BASARAの石田を幸せにし隊。

戦国BASARA3の石田三成をひたすらに応援するこっそり避難ブログ

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花言葉は。

鶴姫、最後の最後まで西軍ルートで、三成とのお噺。
三成の心の中の豊臣一家の残像と、それを見た無邪気な巫女姫。
こんな大坂城と西軍もアリアリ。という。

今回家三度0%です。すんません…


久々の晴天の陽の光に、三成は薄い苔色の眼を細め、天守閣の天辺に煌く鯱を見上げた。
今でこそ戦城と化しているもの、豊臣の天下だったあの頃、この城はそれはそれは美しい絢爛豪華な居城であった。
街ほどの広大さを誇り、小さな林や森さえも、外堀の中にすっぽりと納まるほどの此処、大坂城。
秀吉と半兵衛が世界を夢見、見据え、足掛りに相応しい“三国無双”の城をと築いた――この姿も、本当は未だ仮初の姿である筈なのに。
きゅ、と薄い唇を噛み締めながら、三成は太陽に負けるように目を糸のように細めた。


   申し訳御座いません。
   このような姿に変えてしまって。


東軍勢からの襲撃に厳重に備えられた今の大坂城は、完全なる防衛布陣が敷かれどこもかしこも武装した兵らと、物々しい兵器で溢れかえっている。
侍女達が小鳥のように笑い、小供たちが人形のように可愛らしく着飾って、小姓たちが憧れの武将の噂話を明るく交し合う――そんな賑やかな大坂城は、もう無い。
夜の帳が落ちて奇襲に備えておれば、昇る月に映える森の陰さえおどろおどろしく見える今の大坂城を、三成は好きでない。
だが、亡き秀吉と半兵衛の“夢の足掛り”であったこの城が落とされる時、それは――
西軍の、豊臣の真なる滅亡と、そして誰よりも憎むあの男の勝利を意味する。
「今はたとえ、このような姿にしてしまっていても…」
思わず声が零れたことに、三成は大きく溜息を吐いて踵を返した。
向かうのは、久方振りに訪れる自室のある、西の丸。
広大な庭園――と、云うよりは“森”に近い、己の“庭”が在る場所だ。
明るい回廊を歩きながら近づく“庭”の空気に少し安堵していると、其処に場違いな、明るい栗色の髪の小さい頭と、其れよりずっと――女にしては大柄な、緑の黒髪を流れるようにしている女の姿を、三成は見止めた。
明るい陽の光の中に、その栗色の髪の艶はよく映えた。
小さな娘だ。
だが、其の身に秘めたる千里眼と、那由多を射抜く破魔矢の腕前たるや、安芸の大毛利、西海の鬼さえも一目置くという、彼の者とは。
大谷が薦めるままに西軍に引き入れたものの、まともに会話が成立した試しがない。
おまけに、“第五天魔王”と恐れられていた彼の魔王の眷属の生き残りさえも、或る日突然
「この人も西軍にいれてあげてください」
と、連れてくるような、不可思議な娘。
もう一度深く息を吐きながら、三成は心底面倒臭そうに、眉間に皴を寄せた。
「――おい、貴様等」
音も立てずに彼女らの背後を取った三成は、いつもどおりの地を這うような低い声音で、名前など呼ばずに二人にこちらを向かせる。
「みっ、三成さん!?」
飛び上がるほどに驚きながら、娘――伊予河野が大祝の鶴姫は、三成に向き合って「総大将さま」と、ぺこりと頭を垂れた。
「…此処は私の西丸殿だ。誰が貴様等に入る許可を与えた」
低く重々しい口調で問うて来た三成に、お市が思わず己よりずっと背の低い鶴姫の背中に身を隠す。
「あっあのですね!ご、ごめんなさい…お市ちゃんが、お花が見たいって云ったので…お花の匂いを頼りにお城の中を探し回っていたら、ここまで来てしまいました…」
おずおずと、はしばみ色のきらきらした大きな瞳が、三成の薄い苔色の瞳を見詰め返してきた。
思わず、見詰め合う。
三成は“凶王”たる己に臆せず真正面から見詰めてくる少女に困惑し、鶴姫は今まで見たことの無いくらいの“透明な”魂を持ち、其れをそのまま表すような不思議なみどりの眼が、綺麗だと想い。

「…三成さんは、今日も“透明”ですねえ」

ほうっ、と感嘆の溜息を吐きながら、鶴姫が両手を胸の前で掬び組む。
「本当に、綺麗です!」
次にはまだ幼い丸い顔で花がほころぶように、彼女は笑った。
「……」
三成といえば、その場で石の様に固まるしかなかった。
なんと。今。この女巫(めかんなぎ)は。何語を喋ったのだ?
「…それは、神託のようなものか」
「はい?」
「…いや…意味が…」
“透明”で“綺麗”とは、一体どういう意味なのだ、と。三成は真剣に眉間に皴を寄せて唸った。
男相手におだてて云うような台詞でもなし、かといって。小馬鹿にされているようでもない。大体、最初に大谷の云うままに手合わせをした後から、この巫女姫の相手をまともにしても無駄に疲れるだけだということが、いくら短気な自分でも分かってきたのだから。
「――いやもういい、兎に角…」
「三成さんの“御魂(みたま)”――えっと、ここに在るんですけど。人の場合は」
だが時既に遅し、鶴姫はいつもどおりに自分の調子に合わせて丁寧に三成の問いに答えだした。
鶴姫が首の真ん中からつ、と肋骨の五番目と六番目の間あたりまで指を滑らせて、それからとんとん、とそこを叩いた。
「その御魂の色合いで、たいていその人がどういう人が分かるんです。ふつうは色がついている場合が多いんですけど、三成さんは、とっても透明なんです!」
つまり――
「…それでは、まるで私は幽霊のような魂なのか」
色が無い。透明。まるで、存在そのものが希薄なのだ、そう云われた気がした――のだが。
鶴姫はぶんぶんと小さな頭を横に振ると、「違います、そうじゃないです!!」ときゅ、と両の手の拳を握って力説しだした。
「あのですね、人は生まれたときは大体、透明な魂なんです。でも、段々その人の個性っていうか、才とか欲とか穢れなんかで、色がついていくんです。それで、自分の心を守るんですよ」
色をつけて。
と、鶴姫は手をぱたぱたと慌しく振りながら、一生懸命に、半ば呆気に取られている凶王に向かい説明を続ける。
「守るっていうのは、人はどうしても、傷つけあうから。そういう時、きっちり自分の色を決めておいたほうが、守りやすいんです。だから、大抵の人は三成さんのお歳になるくらいには、御魂にはっきり色がついているものなんですけど」
「…私は、“透明”なのか」
「はい!」
鶴姫が、わかってもらえた?と問うように、明るく頷いた。
「ちょっと、なんていうか…澄んだ夜の月の紫…薄く…ありますけど、でも、やっぱり透明です。凄いんです。綺麗です!」
三成さんにも見せてあげたいなぁ、と続ける鶴姫に、三成は完全に自分が押し黙るしかなくなっていることに気付き。
「きっと、三成さんも大切に守られて、育ったんですね」
だが、続いた鶴姫の言葉に、はっと息を呑んだ。
「…大切に?私が?」
うんうん、と。頷きながら、鶴姫はこう云った。
「大切に守られて、育ってきたんですね。だから、穢れを知らない透明な人になられたんだと」
守られて。その言葉に三成は思わず乾いた笑みをフッと浮かべたが、次の瞬間――はっと。鶴姫の後ろに広がる自分の庭――大坂城へ“子飼い”として秀吉に連れて来られてから、半兵衛から贈られたものを、改めて見やり息を止めた。

   あまり外に連れ出してあげられないから
   僕も秀吉も忙しい身で
   君には寂しい想いを
   ごめんね
   ――佐吉はお花が好きなんだね
   では ここを この庭をあげよう
   君の好きにしていいんだよ
   君の好きな花で、清水の音で埋めなさい
   僕も一緒に育てようね

「…半兵衛様」
ふっと。二人の姫が並ぶ奥のほう、初夏には三人で「いい芳りだ」と笑いあった、くちなしの濃い緑の茂みに、あの二方の影が見えた気がして。
三成は納得した。
そうだ、私は守られて育てられたのだ、と。
あんまりにも傍に居すぎて、気付かないくらいに。
「…ああ」
三成が、まるでうわごとのように、遠い瞳で呟いた。
「私は、余りにも外の世界に疎すぎた。お二人さえ居れば、私の世界は…それで、よかったから…そして…お二人は、私に何不自由ないように、産みの親よりも多くのものを与えて、そして、守って…下さっていたのだから…」
自分がいかに、軍を率いる身になるまで、外の世界に無頓着だったかを。まざまざと思い知りながら、それでも、そのことに深くなにか、甘く切ない郷愁を感じながら。三成は呟いた。
その白い顔の美しいことに――鶴姫もまた、目を反らせずに、三成の眼の先に見える想い出を垣間見たような気がして。
周りから「苛烈故」「気の難しい御方だ」とひそひそと云われているこの西軍総大将の、苛烈な心の壁の奥、ひび割れそうでも透明なままで、純粋な魂を改めて見た。
「…いつも、そういうお顔をなさっていればいいのに、と」
「は?」
「いつも、そういうお顔をなさっていらっしゃればいいのにと、鶴は想います」
少し緊張しながら、でもきゅ、と容の良い眉を上げながら。鶴姫が三成の視線を捉えた。
「今の三成さんのお顔だったら、鶴は怖くないですよ。たぶん、お市ちゃんも」
ね、と鶴姫に問われ、お市もちらり、三成の顔を見上げる。それから、ゆっくりと鶴姫のほうへと向いて頷いた。
「うん、今の闇色さんはやさしいお顔ね」
ふふ、と続けて笑う二人の姫の姿に、三成は「…つまり」と、ううん、とわざとらしい咳払いをしてから、不機嫌そうに続けた。
「悪かったな、いつも顰め面で」
「もー、だから、なんですぐそういう顔なさるんですかっ。それは…三成さんは総大将ですし、色々気苦労も多いんでしょうけど、せっかく綺麗なお顔なんだから、今みたいに優しいお顔で皆さんに接すれば、きっと皆さんに安心と元気を与えられるハズなのに」
「はっ、もののふがふにゃふにゃ哂いながら、軍議や戦など出来るか。金吾でもあるまいに」
「闇色さん、いつもの怖いお顔に戻ってしまったわ。白い鳥さん」
「おい、第五天、いつも云っているが私を“闇色”と呼ぶのは止せ。ワケが解らん」
「だって、あなた、市と一緒で闇の星の生まれなのよ。だから、闇色さん」
「もー!!お市ちゃん、三成さんは三成さんです、あと三成さんもお市ちゃんを“第五天”って呼ばないであげてください!!かわいそうでしょ!!」


「――おやおや、これはこれは…久方振りに、このような賑やかな光景を見られましたなぁ」


いつの間にか声高になっている三人のやり取りに――土で汚れた顔を拭きながら、庭師の彦左翁がにこにこと、掃除道具を一式抱えながらやってくるのが見えて。
三成は「――翁…!」と、悲愴の翳りで顔を曇らせ、年老いた庭師に駆け寄った。
「未だこんなところに…どうして!よいか、ここはもう戦城なのだ。いつ焼き討ちにあってもおかしくない…充分な路銀は与えたであろう、早く家族と共にここから逃げろ」
「――いいえ。三成様…」
静かに。詰め寄ってくる三成に向って頭を横に振ると、翁はいつもどうりの人当たりのよい笑みで、答えた。
「わしは貴方様が“佐吉様”であらせられた頃から、この庭を任されとりました。ここまできたら、最期まで面倒を見させてもらいとう御座います」
「彦左…」
「路銀はありがたく、息子夫婦に渡しました。今頃はちゃあんと京あたりまで逃れておるはずです。ありがたいことです」
そう云って深々と腰を曲げる翁に、三成は吊り目をくしゃり、歪めながらも其の肩に手を置いて、「愚かな…」と、微かに、絞るように呻いた。
「頼む。彦左、後生だ。もう行ってくれ。お前は私が幼い頃から、本当に、本当に…無残に戦火の中で果てるような、そんな死に方をさせたくない、私の気持ちを分かってくれ」
三成の声音の酷く優しいことに、傍らの鶴姫とお市も顔を見合わせた。
「いいえ、三成様。秀吉様も、半兵衛様も、この老いぼれより先にお逝きなされた。お二方の代わり、のつもりなど毛頭御座いませんが、わしは最期まで三成様のお傍に御仕えしとう御座いますで」
翁の何気ない調子の言葉であったが、其れは充分に三成の心を震わせるに値した。
「…愚かな…」
そう云いながらも、翁の肩を労わるようにさする三成の横顔の優しいことに、鶴姫は、改めてこの目の前の凶王の不器用さを垣間見た気がして。
「…三成さんは、お優しいですね」
ぽそっと。
静かに心から。そう、伝えてみた。
案の定、三成はがばっと顔をこちらへ向けると「なんだ、まだ居たのか」とみるみるうちに眉間に皴を寄せ「見世物ではない!」と声を荒げたが。彦左翁は
「三成様、こんな愛らしい姫様(ひいさま)がせっかくお庭を愛でてくださっているというのに!」
と、からから笑って鶴姫とお市に向かい深々と頭を垂れた。
「はじめまして!わたしは伊予河野は大祝の末姫、鶴、と申します」
鶴姫も負けないくらいにまっすぐと、ぺこりとおじぎをする。
「はい、お市ちゃんもご挨拶してくださいっ」
「…あの…市…です…」
おずおずと、お市も小さく頭を下げた。
「これはこれは、このような美しい姫様たちにお逢い出来るとは、とんでもない幸せですなぁ」
続けて翁は「三成様、ようございました」と意味ありげに微笑んで見せて。
「ひ、彦左ッ!一体何を…」
「ふむ、しかしこのような場所に置いておかれるのは姫様方にとっては…」
「だから違うのだ、あれらも我ら西軍の一員。あの小さいほうなど、あのような小娘に見えても、弓を持たせば般若の如きの立ち回りを演じて見せるぞ」
くく、とからかう様に笑む三成に、鶴姫が
「まあ!なんて悪いお口!!わたしは鶴姫、白い翼で羽ばたく鳥ですよ!?般若、は三成さんのほうじゃないですかっ」
と頬を膨らませた。
「これはこれは…三成様を叱られるおなごなど、信乃様だけだと思っとりましたがなあ!」
はっはっはっは、と笑う翁に「え?三成さんを叱れる女の方がいらっしゃったのですか!?」と興味津々、というように詰め寄って。
「ええい、もうよいだろう!出て行け、ここは私の――」
「まあ!なんてけちんぼさん!もうちょっと見せてくださいな!!」
まるで兄妹か何かのように痴話喧嘩を始めた二人の横で――お市はといえば、ふらふらと整えられた常世色の木々の間を歩き、「とっても綺麗なお庭」と、小さく笑んでいた。
「あ、お市ちゃん足元気をつけてくださいな。案外、土をそのままにしてあるのですよ、このお庭」
「あ、おいッ…」
三成の制止など聞かずに、鶴姫はふわり、お市の横に並んでその腕を取ってしっかりと絡ませる。

奇妙な光景だ。
“第五天魔王”と呼ばれ生きているか死んでいるかも分からないように、織田残党にいいように祀り上げられていたお市の方を、まるで迷い子のように、優しくおとなぶって労わるのは――彼女より幾つも年下の、外の穢れなど一切知ったこともない海神の巫女姫。

「お市ちゃん、よかったですね!」
「うん、うん」
「まだ百日紅のお花が咲いてますよ」
「うん、きれいね」
「姫様たち、ほれ、こちらには竜胆も綺麗に咲きだしておりますよ」
「わあ!ほんとだ、綺麗な濃いむらさきですねぇ」
鶴姫が翁の言葉に、お市の手を引きながら、竜胆の茂みに近づいて微笑んだ。
「三成さんに、似合いそうなお色ですねっ」
その言葉に、三成は「…」と少しばつの悪そうな顔をすることしか出来ず。
どうしてこう。この巫女姫は、ずけずけと人の心に踏み入ってくれるのだろう。
そうこうしているうちに、いつの間にかお市は翁にねだって、一輪、美しく咲きだしている竜胆を切ってもらっていた。
「あらっ!お市ちゃんにも似合います!よかったですねぇ」
「うん。ありがとう、翁」
「いえいえ、喜んで頂ければ、わしはそれだけで」
翁に向って嬉しそうに微笑むと、お市はくるり、と後ろに控える鶴姫に向かって歩き出した――かと思えば、彼女を通り越して、その向こうの細い影に向かって。
「はい、これ、闇色さんにあげる」
お市は無邪気に、翁から譲られた竜胆をそのまま、三成に差し出した。
「花言葉はね」
ふわり、とお市が笑った。それは、哀しみを湛えながらもどこか穏やかな美しい笑みだった。
「“あなたの悲しみに寄りそう”、よ」
「――――」
何故か。
躊躇い無く、三成はその花を受け取って。
静かに。長い睫毛を伏せながら「…悲しみに…」と、呟いて。
それから我に帰ると、「…フン」とくるり、二人の姫に背を向けた。
「彦左、もしも…東軍が攻めて来たら…案外、この庭の奥など、安全やもしれんな」
そう云いながら、さっと具足を脱いで廊下へ上がろうとした三成の背に――急にぐっ、と力が加わった。
「――なっ…」
「三成さん!」
振り返れば、そこには相変わらず星のようにきらめく、鶴姫の瞳があって。
「座ってください!!」
「はあ!?」
「いいから!!」
ぐいぐいと、乙女とは思えぬ力技で無理矢理に三成を回廊の縁に座らせると、鶴姫は朱色の下駄を脱いでその後ろに回り――
「背中、こんなに傷めていたんですね」
ふいに水面を打つような静かな口調に、三成は息を呑んだ。
何故、それが判るのだろう。
他の者に悟られぬように気をつけながら振舞っていた筈だが――瞬殺を得意とする刹那の居合いは、使い手の筋肉に、想像以上の負担を要求する故、背中の肉はいつも――戸惑う三成の様子などお構いなしに、鶴姫は背中になにやらまじないごとのように印のようなものを切ると、「寄御魂、荒御魂、三柱大神寄リテ、カシコミ、カシコミ、…」
と小さく唱えて。
「痛い、痛いですね」
そう云いながら、鶴姫は心からの労りをこめて、優しく薄い背中をさすりだした。
その感触に、言葉に。思わず、目尻が熱くなったことに、三成は酷く動揺した。

そう。痛い、痛い痛い。
薄い寒い、背中も心も。
独り、抱え込んで。

「ダメですよ。こんなに我慢しちゃ…独りで抱え込んじゃ…」
其の言葉は。きっと、身体の負担だけでなく、重く圧し掛かる“豊臣の忘れ形見”としての象徴としての務め、そして何よりも――信じた者故に赦せぬ“復讐”の心の重さ――
「…貴様に……何が分かる…」
私の、この罅割れた心の。
擦れた声音で吐き捨てると、三成は「あっ」と未だ押し留める鶴姫の両手を振り払って立ち上がり、無言で具足を投げ捨てて、磨き上げられた廊下を早足で歩きだしたが。
「――独りじゃ、ないですから!!」
その後ろから、鶴姫が仁王立ちになって叫ぶのを、お市と彦左翁が呆気に取られて見守る中。
「わ、わたしもっ…お市ちゃんも…彦左さんも、そうだっ大谷さんだって毛利さんだって!嶋さんたちだって!!三成さんと一緒にいますから!!」
そこまで一気に叫んだ後、鶴姫は消え入るような声で、こう続けた。
「…忘れないでください」
こんなに近くにいるのに、と。
既に涙を潜ませた震える声音で、鶴姫は小さく叫んだ。
去っていこうとする、紫色の羽根を纏った背中に向って。
「勝手に…独りぼっちにならないでください…!!」
それからたた、と小さな足音で三成に駆け寄ると、其の大きな薄い掌を迷うことなく取って、握り締めた。
「ダメです」
涙を溜めたはしばみ色の瞳が、真っ直ぐに三成の――驚きで見開かれた苔色の双眸を、捉えていた。
「…そっちにいっちゃ、ダメです…」
ひどく、ゆっくりと。
俯きながら、鶴姫は三成の手をさすった。
ぽたぽたと、大粒の涙を零しながら。
三成は、もう本当にどうすればいいのか解らなく、だが確かに自分の為に涙を零す――この娘の温もりに只、只、圧倒されて。
「…もういい」
酷く、ゆっくりと。
険の無い声音が、鶴姫の頭上から聞こえた。
「……」
涙で濡れた、きらきらひかるはしばみ色のひとみが、恐る恐る三成の顔を見上げる。
「…いいんだ」
信じられないくらい静かな顔で――三成はそっと、ゆっくりと鶴姫の白魚のような幼い手を自分の黒い手甲から引き剥がして。
それから、懐から絹の手拭いを取り出すと、鶴姫の頬に押し付けて無理矢理握らせて、自分は踵を返していつもどおりの早足で、自室へと――やっと、向かい出した。



どっとした疲れ――いや、これは安堵なのかもしれない、久方振りの――を感じながら、だが足取りは不思議としっかりと軽やかな自分に驚きながら、手をみやる。手を。
あの日、あの篠突く雨の日、あんなにも敬愛した者を守れなかった、手を。
この手をさすり、握り、あの姫は泣いた。


   独りじゃないです
   勝手に 独りぼっちにならないでください


「……馬鹿な……」
呟き、手を見る。手を。
あの姫が握り締めた、数多の血潮に塗れた、それでも無力な手を。
そうしてしばらく立ち尽くしていれば、そこに、聞き覚えのある騒音が段々近づいてくるのに気が付いた。
大きな廊下の向こう側から見知った紅い装束が、どたどたと騒々しくこちらへ向かってくるのが見える――
「三成殿ォッ!!お探し致しましたぞぉおッッ!!」
自分より年上、とはとても思えない、童顔の甲斐の若虎が紅い風を纏いながら相変わらずの勢いで自分に突進してくる。それを必死で推し留めようとしている、あの赤毛の忍も引きずられながら、一緒に。
「今日こそは、某と共に団子を食しましょうぞぉおあああッッ!!!」
「あー大将落ち着こう!!うん!!すいませんね、騒々しくってもー」
愛想のある顔に嫌な汗を浮かべながら、真田幸村が影、猿飛佐助はいつものようにへらり、と笑いながら気難しい上に短気で横柄な――西軍総大将の様子を窺ったが。
いつもなら「下らん」「貴様一人で好きにやっていろ」と、甲斐の若虎から差し出される団子を無下に突き返す筈の――石田三成は、真田が御大将が両手で抱えている大皿に山盛りになっている“猿飛謹製・甲斐印白団子”に手を伸ばした。
ぽい、と。
幸村と佐助が呆気に取られている間に、三成はひとつ、団子を口に放り込みほうばりながら「…まあまあだな」と呟いた。
「あちらに、私などより余程美味そうに食べてくれるだろう姫が二人居るわ」
行って分けてやるがいい、と続けながら、三成が西の丸の奥にゆらりと消えていく――
その背中を見ながら、幸村はわなわなと感動に打ち震えて。
「みっ見たか佐助ぇええ!!とうとう三成殿が俺の手から団子を取って食して下さったぞッッ!!!!」
「…うそぉ…」
某、三成殿と友垣への第一歩を踏み出しましたぞおお、と叫ぶ“大将”の横で、佐助が珍しく心から面食らった顔でぶつぶつ思案しだした。
「…えっ、えっ?姫って…うそぉ、まっさか…あの“石”頭がぁ…?」
え、でもどっちだ?と続ける佐助の迷い紋様で染められた忍装束の襟をむんず、と掴むと、幸村が「今お持ち致しますぞお二方ぁああああ!!!!」と爆走しだしたので、佐助の思案はそこで打ち切られたが。



頬張った団子が本当に「まあまあ」美味い事に微かに、そう感じられる自分に微かに驚きながら。
三成は静か過ぎる、久方振りに訪れる自室の隅に竜胆を生けた後、文机の中から入り用なものを手際よく取り出して、直ぐに立ち上がろうとしたが。
ふいに、きつく夕焼けで橙色に染まる部屋の隅――ちいさな、ままごとに使うような小箱に気付き、吸い寄せられるように手を掛けた。
かたり、と、かわいらしい、遠い記憶の端にあった聞きなれた音に、思わずはっとする。そして――その中からじゃらじゃら出てきた、小さな想い出の――欠片たちに、三成は息を呑んで、黒い手甲に覆われた指先を微かに震わせた。

じゃらじゃらと。

小供用に作られた将棋駒や、遠い南の地から持ってこられた自分の瞳と同じ色のびいどろ玉や、まだひょこひょこと首が振れるあかべこやら。

まだ幼い頃、二人――秀吉と半兵衛から戦が終わる度に、一人待つ自分への褒美のように贈られてきた、幼い想い出たちが少し色褪せて、夕焼けに染まる部屋の中で、次々と零れ落ちていった。


「…秀吉様…半兵衛様…」


独りでは、ないと。
あの姫は云った。
そうだ。そうだったのだ。

此処に。
未だ辛うじて、大切なひとたちのぬくもりは生きていて。
此処は。
未だ辛うじて、この手で守られているのだから。


「お二方のご教示は、此処に」


声に出して呟いてみれば、乾いた心に水打つように温かな波紋が広がって、三成は思わず胸に手を当てた。
独りでは、ないのだと。夕焼けに染まる束の間の想い出の中で。
あの姫が握りさすった手で、胸を塞ぎながら。
想い出が零れ落ちないように、微かに祈りながら。


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ゆみのや

Author:ゆみのや
戦国BASARA3の石田三成にぞっこん一目惚れいたし
こっそり応援し隊所存にございます。

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