く、幸村は答えた。
「某の不徳はお館様の恥!ですが何よりも、三成殿の太閤秀吉公への忠義に順じ、この真田幸村、命の限り西軍の要石と成って闘い抜いて見せましょうぞ!!」
いつの間にやら固く両手を包まれて、三成はもう一度「絶対裏切るな」と云おうとしたことさえ忘れてしまった。
「信じてくだされ、三成殿!!」
「………」
明るい太陽のような笑み――其処に、ふっと、かつてこのように笑いかけてくれていた男の面影を見た三成は、一瞬息を止めて。
慌てて幸村の手を振り払うと、大太刀をぱしりと握り、幸村に背を向けた。
「…明日、使いを遣る。私は口約束も破らない」
「はっ…そうでござったな!では、明日は共に大坂城を見て周れるのでござるか。ほんにいたみいる」
幸村も続けて立ち上がると、三成の横に何の迷いもなく並んで共に歩きだした。
「三成殿、もし明日も東軍に動きなし、軍議も大事なく終わったならば、某と共に佐助の団子を食しましょうぞ!」
「――団子…?」
すっかり気を許した幸村の無邪気なことに、さすがの三成も呆れたように言葉を返す。

本当に、なんて単純な――真っ直ぐな男なのだろう、と。

「はっ、佐助は何でも卒なくこなすのでござるよ。あれの作る団子はほんに美味であれば!きっと三成殿も…」
「…そんな暇まであるわけなかろう。と、いうか真田、貴様副将にそんなことまでさせているのか?よいか、大将ならばもそっと…それより嶋が…もうよい、私が寝所まで連れて行ってやる、来い」
「ああっ!か、かたじけのうござる!…」


沈み往く半月がそっと、藤色の羽根を纏う背と、六文銭の紋を縫いつけた紅蓮の背中を照らしていた。
不器用ながらも、お互いによく似た影を持つ、二人の若者の背を。


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ゆみのや

Author:ゆみのや
戦国BASARA3の石田三成にぞっこん一目惚れいたし
こっそり応援し隊所存にございます。

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