BASARAの石田を幸せにし隊。

戦国BASARA3の石田三成をひたすらに応援するこっそり避難ブログ

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月白の羽根、水面の翠玉。 Ⅳ

長いお噺になってしまいましたが、

しあわせきがはら+乙女さこかつ小噺

これにて了です


拍手ありがとうございます///
嬉しいっす…!!

嫁をふたりまとめて愛でられ噺だったので、描いてて楽しかったです。
また描きたいな~この組み合わせ。
最後まで読んでくださった方々、本当にありがとうございました!





 そうして何度目かの逢瀬の時。
 時は夏の終わりで、早々に訪れた秋の風に、勝家が少し肌寒そうにしていた記憶。
 大坂城にも負けぬ程に広大――というか、独眼竜の流儀で造られた青葉城は、本丸まで馬で競いあう複雑な競馬路が配されていたり、そこら中に巨石から彫り上げた竜が勇ましく口を開けていたり(中には其処から炎を吐く仕掛けを施したものもあったりした)で、何度、離れた小高い山間から臨んでみても「いや~竜さんの趣味、やっぱパねぇわ」と。左近が大きな菩提樹の枝の上で器用に立ちながら感嘆、なのか嘆息、なのか、どちらか解らない溜息を吐くと、根元に座っている勝家は
「派音……絵?」
 と、首を傾げ。お前も政宗殿の言葉も、難しくて時々解らない。と溜息を吐きながら、手元にある竹の水筒から少しだけ水を飲んで、頭上に居る左近に「お前も飲むか」と訊いた。
「おう」
 ひょい、と獣のように、彼は体重など感じさせない動作で勝家の隣に降り立った。
 当たり前のように彼が隣で胡坐をかくことに、もう何の抵抗もない。最初の頃こそ、いつ腰の双刃を抜き放つか、と疑ったこともあったが。
 逆にいつでも其の首を捕らえられるのではないか、と呆れるほどに。彼は本当に「ただ顔が見たいだけ」だった。
「贅沢云えば、あんたとまた刃を交えてみたいけどな」
 と口では云うものの、来る度に様々な土産を持ってきては「きちんと喰わせてもらっているか」「伊達での扱いは辛くはないか」と訊いてくる左近に、本気で其の気があるとは余り思えなかった。
 現に、今も
「あー。これこないだ贈ったヤツ!?」
 水筒を差し出した勝家の左手、細い手首に巻かれた――水晶の中に煙を燻した様な、不思議な色合いの石で出来た数珠に触れて、大きな瞳をもっと大きく見開いて、勝家に確かめるかのように笑って。
 この男は。
 本当に、何故。
 そう不思議に思いながらも、あんまりにも嬉しそうに笑まれれば、勝家も応えるしかなくて。
「伊予河野の先見の姫巫女殿からわざわざ貰ってきたというから、あの日からずっと教えられたとうり、左手首につけている」
 己の手首を左近の触れさせるままにしながら、風がそよぐほどの微かさで、笑んだ。
 左近は勝家が笑うとくっきりとした二重瞼が細められ、伏せ目がちになることに。黒く豊かな睫が美しく其の瞳を縁取ることに、見惚れながら。そして、彼がよく笑うようになったことに、心から嬉しく想いながら。
「うん、この石、恐れや不安を打ち消す力を持っているって。姫さんが選んで呉れて“神様に入ってもらいましたからね☆ 勝家さんが元気になりますよーに!”って云ってたから。ちゃんとつけててくれたんだな」
 そう云いながら勝家の細い手首に巻かれた数珠に触れた後――滑るように彼の細い指を、掴んだ。
 左近が慈しむように撫でてみても、もう勝家はそれが当たり前、というようにされるがままで。
 小首を傾げて己の指を見詰めるひとの顔は、矢張りどうしようもなく――可憐だった。
 ああ、不思議だな。
 薄く微笑む勝家の顔を見詰めながら想う。
 女じゃ、ないんだよなぁ。こんなに綺麗なのに。
 今まで男相手にこんな感情を抱いたことはなかったし、大坂城の中には美しい侍女たちも多くいて、幾人かは己に好意を持っていろいろ世話してきてくれるのだが、それでも。目の前の人の美しさ、儚い雰囲気に勝る女人は居ないことを。一体どうしたものか、と此処まで近づいた今でも不思議に想いながらも、左近は握った彼の指を食んでみたい衝動を抑えなくてはいけないことに、己の欲を自覚する。
 この細い指を噛んで食んで舐め上げて、その手首に――くちづけたいと。
 思わず唇を噛み締める左近の顔を、不思議そうに勝家は覗き込んで「どうした」と問うてきたので。慌てて「ん、いや! なんでもねーよ」と、手を離した。
「あ、ああそうそう、今日はコレ、持ってきたんだ」
「え?」
 左近は得意そうに笑みながら、絹で覆われた美しい南蛮渡来の宝石箱を勝家に差し出した。
 勝家が戸惑いながらも其の小箱を受取って、蓋を開けてみれば。
 びろうどの布に包まれた、半透明の其れは、乳白色と翡翠の青で美しい重ねの色合いを醸していて、形は――
「筆……?」
 穏かな午後の光に翡翠で出来た南蛮の物であろう、筆――ペン軸――を指でつまんで透かしてみながら、勝家は己の翠玉のような深い緑の眼を細めた。
「珍しいだろ?」
 へへ、といつものように小供のように無邪気に笑う隣の青年に向かい直ると、彼は黒絹の髪をさらさら鳴らしながら、静かに微笑んだ。
「綺麗だな」
「半兵衛様に褒美に貰ったんだ。南蛮の言葉ではペン、って云うらしいけど」
 益々得意そうに笑む顔は、歳相応の少年なのに。自分よりも逞しい顎の線とか、しっかりと男らしい長い指が傍に居てくれるだけで、安心出来る己に戸惑いながらも、勝家も探るように「何か武功を立てたのだな」と問うて。「ああ」と胸を張りながら、左近は答えた。
「実はこの間、徳川とデッカイドンパチがあってさ!! ソレに石田軍、豊臣は大勝利よ、もち俺も貢献したってワケ」
「……徳川」
「ああ、三方ヶ原で睨みあったんだけどこちとら半兵衛様と刑部さんの謀りで思うままさ、家康は浜松城まで後退した。でもなぁ、俺としてあそこで決着つけられそうな気もしたんだけど……なんでだろう、半兵衛様は追撃を命じてくれなくて……」
 左近の云うことに勝家の顔から笑みが引いて、憂いに瞳は伏せられた。
 ので、左近はそうだ、勝家と家康は織田軍で共に過ごしていたことが、と思い出し「あ、ごめ……あんたと家康は……」と気まずそうに顔を伏せた。だが、勝家はふるふると頭を横に振って「今はもう、なんの縁も無いひとだ」と抑揚無く呟いて。それから遠い過去のようで、まだ新しく傷として残る想い出を辿るように。
「……織田家も光秀様のご乱心により、もう……そして、不思議なことに私はこうして伊達の食客として生き延びている……」
「勝家……」
 俯いて黙り込み、己の主君が辿った悲運を想い勝家が再び悲愴の色を瞳に浮かべるものだから、左近は慌てて「コレ、あんたにあげたくて来たんだよ」と。笑って見せた。
 勝家は驚いて顔を上げて「私、に?」と眼を見開いてぱとぱちと豊かな黒い睫を瞬かせた。
「ああ。コレ、綺麗な翡翠だろ? 翠色が似合うあんたにいいだろうって」
 実は半兵衛に「褒美に何をあげようか」と問われた時――彼の部屋に飾られていたこのペンを一目見た時から、なんて勝家に似合いそうな翠だろうと。迷わず「あの筆を頂戴したい」とねだったのだ。左近は勝家の手を取って、宝石箱をしかと握らせた。
「そうそう、墨だとペンって上手く滑らないらしいんだって。だから、コレ南蛮の墨……インクっていうんだけど。コレも一緒に貰ったから」
 一緒にやるよ、と己の手に硝子細工の美しい瓶まで握らせてくる左近の顔を、思わず見上げながら。
 勝家は「これも、高価なモノだろう」と戸惑いの表情を浮かべた。
「左近、コレらは困った時に堺の商人にでも渡せばそれなりの金子に成って呉れるようなモノなのだぞ? 私などに贈ってはいけない」
 思わず握らされたモノを押し返そうとした勝家の手に手を重ねながら。
 左近は「――んなコト、関係ないって」と、強く云い切った。
「俺が持ってるより絶対勝家に似あうし、そ、それに――」
 次の言葉を云うのに一瞬躊躇ったが、勢いのまま告げた。
「そ、そのペンで俺に文とか書いて呉れたら、嬉しいなーっ、て?」
「――え?」
 問い返してくる勝家の戸惑った表情に、思わず云ってしまった己が身を呪いながら。だが、左近はままよ、と続けた。
「文、書いて呉れないか。俺に」
「…………」
 男の酷く揺らぐ声音に。
 嗚呼、想われているのだと。
 浅はかに震える身にこころ震えながら、勝家も頬を微かに染めながら――睫を震わせながら、応えた。
「……書こう」
 其の応えに、左近が息を呑んだ。
「書く。お前に、きっと書くから」
 そう云って、まるで菫の花が綻ぶくらいの微かさで。
 彼が笑った。
「待っていて欲しい」
 そう伝えて、はあ、と。勝家は全身を震わせて何とか息を吐いた後。
「……私には、それくらいしか……何もお前に返せるものがないから……」
「そんな――」
慌てて“そんなことはない”、と云おうとしたのに、だが――ふいに勝手に、口は滑った。
「い、いや、実は俺、文以外にも勝家から貰いたいモノがあるんだけど」
「――え?」
「それは、勝家しか、勝家からしか貰えないっていうか……」
「……私に、しか……?」
不思議そうに小首を傾げながら、勝家はぱちぱちと黒い睫を瞬かせた。
無邪気に、無防備に白いうなじを晒しながら。
くっそ、可愛いな。
思わず俯きながら、左近は「あー……」とばりばり逆立てた赤毛を掻いた。

 君が欲しいだなんて。
 伝えた瞬間、この距離が壊れてしまうのが怖いだなんて。
 なんて酷い鉾と盾。

「……」
「――え?」
 何と云った。
 勝家が困ったように眉を潜めながら左近に一寸、近寄った。
「左近、何でも云って呉れて、望んで呉れてよいのに」
 酷く幼い表情で勝家がそう迫ってきたが。左近は「……うん」と掠れた低い声音で辛うじて返答するのが精一杯で。
 届く距離。こんなにも近くに来て呉れているのに。
 抱き寄せたい。触れたいのに。
 勇気がない。失いたくないから。
「――いや……」
 言葉を濁らす左近の頬に。
 思わず手を伸ばしたのは勝家のほうで。
 だから時は止まったかのようにふたりは見詰め合った。
「左近――」
 彼の頬に冷たく細い白い指を添えながら、勝家は翠玉の瞳に必死な光を宿しながら。
「教えて欲しい」
 私は――
 彼の清かの声音が響いた時、「かあ、かあ」と。
 酷く耳障りにいつの間にか夕暮れ時、家路を急ぐ烏たちが啼くのが聴こえてきたので、勝家は背後に在る今の己の寝床――青葉城を振り返った。
「――もう、帰らなくては」
 それからもう一度、黒絹の髪を鳴らしながら左近に向き直り。
「左近、その前に聞かせて呉れ。お前が私に欲するものとは何かを」
「……」
 迫る別れの刻が、己の背を後押ししてくれたのか。
 ふいに酷く切なく揺らめく、柑子色の瞳が己に迫ったのを勝家が息を止めて見詰めている間に、あっというまに彼は自分を抱き寄せて、一瞬、ほんの一瞬。
 やわらかにくちづけてきたので。
 そのあたたかさに、やわらかさに。
 終ぞ人肌の温もりを忘れていた勝家の身は、震えた。
 そのままぎう、と抱き締められて、抗うことも考えることも出来ぬまま。
 今、何が起こった?
「――俺が、欲しいのは」
 ごめん、と消え入るような声音で彼が耳元で囁くのを。
 逢摩が時の夢なのか、というふわふわした感覚で彼に抱き締められながら、聞く。
「あんたなんだ。あの日、北ノ庄城であんたを引き止められなかったこと、ずっと後悔してた」
 その言の葉に、勝家の思考回路は完全に止まった。
「あんた覚えてないだろうけど、俺はあんたが織田の使い番として筒井城に来た時、逢ってる。あんたと一瞬目が合っただけだったのに、ずっとずっと忘れられなかった、豊臣の、三成様の臣として出逢ってからも、ずっと」
「…………」
「……ご、ごめん」
 やっぱり、嫌だった?
 問われて、思わず彼の背中に腕を回してぶんぶんと。
 勝家は左近に身を寄せながら頭を横に振った。否、と。
 嫌ではないと。
 だから、逆に抱き締められて息が止まったのは左近で。
「…………」
 互いに、続きの言葉が出てくれなくて。
 
 そうだ。
 思い返せば北ノ庄城での抱擁と懇願と――
 たくさんの贈り物と。いつも変わりなく微笑んでくれること。
 どうして、今まで――

「……私、は……」
 息を止めて固まる勝家の様に、左近は耐え切れぬよう、思わず先に口を開いた。
「じゃ、じゃあさ! 賭け、さしてくんない?」
「――え?」
「俺はあんたを、俺に惚れさせてみせる! 勝ったら俺の想い人になってよ、勝家」
 必死になんとか、取り繕った笑みを浮かべる左近の顔を見上げて――そして彼の言の葉の意味を飲み込んだ後。勝家は嗚呼、とやっと分かった。
 
 ――こんなにも心の臓が早く脈打つ程に、君を――
 
 分かったから。勝家は思わず顔を横に逸らし、それから消え入るような声音で
「……そんな賭けは、するだけ無駄だ」
 と、云った。
「……あー……」
「す、でに……お前が、“勝ち”を手にしているが、故、に」
「――え?」
 伏せられた睫から、うっすらと。
 翠玉の様な眼が潤んで、また閉じた。
 彼が深く、深く息を吐いて肩を震わせ、顔を俯けた――耳まで紅く染めながら。
 だから、左近は思わず彼の肩をもう一度強く掴んで抱き寄せて、下から顔を覗き込みながら。
「……“勝って”る? 俺、もう勝ってるの!?」
「…………」
 その問いかけに、勝家はもう何も云えないくらいに顔を火照らせて「嗚呼」と両手で隠そうとするので。
 左近は喜びを抑え切れなくて、彼の両手を強引に掴んで抱いてもう一度、その柔らかな唇を奪った。





 押し倒したのは、想いを伝えて結んだ後、三回目の逢瀬の夜だった。
 月に照らされて白く浮かび上がる華奢な肩に。
 慄きながらもくちづけて、震える其の身に請うて押し開いた夜のことは、決して忘れ得ぬ記憶。
 彼は少しだけ泣いて、自分も少しだけ泣いた――忘れ得ぬ、今も離すコトの出来ぬ温もり。






 馬上で薄く閉じていた眼をゆっくりと開いて、最後に逢った時の彼の儚い表情を想い辿る。
 夜明けにうっすら明るい閨の中で。
「どうか、武運を」
 生きて、また逢いたいと。
 翠玉の瞳を水面のように潤ませながら己の頬に手を添え、別れを惜しむ表情に。己もその華奢な身体を折れる程に強く強く抱き締めた、夜明け。
 酷く疲れたように大きく溜息を吐くと、左近はこの旅路で走馬灯のように想い巡った己の生きた道を、選んだ運命に。
 感慨深く息を吐きながら――ふいに「んん!?」と。顔を上げて嫌な汗を浮かべて口元を引き攣らせた。

 いやいや、なんか、この道中。

まだ“左腕に近し者”でなかった頃から、彼との再会、そして想いを繫いだ軌跡を順々に回想したこと――これではまるで
「走馬灯……」
 己で呟いておきながら余りの馬鹿馬鹿しさと、そして――現実味のあることに、背筋を一気に冷たいモノが這い上がった。
 そうだ、大坂城を出奔してもう何日目になる?
 少なくとも、七日七晩以上――
「……いやこれ……俺、今更大坂城に戻っても……」
 三成の眼光が、凶々しく紅く光り――「左近……ッッ貴様、裏切ったな……!!」と斬首の構えを取るのがあんまりにもハッキリ想像できたので、震え上がったその時。

「おい、其処の馬鹿者」
 
 真っ青になっている己の耳に、聞こえるハズのない三成の声音で――そんな言葉まで聞こえたモノだから。
「ああ……とうとう幻聴まで……」
 あははは、と半泣き状態で力無く乾いた笑みを浮かべながら、左近は独りごちた。
「もーダメだ、俺マジ終った……首刎ねられる……三成様マジもう……俺のコト赦すワケないわ……」
 あああ、勝家、最期にあんたを抱きたかった。
 左近が最早泣声に近い声で独りごちれば。声は止まらずに続いた。
「おい、聞こえんのか。止まれ、左近」
「――へ?」
「止まれと云っているッ!! 聞こえんのか島左近ッッ!!」
「――はぁ!!?」
 其の声音が幻などではなく、本当に己の背後から聞こえていることにようやく気付いた左近がもの凄い勢いで振り返れば――其処に、彼は居た。
 いつものように南蛮風の鉄板甲冑に、白き羽根を想わせる美しい陣羽織を纏って――己が主君、石田三成は身ひとつで、長い刀を携えながら眉間に皺を寄せてこちらを睨みつけていた。
「みッみみみみ三成様!!?」
 慌てて馬から下りて其のひとに向かい合えば、彼は心底面倒だ、というようにはあ、と大きく溜息を吐いた後。「ようやく追いついた」と。いきなり切り出した。
「……聴け。私は、貴様の期待を裏切った」
「……みつ、なり……さ、ま……?」
 あまりに突然のことに、左近が目を白黒させている間にも、三成は勝手に続けた。
「――貴様が出奔したくなること、分からいでもない。私は貴様の理想とする主ではなかったのだから」
「……な……」
 狼狽する左近に向かい。三成は構わずに続けた。
「……あれだけ家康を呪い憎み誹りながらも、あれが私の元へ帰ってきた時……私は、それまでのすべての怒りがどうでもよくなってしまった。あれがもう一度私を抱き締めた時に、それまで身体中を蝕んでいた痛みが一気に霧散してしまった」
 酷く静かに――先ほどまでのいらつきを顔面から消し去り――己の腹心と決めた者に向かい。三成はいつものように、己を偽ることなく心を晒した。
「……私は、貴様が想うような濁りなき透明な存在などではない。私の孤独、痛み。照らし出す――太陽の権現は一度は私を見捨てようとしたのに、もう一度この手に還ってきた時、私はただ私の欲のままに、あれをもう一度抱き締めてしまったのだから。貴様の目に、それは酷く……そう、“イカサマ”に映ったのだろうな」
「……!!」
 己の口癖を出して問うてくる三成の真っ直ぐな眼差しに。逆に己の浅はかな欲を見透かされたような気がしたのは左近のほうだった。だから。左近は「えっと……」といたづらに地面を皮のブーツの爪先でとんとんと蹴りながら。なんとか必死で言葉を探し出し、答えた。
「……いえ。あの。ソレでいいんじゃ、ないっスか」
 酷くぶっきらぼうに口を尖らせながら答える左近に、三成が息を呑んで目を瞠った。
「ぶっちゃけ、三成様の怒りは激しすぎるんスよ。己の身を焼き尽くすくらいに怒るでしょ。でもソレって、三成様自身のタメじゃなくって、秀吉様のタメじゃないスか。なんとかしてあげたくても、俺じゃどうしようもなくて……でも。家康……権現さんは、いとも簡単に三成様の心を解す。あんたを……微笑ませる……」
 俺には出来ないソレを。と、左近は苦く笑みながら、俯いた。そして分かったことを続けた。
「だから、俺の小供じみた嫉妬だったんだなーって。三成様がしあわせなら俺それで全然いいんです。家康を赦せないのは俺なんです。三成様を傷つけたクセにって。でも、もういいんです」
 真っ直ぐに三成の顔を見詰めながら。左近は云い切った。
「三成様の太陽は、あのひとなんでしょ?」
 だから、三成も。驚きながらも――こんなにも――この男は、己を想っているのだと。改めて想い知り、だから偽らずに答えた。
「ああ。あれは私の、私だけの太陽。いつも、いつでもこの胸を、心を照らし、私を包み守り、満たす」
 私だけの太陽。
「だから……赦せ、左近。私にはあれが必要なのだ」
 胸に右手を当てて、長い睫を震わせてすべてを伝えてくれたひとに。左近もまた、酷く胸が締め付けられて。
 嗚呼、俺はその感情がなんと云うかを知っている。
「あんたが、謝る必要、なんて……」
 と。声を詰まらせた。
 そうして暫しの沈黙がふたりの主従の間を流れたが、三成がふいに顔を上げて
「……貴様が出奔した理由……そして時折暇を見つけてはわざわざ敵陣に忍んでまで往く理由、とは」
 と。静かに問う主に向かい、左近もままよ、と肚を括って正直に答えた。
「……逢いたいひとが、居て」
「……」
 酷く切なく揺らぐ左近の眼差しに。三成は黙って続きを促した。
「まだ消え去らない、消せない狂犬(むかし)の俺の心、ドス黒いモノを照らして洗い流してくれるのはあんただと想ってたんだけど違ったんだ、俺をこんなにもあったかい気持ちに、寂しい気持ち、辛いのに幸せで切ない気持ちにさせるモノ、全部今から逢いに往くひとが持ってる」
 そう、言葉に表せたことに。左近は胸が空くような酷く明るい気持ちで天を仰ぎながら、云った。
「……俺だけの、翠玉の太陽だ」
 左近の様に、三成は暫し――天を仰ぐ彼の瞳をじっと見詰めた後。
「逢いに往くがいい。貴様の“光”に」
 と。簡潔に告げ、フ、と鼻を鳴らした。
「三成様……!?」
 まさかの“許可”に驚く左近に向かい、彼は続けた。
「家康が私の光ならば、左近……そうだな、私達は矢張り似た者同士だ。光を求めて闇を背負う宿命ならば、其の光を胸に抱きたいという希(ねが)い、否定はしない」
「みつ、なり、さま……」
 益々驚いて目を見開く左近に向かい。一瞬。ほんの一瞬だけ口の端を吊り上げて彼は微笑んだ後――すぐに厳しい顔をして
「だが、遂げたなら刹那に私の元に戻れ!! そして……忘れるな、伊達政宗が秀吉様の御威光に頭を垂れぬのならば、貴様の想い人もまた同罪だと」
「――ああっはっはいぃ!! 了解ッス!! てかお、想い人!!?」
 あたふたする己が左腕に向かい「フン、私が何も知らぬまま貴様が時折東へ向かうのを見過ごしていたと思ったのか」と云うものだから。
「バレてたんスか!? うわーうわーめっちゃ恥ずかしいんですけど!!?」
 と頭を抱えてジタバタする左近を「愚か者め」と呼び捨てた後。
「違えるな左近! 桜が咲く頃までには必ず大坂へと帰参しろ!!」
 と、バッと踵を返して「――さッ!!」と街道を駆け戻り出したので。
「――てか三成様ッッ!!? マジ徒歩で来たんですかーーー!!? 三成様ーー……ってもう見えなくなったし……」
 土煙がもうもうと上がる中、いつものように風よりも疾く去ってしまった主の背を呆然と見詰めながら。パねぇ……マジパねぇ。と呟きながら。
「……いや~。やっぱ俺、あの人を選んで正解だったわ……」
 と立ち尽くした後。
「――って、桜なんてほんともうすぐ……やっべマジ急がないと!!」
 かついえ、と。
 想うひとの名を呼びながら、左近は三成とは反対の方向へと、再び愛馬に跨り駆け出した。



 ずざざざざざ、と土煙を上げながら――三成は街道の林の入り口で仁王立つ本多忠勝と――其の横の家康に向かいながらざんっと止まって。
「逢えたか?」
 と微笑みながら問うてくる人に向かい、三成は静かに陣羽織の裾をぱっと払いながら「逢えた」と、答えて。
「ちゃんと伝えられたか?」
 家康が案ずるように続けて問えば
「問題ない。あれは分かって呉れた。逢瀬が済めば必ず私の、豊臣の元へ帰ってくる」
 そう三成は迷い無く云い切ったので。家康もまた安堵の表情を浮かべながら
「間にあってよかったな」
 と彼の肩をぽん、と叩いた。
「……お前と、本多のお陰だ」
 家康の顔、その次には控える忠勝の顔を見上げながら。三成は続けた。
「……礼を云う、本多」
「………!!!?!?!?」
 三成からの思いがけない言葉に、本多忠勝は思わず全身から蒸気を吹き出し混乱して、目を白黒させた。
「はっはっはっ、ワシらはもう敵同士ではないんだ、それに三成だって人の子だぞ?」
 礼くらい述べるさ、とからから笑う主の様に、忠勝は余計「…………!………」困ったように小さく歯車の軋む音を出して。
「……なんだ、貴様……まさか私が人としての礼節も持たぬと思っていたのか」
 いつものように低く地を這うような、相対する者を震え上がらせるような声で三成が不機嫌を纏い出したが、それはすぐに「悪く思うな、忠勝は未だに豊臣を離叛したことを思えば、お前がそう云ってくれることに驚いているだけなんだ」と宥める東照権現の明るい声音で霧散して。
 三成は納得したかのように「そうか」と呟いて、家康の瞳を見詰め返してから「私はもう過去には捕らわれない。ただ、前進する。秀吉様のように、この国が為に」と忠勝に向かい静かに告げた。
「……!!」
 其の様に、忠勝は思わず頭を垂れて畏まり。育て上げた太陽の君と、其れに寄り添うように立つ月の様に目を細めて「………!!」と笑った。
 その様子に心から嬉しそうにひとつ頷いて。家康は
「さあ、大坂城に帰ろう! 沈丁花が終ればあっという間に桜が咲く、だろ?」
 と三成に手を差し伸べて。
 其の手のひらに迷うことなく三成が己が手を重ねれば、飛行形態になった忠勝の背に家康は三成を乗せて、爆音に街道を行き来する者達が驚く中を、西へと向かい帰路を飛んだ。








 遠く、彼が己を呼ぶ声が聴こえた気がしてふいに目が醒めた――うっすら明るい夜明け前。
 春が近いといっても、此処奥州の朝の冷え込みは厳しい。勝家は思わず布団を引き寄せて己の肩を擦った。
 こんな時に、あれが居て呉れたらいいのに。
 事が終った後も、あれはいつもこちらが眠るまで隙間無く身体を重ねて抱き締めて、冷えないようにして呉れるから。
 目が醒めた時に誰かのぬくもりが傍に在る、ということがあんなにも心震わす程に――泣けるほどに心安らぐことであると。君が教えて呉れたものだから。
 一度は棄てて忘れて諦めたはず人肌のぬくもりを、君が与えて呉れたものだから。
 一人、ふいに目が醒める今がこんなにも――寂しい。
 首からいつも下げている守り袋に忍ばせている、“相棒”たちを思わず握り締め感触を確かめる。
「…………」
 声に成らない声で、賽の主の名を呼ぶ。
 
 此処に来て、抱き締めて。
 いつものように、このうなじにくちびるを埋めて
 云って欲しい。
 背筋が震える程に心地よく、優しく強く。
 求められたなら。

「……さこん」
 静かに閉じられた勝家の瞳から、ひとつぶだけ泪が零れ落ちた時だった。

 かたん

 寝間の襖の向こう、縁側に向かう板戸に何か。
 小さなモノが投げつけられたかのような音がしたので、勝家は一瞬息を止めた後――がばりと布団を跳ね除けて、音を立てぬように静かに立ち上がると用心深く襖を開き、それから廊下をそっとつたって音のした場所を、其処にある板戸を開けた。
 庭に下りるための飛び石の上、ソレは確かに転がっていて。
「……ッッ!!」
 石の上に転がる賽を拾い上げると、透明できん、と冷えた夜明けの空気の中、彼は裸足で庭に駆け下りて。首を左右に振りながら、「まさか」と想いながらも必死で探してみたら。
「……勝家」
 息を殺して己が名を呼ぶ声音が庭の桜の樹の上から聞こえてきたから、見上げたら。
 其処に、希(のぞ)んだひとは居た。
 枝の上、いつものように重みを感じさせない器用さで、春を待つ桜の蕾たちの合間から。明るい柑子色の瞳が喜びに見開かれ笑いかけてきたので。
 夢だろうか。
 足音を立てぬよう、用心深く樹の下へと歩を進め近づく。
「かついえ」
 もう一度、確かに耳に響く明るい声音。
 は、と息を呑みながら、勝家はどうして、と頭の中をぐるぐるまわる理性で己を落ち着かせようとしたが。うまく言の葉は出てこないので、ただ焦がれるままに想い人の瞳を必死で見詰め返した。夢ではないようにと希いながら。
 樹の上の彼もまた。夜明けの淡い光の中、白い寝間着に裸足で駆け出してきたひとが幻のように美しいので。ああ、コレ夢かな。いや、夢じゃない。確かめるように、細い首筋に、きっちり切り揃えられた絹の糸のような蒼い黒髪をさらさらと鳴らすひとを見詰めて。
 月白の夜明けに、深い深い、硬質な翠玉の様な瞳は、水面のように揺らめいて瞬いていた。整った唇が微かに開かれて、息を潜めて。
 水面の翠玉。と左近は――心からきれいだ、と目を細めた。
 きらきらと。君の放つ翠のひかり。
 過去も今も未来も、変わらずに照らし出す。想い。
「……お前?」
 と、彼は変わらない、出逢った頃とまったく変わらない清かな声音で問うてきたので。
「逢いたくて」
 そう囁いた自分の方へ、彼が滑るように細く白い両腕を差し出したので。
 左近は迷わずにその手を獲って、彼の胸に飛び込むように、抱き締めた。


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ゆみのや

Author:ゆみのや
戦国BASARA3の石田三成にぞっこん一目惚れいたし
こっそり応援し隊所存にございます。

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