BASARAの石田を幸せにし隊。

戦国BASARA3の石田三成をひたすらに応援するこっそり避難ブログ

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むかしばなし

究極絵巻の信長倒しました☆記念SS、UPです…
なんぞあの人外…って魔王でしたね、そうでした。

家三、というか、たけちよとさきち。
夏は終わってしまいましたが、夏のお噺。
やたら三成が美人扱いされているのは、権現フィルター透過視点なのでご勘弁。

おさなごのあいらしさをひらがなであらわそうとしたのですが、
けんしんさまのやうにひらかなをうつくしくつかいこなすのは、
なかなかどうして、むつかしいものでせうね。



何気なく、拠ってみただけだった。
太閤秀吉の御威光は日の本に如何なく降り注ぎ、各地にまだ不穏分子は残るものの、取敢えずの“天下泰平”は成されたのだから。
自軍の用立ても最近は手を煩わすような大事も無い故、何気にふらり、と夏の強い陽射しから逃れる為に、幼馴染の庭に寄ってみただけだったのだが。

息を呑んだ。

濃い緑の影の中に、甲冑を脱いで涼しげな本紫の唐風の衣装を纏い、その上から女物の薄く天女のような羽衣を被った、毛色の白い細い影が、じいっと鬼百合と対峙しているのを見止めたから。

一瞬、本物の天女かと想ったのだ。

だが、すぐに其れは見知った幼馴染の影だと解り、つくづくその美しさに感嘆する。
よくもまあ、ああ生まれつくものだ、と。
三成、と呼びかけようとして、止めた。
鬼百合の咲き具合を吟味する其の横顔の美しさを、崩したくなかったから。
そろり、と足音を忍ばせて、薄桃色の羽衣を纏った背中に近づく。
思わずその背をままに抱き寄せたい衝動を抑えながら、首だけを白い横顔に並ばせた。

「綺麗な黄丹色だな」

そっと耳元で囁いてみれば、本当に気付いていなかったのか、纏っていた羽衣が落ちそうな勢いで、彼の人は自分の山吹色の瞳を振り返った。
きつい夏の日差しが、其の白い顔に強い陰影を創りだす。
片方は濃く暗い緑影であるのに、もう片方の陽に当たる目は、熔けそうなくらい淡い苔色となるのだ。本当に珍しい毛色だと、家康は想う。
そして、心から“美しい”と。
「――いつの間に」
微かに発せられる声音は既に成人した男の声音ではあるものの、紫苑の影を潜ませる銀髪の下のか細い面は恐らく――今まで逢ったことのあるどの美姫たちとも匹敵しよう。
「ん、いや、最近暇でな」
見当違いな答えをしながら、家康はそれでも、目の前の細面を見詰めずにはいられなかった。
幼い頃からそうではあったが、本当にこの男は美しい。
其の応えに「はあ」と大仰に溜息を吐きながら三成――は、己を強い陽射しから守る透明な薄い羽衣を喉元に掻き寄せてすっぽりと、顔を隠した。
「貴様が一国一城の主とは、到底思えぬわ」
「いや、それもお前の親御に獲られたし」
「秀吉様と半兵衛様は私の親御ではない!何度云えば分かるのだ」
「同じようなものだろう」
「そんな、畏れ多い!!私は…石田家からの子飼いに過ぎぬ…」
伏せられる黒鳶色の長い睫毛に、微かに憂いが混じる。
そんなことあるものか、と声に出しそうになり、家康はぐ、と口を噤んだ。
半兵衛からの溺愛を見れば誰もが「三成殿こそ次の豊臣を継ぐのだろう」と云われもすれば、「何故近江のぽっと出の、田舎の小僧が」と云う――陰口さえも。
此処、大坂城で三成に降り懸かる羨望と嫉妬は数知れず、それでもこの城から滅多に出られることはない、足に枷をはめられた白い鳥のような彼に、何を云えば慰めになるであろう。だからこそ、半兵衛は与えたのだろう。幼い頃から物云わぬ花々の健気さと美しさを愛でる彼に、この広大な庭を。好きにしてよい、と。
俯く三成の前でバリバリと逆立てた黒髪を掻き揚げながら、家康は目を泳がせて――それでも傍に居たくて、言葉を続けた。
「――あー、それよりなんでそんなの被ってんだよ」
「陽射しがきついのだ」
三成は忌々しそうに、夏の太陽を睨みつけた。
「知っているだろう?私の肌は色が薄すぎて、すぐ灼けてしまう。痛い」
そっと自分の白い腕を撫ぜる三成の伏せられた長い睫毛に魅入られながら、其の言葉の続き待つ。
「そう云ったら信乃が、これを被っておれと呉れた」
ふわりと、かつての乳母が呉れたという羽衣の袖をいたずらにひらひら踊らせてみながら、三成が応えた。
「女物は嫌だと云ったのだが、まあ無いより良い」
多少は陽を避けられる、と続けながら、三成が首筋に伝う汗をはあ、と息を吐きながら羽衣で拭った。
「…不思議とな。暑いと、花々はよく育つのだ。ほら、今年の百合は大輪であろう?」
小首を傾げながら、三成が羽衣の袖で鬼百合の雌しべをつついた。
「ああ、見事だ」
そう家康が云うと、三成はふふ、と珍しく得意げな、幼い笑みを浮かべた。
「球根から御嶽山から取り寄せてな、土も山から持ってこさせた。それから陽射しがあまり当り過ぎないように…」
朗々と語りだす三成の顔の生き生きとしていることに、家康は驚いた。
まさかここまで心砕いてこの庭を創り出しているとは、思わなかったのだ。普段、剣技の修練に太閤検地、任されている近江地方の政などの量を思えば、てっきり庭師の彦左翁にほとんど任せておるものだと、家康は思っていたから。
「――お前はもののふよりも、庭師のほうが向いておるやもなぁ」
冗談半分で笑いかけてみれば、苔色の眼が丸くなって。
「そうやもしれぬ」
ぽそり、と呟くと、三成は音も立てずに庭の奥へと歩を進めだした。
その後ろに、家康も続く。
ちらり、と羽衣の向こうから白い横顔がこちらを窺ってきたが、何も云わずにいるところを見ると、拒否されてはいないのだろう。
やがて桑の木や楓、樫などの、木肌の美しい林の隙間に流れる小さな清水の小池に辿り着き、三成は無造作に脚絆を脱ぎ捨てると、ふわりと苔の生す岩に腰掛けて、裸足を冷たい水に遊ばせた。
其の姿は益々、天があまりに暑いので、戯れに木陰に降りて来た天女のようで。
家康は思わず、遠い記憶――そう、未だ自分が“竹千代”で、三成が“佐吉”だった頃も――確か、同じような想いを抱いたことを、鮮明に白昼夢のように想い出した。
そうだ、あの時もこいつは、こんな寂しい背中と無防備なうなじを晒していた。
だから、想わず――自分は――

「…もしも、私に剣の才も、政の才もなかったら」

清水に足を泳がせる三成が、ふ、と問いかけてきた。
「え?」
「…竹千代」
たけちよ、ともう一度彼の人の名を呼んで、そして三成は静かな横顔を木立にきらきら踊る光に伏せた。
「――佐吉、どうした?」
その隣に自分も「っしょ」とあつぼったい具足を脱ぎ捨て、裸足を清水にちゃぷりとつけながら、家康は幼馴染の顔を覗き込んだ。
苔色の瞳だけがそろり、と動いて、山吹の明るい眼をじぃ、と見詰める。
「…もしも私に剣の才も、政の才も無かったら…秀吉様と半兵衛様は、私のことをお見捨てになったであろう…か」
無表情に。
だが、あまりにもか細く発せられた声と問いに、家康は思わず眉を顰めて、その小さな頭を抱き寄せたくなり――だがもう、自分達が子犬のようにじゃれあうことを許される齢ではない、ということに落胆しながら――胸まで上げた手を辛うじて留めて、代わりにふわり、と薄桃色の羽衣の淵をなぞった。
「何を云っているのだか」
苦く笑いながら、言葉を続ける。
「たとえお前が木偶の坊だとしても、竹中殿がお前を手放すものか。聞いた事があるぞ、お前の初陣が遅れたのは、竹中殿がお前が傷つくのを恐れて、戦場へ行かせたがらなかった故だと」
どんなけ可愛がられているのだか、と家康はからり、といつもの調子で笑ってみせた。
「………」
だが、三成は凍ったように――まるでその白い面にだけ冬が来たような――蒼褪めた唇で、続けた。
「――豊臣の子は、強くなければ、ならぬ」
うわごとのように、呟いた。
「秀吉様が、私が幼い頃、何度も云い聞かせて下さったお言葉だ」
そして今も、と。
「――私がお二人のご期待にそえるような働きが出来なくなったら、私は…」
ぎゅ、と。
白く長い蛇のような指が、羽衣をくしゃり、と握り締めた。
「私には、もう居場所がなくなるのではないかと、私は」
其処まで一気に吐くように――信じられないくらい細い声で呟いた後、三成は、はっと息を呑んで白く薄い手で、頬を覆った。
「…何を、惰弱な。私としたことが…」
「――三成」
それでも、夏の陽射しの最中、凍えるように羽衣を喉元に掻き寄せる細い影に、家康はそっと寄り添いながら、注意深くその顔色を窺った。
「お二人に見捨てられるようなことが、あるものか。其の為に強くなったのに。其の為に、数多の血潮を浴びてきたのに」
「…そうだな、三成」
そっと。
そっと、自分が隣に寄り添うことなどもう見えていないかのように、遠く、遠くを漠然と見詰める苔色の双眸に崩れそうな儚い心が揺らめくのを、窺いながら。
家康が三成の薄い肩に、手を置いた。
「私は、豊臣の…」
そこまで云った後。
三成は「は」と声に成らない叫びを吐いて、己が肩を抱こうとして――
やっと、其処に家康の手が在ることに、気付き。
自分を真っ直ぐに見詰めている山吹の輝きに息を止め、次にやっと
「竹千代」
と、幼い頃に使っていた名で、彼に呼びかけた。
其の手を重ねて、少し力を込めてみながら。
幼い頃から変わらぬあたたかさに、いつも纏っている刃のような空気が霧散していくのを、感じながら。
「三成、お前は豊臣の子だ。秀吉公の左腕だ。今までも、これからも、ずっと。お前が一生懸命なのを、お二方はちゃんと見てくれているじゃないか」
其の言葉に、三成が眼を見開いて山吹の瞳を見詰めた。
「……そうか」
呆けたように。
三成の薄い唇から、力ない言の葉が漏れた。
「そうだ」
力強く頷きながら、家康がいつもどおりの太陽のような笑顔で応える。
白く節だった冷たい指を、握り締めながら。
「先の中国での毛利方との交渉も、何の卒なく勤め上げてきたではないか。いや、儂は密かに案じておったのだ、毛利の高飛車、上から物云う態度にお前が激昂してはいないかと、冷や冷やしておったのに。太閤殿が“石田三成は頭の切れる将だ”と他の者達に珍しく声高に話しておるのを、儂は聞いたぞ」
「秀吉様が!? し、しかし…あれは、刑部も居ったゆえ…」
「えーっと、じゃあお前の近江検地、あれ上手くいっているらしいな。近江の農民達はえらくお前に感謝して収穫高も増えているって、大坂でも評判いいじゃないか」
「…幼い頃までとはいえ、故郷だ。愛しく思わば、地の利を生かそうと、私なりに民の声を訊いてまわって…」
「うんうん」
相変わらずの笑顔で頷く家康を見やり、三成は僅かに頬を染めながら、今はもう、しっかりと繫がれている手を、自分の腿に下ろした。それからすっかりやわくなった顔つきで、遠慮がちに続ける。
「…約束は果たされるべき。書に記し誓を立てれば、皆が喜んでくれた。院となられた母上も、父上も…」
「ほらな、お前はちゃんと豊臣の重臣として立派にやれておる。なにを不安に思うことがある?」
からからと笑う家康の明るさに、三成は完全に呑まれて不思議に想った。
何故。何故、君は。
「…なんで、貴様がそこまで私のことを把握しておるのだ」
ふ、と。
いつもどおりの刃のような切れ長の瞳で、三成が突拍子もなく家康に問うた。
「――は?」
家康の笑顔が、そのまま固まる。
「…いや…」
三成が握られた手を解こうとして、解けないことに「?」と戸惑いながら自分の手を放さない男の顔を見上げた。
「なあ、佐吉」
バリバリと。
三成の銀糸とはまったく正反対の、男らしい固い黒髪を掻き揚げながら、家康は小さく、呟いた。
「――儂がお前の心配をするのは、可笑しなことだろうか」
その男らしい骨の太い横顔と鼻筋を。少し拗ねたような幼い表情を、今度は三成が覗き込みながら。それでも、どうしても解らなくて、三成はもう何も云えなくて。
「…確かに儂は一度は豊臣に弓引いた身だが、今は…」
「…別に今は、そんなことを訊いているの、では」
それから二人はしばらく押し黙っていたが、繋がれた手はそのままで。
「――お前、“佐吉”だった頃にも、ここで同じこと云ってたなあ」
家康が遠く想い出を手繰り寄せるように呟いた時、どこかでピイ、と鷹が啼いた。
「…私が?」
三成がついと細い顎を上げて、木漏れ日に眉を細めながら記憶を手繰りだした。


   できなかったから
   ――さまを がっかりさせてしまったから


「…あ…!」
三成が、空いているほうの手で思わず口を覆った。
「あの時…!」
見開かれたみどりの眼が自分と同じ、幼いあの頃の記憶を思い出したことに気付き、家康がにっ、と笑った。
「思い出したか!」










むかし、まだ三成が“さきち”で、家康が“たけちよ”ぎみだった頃。
その“たけちよ”が織田家に置き去りにされるかたちで、松平家より預けられていた頃。
一時だが、危うい均衡を保つため、織田方から更に“客人”扱いという名の人質として、豊臣方へ預けられていた短い頃。
大坂城は今ほど大きく絢爛豪華ではなかったものの、着々と力を蓄えつつある若き秀吉と半兵衛の拠点として、同じ様に在った。
其の頃、近江から貰われてきた幼い佐吉と竹千代は、主である秀吉が戦で留守にしている間は、好きなように城中駆け回ったものだったが。
或る日、いつものように竹千代が佐吉の部屋へばたばたと尋ねていくと、彼の乳母(めのと)の信乃が侍女たちにめずらしく声を荒げているのが聴こえてきた。
「そちらは、なにをしておったのじゃ」
「申し訳ありません」
「厠くらいひとりでゆけると、お譲りにならなかったので」
「佐吉殿が一度、庭に迷い出て古井戸に落ちたことを忘れたか?あの時の半兵衛様のお怒りようといったら――」
そこまで廊下の角で立ち聞くと、竹千代はつむじ風のように走り出した――
例の、“迷子になったうえ古井戸に落ちて、半兵衛が侍女達に留まらず家臣一同に「この子は石田家から預かり受けている大切な子だというのに」と怒り心頭して秀吉まで呼び出し、彼から直々に家臣達を叱咤させた――広大な庭”、に。



あいつがこういうときどこら辺に隠れるか、ワシはしっておる。

ワケのわからない自信で、竹千代はあまり手入れのされていない、庭というよりは水堀沿いの角のほう、高い木々が生い茂り、自然の清水も湧き出でる場所へとざくざく踏み入っていった。
そのうち、池のほとりであきらかに落ち込んで膝を抱える――毛色の真白い佐吉を見とめ、「ほ」と小さく安堵の息をつくと、大きな声で「さきち!!」と彼の名を呼んだ。
が。
ちらり、と肩越しにこちらを見やると、佐吉はまた膝を抱えてぐすぐすと――泣いているようだった。
一体どうしたことだろう。
今日は確か秀吉と半兵衛が遠征先から戻ってきたはずだから、すっかりご機嫌だろうとばかり思っていたのに。
竹千代は「??」と首を傾げながらも、遠慮なしにその背に近づいたが――その、余りに頼りなく寂しげで、きっちり刈上げられた銀の髪のしたの白い首の美しいことに、ぐ、と手を止めて
「…どうした、さきち?」
と、おそるおそるもう一度、其の名を呼んだ。
「……」
ひっくひっく、としゃくり上げる声は聞こえるのに、肝心の自分の名を呼んでくれる返事がないことに、竹千代は業を煮やして
「もー、泣いてばかりではわからぬぞ!」
と、勇ましく佐吉の横に同じ様にしゃがみ込んだ。
「…た、たけちよ」
涙で濡れる苔色のまなこは、本当にびいどろ細工の璧(たま)のようでうつくしい。
竹千代はその目が好きだったが、こうびぃびぃ泣かれると、一緒に遊べないのでつまらないし、彼は佐吉がはにかむようにほのかに笑む顔を好いていたので、さくっとこの涙の理由を聞き出して、笑顔を戻そうときびきび問いだした。
「おのこがそのように泣くでないっ!っていうか、今日は秀吉どのと半兵衛どのがもどってきていなかったか?うれしい日ではないのか」
「…わたしが、きちんとできていれば、うれしい日だったよ」
すんすん、と。
上質な綿で丁寧に織られた着物の袖で涙を拭いながら、佐吉がやっと竹千代に向かい合いながら答えた。
「? なにが…きちんとできていなかったのだ?」
「しゅ、珠算の手習いと、漢詩の書き写し…」
「…それは…えっと」
「半兵衛さまから、“僕が戻るまでにきちんとやっておきなさい”っていわれていたのだけれど、わたしはきのう、おとといと、はらがいたくて、ぜんぶ、できなくって」
そこまでやっとの思いで云うと、佐吉はまたぐずぐずと膝を抱えて泣き出した。
その健気な様子に、竹千代が溜息を吐きながら、それでも優しく頭を撫でてやりながら、こう云った。
「そんなん仕方なかろう、お前本当に腹をこわしていたのだから!吉乃もそういってくれなかったのか?」
「いってくれたよ、でも、半兵衛さま、とってもがっかりしたお顔をしなさった。“そうか、まだ早すぎたか”って。それから“佐吉にはまだここまでは難しかったかな”って“お腹は大丈夫か”って、いってくれたけど、わたしは半兵衛さまのご期待にこたえられなかったのだよ」
うううう、と。自分の言葉でまたその時の哀しみを思い出してしまったのか、今度はびゃあああ、と声をあらわに、佐吉が泣き出した。
「半兵衛さまにあんなざんねんそうなお顔をさせてしまったからっっ…!わ、わたしは近江の石田の家に返されたらどうしようっ」
たけちよ、と、佐吉は竹千代に抱きつきながら、わんわん泣き続ける。
「たけちよとも、あえなくなってしまうっ…」
「あー、おめえ、それはねえからあんしんしろ…」
思わず三河弁になりながら、竹千代が佐吉の重みでひっくり返りそうになるのを必死で耐えながら、応えた。
「むしろおめえがいなくなったら、秀吉どのと半兵衛どのがさびしいんじゃねえのか?」
「…え?」
「あー、おめえだってわかってっだろ、お二人はおまえのこと、めっちゃかわいがってるぞ?」
「…そ、そうみえる?」
おずおずと。佐吉が竹千代の山吹色の瞳を覗き込む。
「おう!下手したら産みの親御どのより、いい思いさせてもらってっだろ。ワシは三河武士の松平家の“ちゃくなん”なんだぜ、いちおうな。そのワシから見ても、お前はそうとう、いい暮らししてんだ。させてもらえてんだろうが。秀吉どのと半兵衛どのが、おめえを大切に思ってるからだろ。そんなかんたんに、見捨てられる…ことはないよ、きっと…」


ワシみたいには。


そう続けようとして、竹千代はぐっと、その言葉を飲み込んだ。
その山吹の瞳に歳に似合わぬ憂いを浮かべる竹千代の顔を、今度は佐吉が覗き込む番で。
「…たけちよ、どうしたの?」
「――ん!?」
眉をひそめて本当に心配してくれているのだろう、佐吉の白い顔が涙に濡れたまますぐ傍にあることに気付き、竹千代は今度は本当にひっくり返った。
「たけちよ!?」
慌てて、佐吉が寄り添って頬に手までかけてくるので、益々どぎまぎする。
「たけちよ、ごめんね。だいじょうぶ?」
きらきらひかる木漏れ陽を背にする、この毛色の白い幼馴染を。
初めて、たぶん、きっと。
自分の頬がかあっと赤くなっていくのを悟られぬようにばっと勢いよく起き上がると、「だっだいじょうぶだっ!!」
と立ち上がり、それから――それから、佐吉の涙をぱっぱっ、と自分の着物の袖で拭ってやると、その白くちいさな両手をきゅ、と握って、真剣に――云おうとして、やっぱりできなくて、からり、とふざけるように、わらうように伝えた。
「そ、そうだなっ!!もしも、もしも秀吉どのと半兵衛どのがさきちを手放す時がきたら…そ、その時はワシがさきちをめとるから、案ずるな!」
「……たけちよ……」
その言葉に、佐吉が苔色の吊り目をまんまるに見開いて、固まった。
「あ、安心しろ、ワシもいくら武家の嫡男いえど…というか、もしもさきちをめとったら、側室などいらぬぞっっ!!」
「……た、たけちよ」
「“立身出世”もして、ここよりおおきな城を、さきちのために建てるぞ!!」
「た、たけちよ、あの、それは」
「…や、やはり、三河の田舎武家の子などとは…」
いやか?と拗ねたように呟いた竹千代の言葉にぶんぶんとかむりを横に振りつつも、佐吉はおずおずと――こう訊ねずにはいられなかった。
「たけちよ、わたしはおのこだよ…そ、それ、わかっている?おのことおのこでは、たぶん、めおとにはなれない気がする…」
その言葉に――竹千代が石のように固まって、それから。それから
「そ…そうだった…」
と、真剣に呟いた。
「いや、おめえそこら辺のおなごよりきれいだからよ…おおきくなったら姫さまになれるかも、とかワシ時々おもって…」
「…いや、わたしは…たぶん、それはない。と、おもう…」
だって、姫になってしまったら秀吉さまと半兵衛さまのために、いくさばに出られないし。
そう答える佐吉に対して「やっぱりワシより、お二人のほうがすきなんだな…」とがっくしと肩を落としながらも。
「ま、そういうコトだから!めとれなくても、さきちはワシがひきとるから安心しろっ!」
と、竹千代はからりと笑った。
その笑顔につられるように、佐吉もまたはにかんで。
「う、うん。ありがとう、たけちよ」
と、竹千代の自分よりちょっと厚みのある手を握り返し。
「…でも、やっぱりわたしは秀吉さまと半兵衛さまの――」
佐吉がそう続けて云おうとした時。

「――佐吉!!佐吉、どこにいるんだい…!?」
「半兵衛、そのように声を荒げては、返って佐吉が恐がるぞ」
「秀吉!何を云っているんだいッ!!今度こそあの子が大怪我でもしたら、僕は心配で城から出られなくなるよ!!本当に、早くここら辺も手入れさせないと…」

微かに、だが、その声音に普段滅多に無い焦りを滲ませた――半兵衛の美しい声と、秀吉の相変わらずの落ち着いた低い声音が茂みの向こうから響いてきて。
「秀吉さま!!半兵衛さま!!」
佐吉が驚いて叫ぶ。
「おお、そうだ、信乃らもおまえをさがしておったわ!」
「ほんと!?ね、たけちよ、たけちよのいうとおりだったね、秀吉さまと半兵衛さまが、わたしをさがしにきてくださった!」
「…うん、よかったな、さきち!」
それから二人は手をとりあって、半兵衛の声に「ここです、さきちはここです!」と走り出したが。
「でもよ、わすれんなよ、さきちっ」
「え?なに?」
「ワシは本気だからなっ秀吉どのにほうめんされたら、すぐワシのところにこいよ――…・・・」


やがて林の陰が途切れれば、彼の人の優しい腕が佐吉を竹千代から奪った、あの幼い日の――








「そんな頃が儂らにもあったよなー」
うんうん、と満足気に頷く“竹千代”――家康の横で――
ぐぁああ、と地の底から這い上がる様な呻きを漏らす成長した“佐吉”―――三成の唇に、家康は少し落胆した。
あの頃は、こんなに低い声になるとは想像もつかなかったのに。いや、充分美しく艶のある声ではあるのだが、いかんせんドスが利くと迫力がありすぎる、男の声だ。
「なー、思い出したか?だから安心しろよ三成、お前が…ありえないとしても、豊臣から放免されたら儂がお前を――」
にこにこと、それこそ太陽のような笑みを湛える家康に次の瞬間与えられたのは――
握り拳の洗礼で。
「ッ…ずぁッ…!!」
「――わっ童の頃の戯言などッッ…!!」
耳まで真っ赤になった三成が、羽衣がふわりと池の水面に落ちることさえ気付かずに、仁王立ちした。
「ああ、忌々しい!!だ、大体“娶る”などと、いくらあの頃でも、おのこに向ってよくも貴様はッッ!!!」
「ああ…」
本気で殴られたのと、あの頃あんなにも泣き虫で自分に懐いてくれていた“佐吉”が、ものの見事にこのような“立派な”もののふに成ってしまった衝撃に。
家康は遠い目をしながら、そのままばしゃあん、と清水の中に倒れこんだ。
「きっ貴様!!おい、この池にはこの間鯉の稚魚を放したばかりなのに!!」
魚たちを潰す気か、と、慌てて家康を浅い水底から引き上げようと手を伸ばして、掴まれた細い腕は、そのまま羽根のような軽さで引き倒された。
夏の陽射しの酷く暑いことなど嘘のような、鮮やかに冷たい清水に先に沈んだ、男らしい太い腕でふわりと泳ぎながら抱き寄せられれば。
乱反射する光の中で、頬を撫でられて、そっと唇を吸われた。
ことに、三成は硝子のような苔色の瞳を閉じられず、目の前に泳ぐ自分の銀髪と多分、笑っている幼馴染の瞳から目線を反らせずに。
「――――ッ」
だが、息が尽きて勢いよく腿の半分くらいしかまでしかない池から身を起こしてみれば、引きずられるように目の前に濡れた黒い髪も上がってきた。
「――き、さ」
まだ肺に空気が行渡らないまま必死で叫ぼうとしたら、其の唇にまたそっと、彼の人の指が添えられて。
そのまま池の淵まで押しやられて、首を撫でられて、もう三成の顔からは怒りさえ消え失せて、呆気に取られた険の取れた表情は、酷く無防備で可愛らしい――“佐吉”だった頃の彼を想い出させた――家康に。
「――儂は」
笑っているのか、憂いているのか。
滅多に見せることの無い陰を山吹の瞳に潜ませながら、彼は云った。
「戯言を云ったつもりは、ない」
ふ、と彼が微笑んだ後、もう一度清水に濡れた冷たい唇が触れ合って。
「今でも、待っている」
其の先の言葉は、微か過ぎて聞こえなかったけれど。
「……」
今でもあの頃の想いは続いている、ということと、多分、彼の希んでいる未来は来ない、という事実に――頭の中の糸が爛れ絡まってしまった三成は、ぽたぽたと自分の長い前髪から零れる水玉を、見ていた。
「待っている」
もう一度、低く擦れた声が聴こえれば、片手で顎を掬われて、片方はきつく手を握ってきた。
倒れる。
もう一度、鮮やかに冷たい夏の清水の中に。
おさないむかしばなしが、きらきらひかってまぶしい。


   ――まさか、本当にそうなんて。


水の中でふわりふわり、互いの身体の重さを失くしながら、唇は何度でも重なる。
三成はもう、頭の中の爛れた糸を解くことは諦めて、ただその感触に、柔らかさに長い睫毛を伏せて意識をゆだねて、家康の頬に手を添えてみて。


   ――ずっと、待っていてくれるなんて。


きらり、透き通るみどりの瞳から睫毛を伝って、自分の涙が清水に溶けていくのをはっきりと感じながら、三成はぼやける目の前のひとに向って、はにかむように、笑んだ。

あの頃のように。


おさない、むかしばなしになった、あの頃のように。




最初のほうの、光と陰のくっきり分かれた瞳の色合いって、こんなカンジ。の、つもりでした。

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ゆみのや

Author:ゆみのや
戦国BASARA3の石田三成にぞっこん一目惚れいたし
こっそり応援し隊所存にございます。

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