BASARAの石田を幸せにし隊。

戦国BASARA3の石田三成をひたすらに応援するこっそり避難ブログ

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月白の羽根、水面の翠玉。 Ⅲ

お待たせしました、ようやく第三話。
予定では次で完結します。
左近と三成もちゃんと対峙します。ソコも描きたかったトコです。


オマケ↓
舞兵庫うp  右近うp

前よりはちゃんと描いた、舞兵庫と右近。




 愛馬の様子に気をつけながらも、左近は出来るだけ早く、と東――奥州青葉山を目指した。
 追手は無い。
 もしかしたら舞兵庫あたりが血相を変えて己を連れ戻しに来るのではないか、と最初の数日は思っていたのだが。あっさりと果たされた“脱走”に、少し拍子抜けと――安堵しながら、左近は天邪鬼な、と思いながらも「ま、俺一人居なくなったところで……今の豊臣には痛くも痒くもない、ってか」と呟いた。
 徳川家康に本多忠勝、三河十万のつわものたち。
 左近隊にしたって、半分は大谷の指揮で動いていたようなものだ。
「――んじゃ、急ぐとしますか」
 愛馬の歩を早足にしながら、行商人や、戦に備える地侍たちで賑わう街道を東へ、東へ。
 目指す奥州は――竜王と名乗る東の雄――伊達政宗が仕切る、叛・豊臣勢力の領域であったが。
 想い人は其処に居るのだから。
 今、どんな瞳の色をしている?
 伊達政宗の彼への庇護は織田の連中などと違い、確かな絆を感じられるモノであるし、彼が今は“伊達氏”ではなく「政宗殿」と彼を慕うが故に、信じて手を離した――あの日。
馬上で揺られながら想えば、昨日の夢が“彼”――柴田勝家と、己が清興でなく“島左近”と成ってからの軌跡を辿らせた。



 筒井家を、幼い順慶を、師であり義兄でもあった右近を守れずに生き延びた己は、狂犬のように彷徨い、誰彼構わず吠え掛かり噛みつき、生きる屍のようだったな、と。
 そんな時に、佐和山城で三成と運命の出逢いを果たした。
「秀吉様のタメに死ねる私には、貴様の心情など知る由もない」と云い切り――死に場所を求めているようで、実は“生きる理由”を必死で探していた己を見透かすかのようにトドメを刺さずに――踵を返した三成の背に、確かに月白の羽根を見た気がした、あの夜。
 ソレはなんて気高い、侵しがたい冬の月の白を想わせる孤高の――命を懸けるモノを、生きるべき理由を手にした者だけが持ち得る美しさで、己に迫ったことを。
 左近は想い出した。
 ソコは変わってないハズなのに。
 そう、家康の裏切りを、帰参を許したのは他ならぬ秀吉自身であるし、三成もソレに従ったまで。
 そう己を納得させようとしても、悶々と胸に留まる悔しさは幼い嫉妬なのだといい加減分かれよ、左近。そう、己に云ってみても。
 歩みは止まらず、東へと、東へと急ぐ。
 逢いたかった。
 抱き締めて、其の黒髪から立ち上る清か風のような匂いを、華奢な身体を、何よりも――まるで宝玉のように美しい翠玉の眼を確かめたい、今。
 君は求めてくれるだろうか。
 今更だよな。
「……あんたは、ちゃんと“未来”を手に入れたんだ」
 街道の外れにあった川原で愛馬に水を飲ませてやりながら。左近は、“彼”との二度目の始まりを想い起こした。



 石田三成の――豊臣の、左腕に近しモノとなった後。
 賤ヶ岳で、互いに前田家所領を目指し鉢合わせた時、変わり果てた表情の彼を見つけた時から、どこかで違う運命の旋盤が動き出した音を、左近は聞いた気がした。
 風の便りで聞いていた。
 主君・織田信長に叛旗を翻し、返り討ちにあったこと。その起因と成ったお市の方――勝家は信長を討ち果たした後、彼女を手に入れようとしていたともっぱらの噂――も、政略婚により、浅井備前守長政に嫁いでいったこと。名誉の切腹さえ赦されず、今や明智光秀の繰り人形のように扱われていること。
 あの頃のまま――そう、筒井城で初めて見た時と変わらない、美しい光の軌跡の技は、冴え渡る程なのに。
 その瞳が。
 まるで心を奪われた虚ろな人形(ひとかた)のように光を宿していないことに。
 酷く打ちのめされたのは、左近のほうで。
 かつて、筒井城で織田家筆頭家臣として、誇り高く――そして、美しく逆刃薙を舞わせ、高揚とした表情を刃に映していた柴田勝家を知ればこそ、余りの変わりように踏み込まずには居られなかった。
「――あんた、名前は?」
「……敵に名乗る名など、ない」
 あ、覚えてない。
 そうか、覚えていないのか。
 何故か胸に広がる安堵を己で不思議に思いつつも、
「俺は左近、豊臣の左腕に近し、島左近――!!」
 と。初めて刃を交えた二度目の始まりだった。
 激しく打ち合う中で不思議なことに、かつて三成に完膚無きまでに打ち伏せられた姿を、勝家の瞳の中に視た。
「――俺……!?」「――私!?」
 瞬間、キインッと双刃と逆刃薙は噛みあって。酷く近い距離になった互いの瞳に、それぞれの過去が写し鏡のようになった。
 だから、叫んだ。

 俺を、見ろ。しっかりと、見ろ。
 俺は、あんただ。未来のあんたなんだ。

 あの輝きを、もう一度見たかった。
 きらきらひかる、翠玉の眼差し。
 逆刃薙に映る、高揚とした表情を。

 一度死んだ自分で在ればこそ、彼にも同じようにもう一度――光を、“未来”を取り戻せると教えてやりたかったのだと。
 あの戦を切っ掛けに、互いに石田軍斬り込み隊長・織田軍尖兵として、幾度もぶつかり合うことになったことを、どれだけ天に感謝したことだろう。
「――でも、あんたは……俺じゃ、なくって」
 ふいに独りごちる己にはっとなり、「いっけね」と充分休んだであろう愛馬に「そろそろ行こう、陽が沈むまでに次の宿まで辿り着かないとな」と云い、左近は再び街道へと戻った。





 東へと続く大きな街道沿いでは、茶屋にでも頼めばなんとか屋根のある場所で眠ることが出来た。
 少しだけ酒を呑み、束の間の休息に引き込まれれば、また夢を見た。
 前の夢より少し、事が進んだ時の夢を。






 北ノ庄城での一騎討ちに乱入してきたのが、思いも寄らぬ客――浅井備前守長政であり、彼は己を探して彷徨い出た最愛の妻、お市の方を連れ戻すタメに――形振り構わず、織田軍も石田軍も突破してきたうえ、左近も勝家も「貴様らッッ我が妻を、まさかッッ!!」と一方的な思い込みと勢いで打ち破り――

「ながまささま……!!」

 ボロボロにされた左近と勝家が呆然としていた処へ、お市の方は憔悴しながらも現れて、ふたりはひしと再会を勝手に喜んで抱き締めあい見せつけた後――
「さあ、帰るぞ市!」
 と勝手に白馬に乗って走り去ったので。
 睨み合っていた両軍は完全に混乱状態に陥り、ついでに――
 想い希った人が、目の前で。
 完全に手の届かない場所へ去ってしまったことを。
 想い知らされた勝家は――涙も流せずにその場に崩れ落ちて気を失ったので。
「おいッッ勝家!?」
 と。
 其の細い身体を思わず抱き寄せて――
「――隊長ッッ!!」
 其の時。
 左近隊の副隊長、舞兵庫が息を上げて駆けつけてきた。
「一体何が起こった!? あの乱入してきた武者、アレって浅井長政かよ!? なんで、浅井と織田は決裂したハズだろう、っていうか、そいつ……!?」
 捲くし立てる舞兵庫に向かい――左近はぐ、と肚を括って名を下した。
「――兵庫助、勝鬨だ。織田軍は大将を置き去りにして撤退した、そうだな?」
「あ、ああ……って、そいつ……やっぱり柴田勝家か!」
「そうだ。俺達左近隊は敵将、柴田勝家を捕らえた。北ノ庄城に兵を入れろ、此処は石田軍が貰った」
「はぁ!!?」
 思わず間の抜けた返事をしながら、舞兵庫は左近が壊れ物を扱うかのように抱きかかえる細く美しい若武者を見やった。
「一体何が……って、首は獲らんのか」
 三成様が何と云うか、と舞が問うてきたが、「いや、ソレは俺が上手く云うから。コイツは殺さない。人質だ」と酷く真剣な声音で答え、「それより手当てを……勝家、しっかりしろよ……!」と勝家を横抱きにして城の中へと歩を進めたので。
「待て! 残党が居たらマズイ、左近隊で中を洗うまで待たんか!」
 と、年下の隊長を慌てて制し、全軍に慌しく左近に代わり、命を下し出した――



 北ノ庄城に残っていた僅かな残党を降伏させ掌握すると、左近は恐らく勝家の暮らす場所であったろう城で一番上等な広間に彼を寝かせ、小姓らに手伝わせ重い甲冑と鎖帷子を脱がせて、布団をあてがい急いで豊臣軍の軍医に手当てさせた。
 医者が彼を診る間も片時も離れようとせず、心から案じて彼に――柴田勝家に寄り添う左近の様に。金糸雀色の垂れ目を細めながら、舞兵庫は眉を潜めて左近の様子を窺っていたが。
 医者が「命に大事は御座いませぬ」と告げて離れると、左近は蒼白な顔色で静かに寝息を立てる勝家の額をそっと撫でて、酷く真剣な――その想い詰めた表情に。舞兵庫は悟った。
 ああ、そういうコトね。
 だが、いつまでも左近の好きにさせておくわけにもいかないので、舞は「隊長、ちょっといいか」と彼を広間から出して、「三成様への報告を纏める必要がある」と、いつも被っている仮面を外し、己よりも背が高く肉付きもよい左近の顔を一瞥した後――フッ、とからかう様に笑って、いきなりこう云った。
「――美人さんだねぇ」
「!!?」
 垂れ目の流し目で意味深に左近の瞳を捕らえながら。
 豊臣軍の中でも“たらし”で名高い左近隊副隊長――舞兵庫はニヤリと笑んだ。
「成る程成る程。まーお前の好みにピッタシっぽいよな」
 細いし美人だし色も白いし。
 続けられた言葉に、左近が耳まで赤くなりながら「ち……ちがっっ、何云ってんだって!?」とうろたえるので。
 舞兵庫は益々「図星か」と楽しそうにクク、と笑いながら「三成様にしたって、細くて美人で色白だしなぁ。お前ほんっとああいう感じのに弱いのな?」と云うものだから。
「――俺は三成様そんな目で見たことないし!! 絶対的憧れだし!? 勝家は違う、勝家は俺が救ってやりた――」
 あ。
 其処まで一気に捲くし立てて。
 マズった、と今度は顔を青褪めさせてみたがもう遅く、先ほどまでの笑みをすっとひかせ、兵庫は「救う……?」と。不思議そうに怪訝に目元を細めた。
「お前、柴田勝家と見知りの仲だったのか」
「あ、いや、なんっていうか……」
「救う、とはどういう意味だ」
 途端に、舞兵庫は竹中半兵衛の腹心――半兵衛の意向で三成の補佐をする為敢えて“副隊長”という肩書きで左近隊に加わった――切れ者の鋭い瞳に成って。
「あいつは豊臣の大敵、織田軍の尖兵だよな?」
 半兵衛と同じく小柄ではあるものの、内面の賢しさをそのまま刃にしたような舞兵庫の詰問に、左近は「う、その」と後退りしたが――
 き、と挑むように兵庫助の顔にガツン、と。
 己の額をぶつけると、「お」と驚く彼に向かい、告げた。
「俺は島左近、豊臣の左腕に近し、島左近、だ。それだけは絶対に真実だ」
「……」
「俺は三成様のタメに戦う。生きる。死ぬ。死んだ俺にもう一度、生きる道を与えてくれたあの人を裏切るなんて絶対にしない……!!」
 でも。
 ふら、と一歩。
 後ろに退きながら、急に少年の顔に戻って。左近は項垂れて。
「……勝家は……勝家はどうしても、“左近”じゃなかった頃の俺を想わせる。想い出させる。だから、俺みたいにしてやりたいんだ。もう一度。何度だって、やり直せるって。だって、あいつは、あいつは――」
 そこまで云うとブンブンと頭を横に振り、左近は切羽詰った眼差しで舞兵庫に請うた。
「頼むよ兵庫助、あいつをほっとけないんだ。でも、俺は絶対三成様を、あんたらを裏切るなんてしないから」
「――ま、俺は別に構いませんけど」
 裏切るもなにも、と続けながら。舞兵庫はごつん、と。お返しに左近に頭突き返して、「てっっ!」とよろける様にやれやれ、と肩を竦めながら続けた。
「結果的に石田軍に、豊臣に、三成様に、損にならなければいいんですから。俺はね。何があったかは知らんが……ま、せいぜい頑張って口説き落としな。さもなきゃ、あいつ――」
「……ああ、分かってる」
 もしも、勝家が豊臣に下ることを拒んだなら。三成が下す命は、ただ一つであろう。
「……こんなトコでなんて、絶対に死なせない」
 低く微かに呟きながら。左近は無意識に唇を噛み、拳を握り締めた。





 ――往かないで。
 
 長く豊かな、濡れるような黒髪を持つひとに向かい、手を伸ばし請うた。
 だが――彼女は
『ごめんなさい』
 と。
『市の胸の中には、もう白いお花が咲いているの』
 ごめんね。と、彼女は苦しそうに告げて、眩しい光の向こうへと――





「……い、ちさ、ま――」

 小さくそう呟きながら深く重い眠りから醒めれば、酷く痛む体が在って。
 そして――
「――勝家……!!」
 目の前に在ったのは、幾度も刃を交えたあの男の顔で。
 その明るい吊り目と視線が重なった瞬間、彼の表情が泣きそうに歪んで、それでも「よかった……!」と笑うので。
 勝家は本当に、今自分がどうなっているのか解らずに「……お前……は……」と辛うじて呟いた。
「ああ、心配しなくていいから。ココは北ノ庄城。あんたの城だよ」
 そう云いながら。左近は酷く用心深く勝家の頬にかかる黒髪を撫で上げて。
「ちょっといろいと起こりすぎたけど、とりあえずあんたは生きてる」
「……」
 己の置かれている状況を上手く呑み込めず、怪訝に眉を潜め、何とか半身を起こした勝家に向かい――左近は一瞬、息を止めた後。
「ごめんな。俺、あんたを攫っちまった」
 酷く真剣に。
 低い声音で左近が云いながら、起き上がった勝家の背に片腕を添えて、労るように擦った。
 其の手のひらの熱い熱に。勝家は酷く戸惑う己に、戸惑った。
「織田の連中はあんたを置き去りにして撤退しやがった。今、ココは石田軍……っていうか。左近隊が獲らせてもらった」
 左近の言葉にすべてを悟ると――「……そう、か……」と。勝家は力なくまた、俯いたが。そんな己の肩を――ぐい、と。男は掴んで抱き寄せたので、「――え?」と。思わず上ずった声音を出しながら、彼の顔を見上げるしかなくて。
「……なあ、勝家……もし、あんたさえ嫌でなかったら――このまま、俺の人質になって呉れないか」
 其の酷く、切なく揺れる声色に。
 勝家の深緑の眼が見開かれた。
「絶対、悪いようにはしない。俺が守る。織田の奴らみたいな扱い絶対しない。大事にするよ、俺があんたを守るから、だから――」
 そう云いながらそっと。左近はもう一寸、勝家の肩を掴み抱き寄せながら、其の黒髪を撫でながら請うた。
「なあ、豊臣に来て呉れないか」
「……な……」
 終ぞ優しく抱かれたことなど忘れた肌が、粟立つのを。
 目の前の――多分、歳も下のはずの男の瞳が――確かな欲を含んで迫って、気付けば吐息が感じられる程に。
「――かついえ」
 酷く掠れた声音で呼ばれれば、抗うことも出来ずに震えることしか出来ぬ身が在って。
 この男は――まさか。
 乱れる思考回路をどうにかしようとする間にも、左近の顔が、くちびるが――
 “いつも”ならば。
 こうして己に迫ってくる輩は、誰であろうと払いのけて打ち伏せた。“欠かれ柴田”と呼ばれる貶められた身であろうとも、それだけは受け入れられなかったから。
 其の事には光秀も、「此の期に及んで貞節を守ろうとは、殊勝なこと」と不可思議なことに、己を無理矢理組み敷こうとした相手らを処してさえくれたので。
 いつか――その“いつか”が来るのか、さえ想っていなくて。
 そうではなく、自分が想うのは、もう手の届かない処へ往ってしまったあの濡れるような黒髪の美しく儚い、妖しくて憂いを湛える瞳を持つひとだった筈なのに――
 気付けば己の手が左近の胸に添えられていることに気付き、勝家は「あ」と息を呑んで目の前に迫るひとが、己の頬に手を添え掬い上げていることに――
 
 いやではない。
そうだ、嫌ではない。

「さこん」
 微かな吐息程に彼の名を呼んでほんの少し、残された力で彼の胸を押し返して抗おうとしたが
「頼む」
と、酷く掠れた低い声音で囁かれてみれば、目の前の人の瞳に鈍く光る――欲の色に何故。背筋を這い上がるようなぬくもりを、震えるような心地よさを。

 嗚呼。
 
 思わず勝家が瞳を閉じた時だった。
 
どかぁあん、と派手な音がして、次に聞こえたのは舞兵庫の「なんで、貴様が此処に――ってのわぁああ!?」という悲鳴で。
そしてすぱぁあん、と障子が開かれて、其処に仁王立ちになっていたのは、奥州筆頭・伊達政宗その人で――
「――勝家ッッ無事か!!」
 そう叫んだ竜王の目に入ったのは、左近に抱き寄せられている無防備な勝家の姿だった。
甲冑だけでなく、鎖帷子も脱がされ漫智羅と軽衫だけとなり腹も露わになっている姿の彼の両肩を左近が掴んで抱き寄せる様は、どう見ても――
「テメェ……ッッ……!!」
 バチバチと。政宗の全身が怒りの電撃で光り出した。
「下種が……ッッ!! 今すぐその手を離しやがれ!! さもなくば」
 政宗の思うところを察し、真っ青になった勝家が左近よりも先に口を開いて独眼竜を制した。
「伊達氏、違う、左近は決してそのような――」
「さこん、だと……?」
 目線を改めて左近に移しながら、政宗は隻眼の竜の眼を蒼く光らせた。
「おい、石田の狗、テメェ勝家とはどういう……」
「りゅ……伊達政宗ッッ!? 違いますからッ俺は勝家を――ええっと、そのっっ!? てかなんで竜さんがココに居るんスか――」
「……かつての“オレ”を、光射す未来(さき)に導く……そのタメに、だ」
 うろたえる左近を隻眼で睨みつけながら、伊達政宗が低くドスの利いた声音で答えた時。
 ぎゃああ、と再び後方から悲鳴が響き、舞兵庫の「待ちやがれッッ!!」という怒号が――
「政宗様ッッ!!!」
 ざんっと現れたのは、竜の右目である片倉小十郎で――彼もまた、甲冑を脱がされ肌を露わにした勝家の姿と隣の左近を見とめると、「オイ……石田の狗……テメェまさか……ッッ……!!」とバチバチと全身から雷を疾らせたので。
「だーーーーっっ!! 違います、違いますって!!」
「違うのだ、片倉氏!!」
 今度こそ勝家は寝かされていた褥から身を乗り出して必死で説明した。
「浅井長政に手傷を負わされた私を、左近は介抱してくれただけで――」
「……What?」
 政宗が首を捻りながら、左近を睨みつけ。
「どういうことだ、Bad boy?」
「――いや、俺“島左近”って名前がありますから」
 ふ、と息を吐いた後、左近は押し入ってきた双竜に向かい正しく座した後。
「……勝家は、あんたらのトコに居たほうが、いいんだろうな」
 低く、真剣に政宗の隻眼と対峙しながら。問うた。
「このまま、俺が石田軍の人質として扱うよりは」
「左近……!?」
 黒絹の髪を翻しながら、勝家が左近の方を振り返った。
「――奥州竜王。あんたに託す。こいつを」
 はっきりと己を睨みつけている双竜にそう告げると、
「誰か、柴田殿の具足一式を持ってきてくれ! 逆刃薙もだ。全部返す」
 と、開け放たれた障子の向こうから息を呑んで様子を窺っていた左近隊の者に声を掛けた。
「左近、どういうことだ!?」
 こめかみに筋を立て、舞兵庫が陣羽織の裾を靡かせながら双竜の横を突っ切って――彼らをギン、と睨みつけ牽制しながら今度は左近の前に仁王立ち、睨みつけたが。
「兵庫助、竜さんたちは勝家を迎えに来ただけだ」
「はぁあ!?」
 己の軍の者でもない者を、と益々状況が呑み込めずに混乱する舞兵庫をよそに、左近は「それでいいよな?」と勝家に酷く優しい声音で問うたので。
「左近、私は」
 この期に及んで。
 ようやく勝家は心の何処かで――
 この男の傍に居たいのかもしれない、と。
 知りたい、何故己などを追うのか庇うのか構うのか。何故。あんなにも優しく。今、目の前に伊達政宗と片倉小十郎が仁王立ちになって鬼のように睨みつけてくる今さえも。この男は、何故――
 己の傍らに居続けるのか、知りたいのかもしれない。と。
「――勝家」
 不安そうに目を瞠る彼に、左近はそっと、だが力強く彼の両肩に手を置きながら、翠玉の眼を見据えて。
「往くんだ。そして掴んでくれ……俺はソレを望んでる」
「……さこ、ん……?」
 彼の云いたいことが解らなくて。思わず左近の腕を縋るように掴んだ己に驚きながらも、勝家も問うた。
「どうして……私の首を獲って、お前の主君に差し出せば、お前は」
 どうしてそうしなかった。
 その問いに、左近の柑子色の瞳が苦しそうに歪んで――だが彼はすぐにニッ、と無理に笑うと、懐をまさぐって賽を――賽を取り出して、戸惑う勝家の手に握らせた。
「コレ、あんたにやるよ」
「……え?」
「困った時の賽頼み、ってね。こいつぁ俺の相棒だった。今からあんたの相棒だ」
 そう云っている間にも、小姓たちが慌しく勝家の甲冑や鎖帷子、逆刃薙を運んできて。
あっという間に身なりを整えられた勝家に向かい、政宗が云った。
「往くぞ、勝家。石田三成が来ない内に」
「――伊達氏……しかし」
 渋る勝家に向かい、決断を迫ったのは片倉小十郎だった。
「勝家、往くぞ。此処に留まればお前は敗軍の将だ。いつ首を刎ねられてもおかしくはない……! 伊達で匿う。食客として来い、政宗様も其れを望んでおられる!」
 強くそう告げられ、勝家は戸惑いながらも踏み出すしかなくて。
 その手を。細い指を。
 左近は名残惜しく掴んでいたが――滑るように、離された。
「勝家」
 彼の深緑の、酷く揺らぐ眼をしかと見詰めながら左近は云った。
「きっと、また」
 逢えるから。
 その言葉をお互いに信じて、揺れる眼差しを、心を――離した、あの日。





 それから織田軍はほどなくして、重臣・明智光秀の起こした本能寺の変で崩壊し――勝家はそのまま、伊達軍の食客として、伊達政宗の横に立つ若武者として、創世乱世に留まることとなった。
 その間にどういうことか征夷大将軍・足利義輝は己とすべての配下を前田慶次の下に寄せ、其処に雑賀衆が加わり。日ノ本が豊臣、前田足利、伊達軍の三竦みとなり膠着状態となった時。
 島左近は青葉城のはずれ、豊かな山間で小十郎に頼まれた山菜を摘んでいた勝家の前に「よっ」と。本当に現れた。
 敵陣のど真ん中にも関わらず、本当に身ひとつで。
「元気? 調子どーよ?」
 と。
 無邪気に問うてくる左近に呆気にとられながらも――勝家はその手を取って、木陰に共に身を潜めたので。
 互いの主に秘めながらの奇妙な逢瀬は、始まった――



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Author:ゆみのや
戦国BASARA3の石田三成にぞっこん一目惚れいたし
こっそり応援し隊所存にございます。

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