BASARAの石田を幸せにし隊。

戦国BASARA3の石田三成をひたすらに応援するこっそり避難ブログ

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真っ赤な空を見ただろうか

バサラ4をプレイして、一番最初に書けた噺が慶輝、だ、と……

しかしあの慶次ドラマルートEDが素晴らしすぎたのでどーしよーもない!!!

と、いうワケで友達のハトしゃんも、慶輝にズっぱまったよ!!!

「ハト豆」

のハトしゃんのスバラ挿絵で、「ふたりがひとつだったなら、出逢う日など来なかっただろう」
な、慶次と義輝のお噺。

はいはい、バンプバンプ。




晴れ渡る加賀の空を見上げ、今は大鎧を外し空色の涼やかな直垂に身を包んだ天帝――足利義輝は、精悍な顔に映える葡萄(えび)色の双眸を眩しそうに細めた。それから目の前に広がる青々とした畑で、前田の若き当主――慶次が、民草達と愉しげな歌を囃子ながら、ごく自然に彼らに溶け込んでいるのを、眺める。

「今日な俺の大事な友垣が来てくれたんだ、新鮮な収穫でたんとご馳走したいから、皆頼むな!」
「はいっ若殿!!」
「義輝も見てご覧よ、うちの立派な畑をさあ!」
そう云って慶次が己を加賀の地まで引っ張りだしたことにかつての日ノ本の帝王は、不思議な心持ちで“名も無き民草”、と想う者たちと、彼らと肩を並べて、秋の野菜を楽しそうに慶次が収穫している様を、どこか心に此処に在らず、と。
 ふわふわ、浮ついているような心持で、だが――御所で培った――それが、幼き日、流れ公方と成った自分には必要な生き残る術だった――唇には弧を描かせて。
 畦道の上、何処か手持ち無沙汰で居たら。
 気付けば、己の足元に――土で汚れた童たちが、いつの間にか慶次と同じくらい大柄な義輝を、鬼でも見上げるかのように団子になっているのを。
「んん」と思わず口を開けて仰け反ったのは義輝のほうだった。
 彼らの――余りに無邪気で無遠慮な――決して京(みやこ)では小供さえ、己にこんな視線を投げかけてはこないので。「たそかれぇ?」「けいあにぃの、ともがきだって」「けいあにぃとおなしくらい、おっきいよ……」と彼らが好き勝手に己を検分してくるのさえ、無礼とも思えずに。ひとりひとりのきらきらひかる、土に汚れたまるい頬を、瞳を見詰めていたら。
 後ろに控えていた近衛家の近習が「貴様ら!! 下がれ、くぼ……殿の衣を汚す気か!」と追い払おうとしたので、「待て、この者らは慶次の、我が友の民なるぞ」と制した。
 それから義輝は片膝をついてしゃがみ、己から少し離れて怖々と窺っている小供らに向かい
「御機嫌よう、幼き民草らよ」
 と。なるべく優しく響くように、と静かに挨拶の言葉をかけたが。
 小供らはきょとん、とすると
「ごき……?」「ごきげ?」「……むしのなまえ?」
 と、また己から後退ったので。「お」と義輝はまた困ったように身動きできなくなっていたら。
「こーら、お前ら! きちんと挨拶しろっ俺の大事な友垣だぞ!?」
 威勢良く声を張り上げながら、慶次が土で汚れた膝や腕をぱんぱん払いながら、畦道の上へと向ってきたので。小供らは援軍を得たかのように
「おいら、かめきちってんだ!」「おれはごへえ!」「あたい、ちさ!」
 と、次々と名乗りを上げたので。
「おお」
 そうであったか、と義輝は納得したかのように頷くと
「我が名は義輝。皆、見知りおいて呉れ」
 そう云って微笑む義輝の姿に、あっという間に小供らは心を許して好奇心のまま彼を取り囲んだ。
「よしてるは、おさむらいさん?」
「きれいな色のおべべー」
「お、おいおい“よしてる”に“様”をつけろよ!」
汚れた小さな手で遠慮無しに豪奢な直垂の裾を掴む子らを引き離しながら、慶次は
「義輝は偉いんだぞー、位の高いお侍だからな。よしてるさまって呼ばないと」
「いや、よしてる、で構わぬ」
 え、と目をぱちくりさせる慶次に向かい、彼は云った。
「うぬも云ったではないか。“この広い天の下、これからたくさん出逢って見つかる”と。目の前のこの子らも相違は無い。皆、吾の友と成って呉れるか? 吾にこの土地の……慶次の治むる地のことを、教えて欲しい」
 まるで、同じ齢の者にするのと同じように。
 美しい直垂に身を包み、顔立ちも人形のように整った義輝が微笑みながらそう請えば、小供らはまるで殿様からお声をかけてもらったぞ、とでも云うようにはしゃぎだした。
「うんっ! いいよー!!」
「あのねあのね、けいあにぃの好きな柿の木、実がなったんだ」
「だからね、今からみんなで、けいあにぃといっしょにとりにいこうとおもってたんだよ!!」
「ほう!」
 それは愉しそうだ、と。
 慶次の視線を捉え「では往こうか!」と、当然のように云い放つと、彼は慶次の返事を待たずに小さき友らにさせるがまま、後ろに控える二人の近習が顔を青くしているのをまったく意に介さずに、小供らと手を繫いで歩き出した。



 公方、で在る筈の人が、衣を盛大に土や枯葉で汚しているうえ、両手につやつやとした柿の実を抱えてにこにこと。このうえなく満足そうに勝手口から入ってきたことに、利家が正室、まつや夕餉の支度をしていた侍女たちが息を止めて固まった。
 夕暮れ近い、前田の居城、金沢城。
「く…… こ、これは! なんと、まあ、皆畏まりなさい、慶次の大切なお客人です!!」
 まつが慌てて侍女らを平伏させたが、義輝は逆に「む」と気まずそうに後ろの慶次を振り返った。ので、慶次は肩を竦めると「まつねえちゃん、いいからいいから。今はお忍びだから、さ」と片目を瞑りながら「皆も手を休めなくていいよ!」と侍女らに告げて。
「それよりさ、これ夕餉の後で剥いて出してくれな!」
 そう云いながら、慶次は義輝の抱えていた柿の実をひとつ、手にとってまつに渡した。
 その実を慶次の肩から飛び出して義輝の肩に移った夢吉が「きぃ、きぃ!!」と欲しがるので「今、夢吉にだけやってはならぬか」と、義輝が問えば「今やると、夕餉食わないよ、コイツ」と慶次が答えたので、「それはいけない。耐えよ、夢吉」と。己の肩に在るちいさな“友”に向かい彼は微笑んだ。
 きぃきぃ、と義輝に向かって「たべたいよぅ」とねだる夢吉を見て、まつは心底驚きながらも、きりっと眉を上げて「夢吉、我慢なさい」とぴしゃり黙らせた。それから「失礼をば致します」と頭を垂れた後、義輝の手から柿を取り「湯を用意させますので、おみ足を洗わせましょう。慶次も!」と、侍女に申しつけふたりを台所から見送った。
「……本当に、公方様が……」
 慶次と肩を並べて歩く――彼は間近で見ると意外と若く、慶次と同じくらいの歳のようにさえ見えた――義輝の背を見詰めながら、まつははあ、と息を吐いた後ぱっと背筋を伸ばし「こうしてはおられませぬ、ささ、皆手を休めないで。鶏の煮たのは出来ておりますか? あの御方は京のお侍ですからね、あまり濃い味付けはなりませぬよ……」と、慌しく夕餉の準備に戻った。



 やがて秋のつるべ落としの陽が暮れる頃、金沢城の大広間に、まつが心を込めた品々が運ばれて、上の座には客人である義輝、其の横に慶次、向かい合って利家が、食前から盃を交わしつつ、まつと侍女らが手際よく夕餉の膳を整えるのを待った。
「これは、なんと豪勢な」
 と、朱色の膳に並べられ、ほかほかと温かな湯気を出す品々に、義輝が目を細める。
「公方様の御口にあいますかどうか」
 まつが三つ指をつきながら義輝に向かい畏まれば、
「公方、などと呼んで呉れるな、利家公が室よ。予は天政奉還した身なれば、今は只の“義輝”ぞ」
 そして――ほんの少しの躊躇いと間を置いて。だが、彼は云った。
「慶次の友、であれば」
 その言葉に、まつが思わず顔を上げてそれから――「そうですね」と。ふふ、と愛らしく小首を傾げながら、「なればわたくしのことも“まつ”、とお呼びください。慶次の友は、前田の友にございまする」と云うので。
 彼女の慈しみに満ちた言葉と笑みに、義輝の顔も思わず綻んだ。
「利家公は、まこと善き嫁御を得られた」
「い、いやいや、それほどでも……ってそうじゃない、くぼ……足利殿、まつも申したとうり、慶次の友は前田の友。某のことも、利家とお呼びくださればよい」
 そう云って誉の傷をこさえてはいるものの、きり、とした美丈夫である利家とその横でまつが微笑めば、そうか、慶次はこんなぬくもりの中で育ったのだな、と――義輝は
「慶次は好き家に生まれついた。予はまこと、羨ましい」
 と、何処か寂しげに笑んだ。
 その様に「……義輝……」と。慶次は一瞬だが――彼が“生まれながらの将軍”として背負ってきた――孤独を垣間見て。
 慌てて、「さあ、冷めないうちにいただきましょうか!!」と、ぱぁんと威勢良く両手を合わせた。だが――
「待て、慶次、毒見が済んでおらぬぞ」
 次に出てきた義輝の言葉に、一瞬――利家とまつ、そして慶次がぽかん、と。
 本当に驚いて口を開けて義輝の方を見やった。が、次の瞬間――あっはっは、と慶次が笑い
「だぁいじょうぶ!! 前田の飯は、まつねえちゃんが台所仕切っていつもこさえてくれてるんだ、毒を入れようと思っても、まつねえちゃんの眼光から逃れられるヤツなんかいないよ!」
「――まさか、前田の家では毒見をせぬのか!」
 義輝の驚きの声に、慌てて隣の部屋に控えていた彼の近習が「成りませぬ!!」「せめて義輝様の膳だけでも、我らが毒見を――」と身を乗り出したが。
「……そうか」
 その必要が、無いのだな。
 うむ、と潔く笑みながら頷いて「よい、其の方らは下がれ」と云う義輝に「ま、まさか!!」「成りませぬ、義輝様!」と近習たちは食い下がったが。
「黙れ、此処は前田の治むる土地なるぞ。其の当主で在る前田慶次が、我が友が“要らぬ”、と申しておるのだ。何を疑うことがある。毒見は要らぬ」
 毅然と申し付ける義輝の様に、嗚呼、これは何を云っても届かぬ時のお顔だ、と近習らが真っ青にうろたえるのを見て、さすがに気の毒になった慶次が
「別にいいよ。しないとあの人たち、後で怒られない?」
と義輝に耳打ちしたが、
「誰があれらを叱るのだ。予が命じたことに従ごうたまで。予に逆らう方が、余程の不遜ぞ」
と当然のように云い放ったので、慶次は「ああ、やっぱり“天上人”なんだな、この人……」とほんの少しの距離を感じた。





 次の日、慶次と義輝は手取川までうなぎを獲る仕掛けを持って出掛けた。
「秋のうなぎはまこと美味でございますよ」
 と、まつから聞いて「獲りに往こう」と瞳をきらきら光らせた義輝に、慶次と夢吉が付き合ってやることになったのだ。
その周りには、昨日義輝が得た新たな小さき友たち、そして後ろに変わらずに近衛家の二人の近習が冷や汗を絶やさぬままで――ついて来ていて。
少しちぐはぐな連れあわせ一行は、川辺のほとりで、仕掛けにみみずやら昨日の夕餉を作る時に出た鶏の肉の切れ端やらを、仕込みだしていた。
「これで本当に、うなぎが獲れるのか」
 ううむ、と真剣に編んだ籠の中を覗き込む義輝に思わず吹き出しながら
「分かる? ほら、中さ、返しになってんの。入る時はすーっと餌めがけてうなぎが入ってくるだろ、でも戻ろうとしても狭いだろ? 出る口がさ。それで諦めて中で餌食い続けるじゃん、腹がふくれて余計出られなくなるじゃん? その頃合にそーっと引き上げるんだよ」
 慶次の説明に「ほう……!!」と。まるで少年のように義輝は瞳を輝かせた。
 けいあにぃは捕まえるのうまいよぉ、よしてるとれるかなぁ、と周りで囃し立てる幼子らに向かい、挑むような鋭い瞳で「何を申すか、慶次に出来ることが予に出来ない筈がない」と不敵に微笑んで。
「よし、慶次、競おうぞ。どちらが早くうなぎを捕まえられるかを」
「えー?」
 知らないよぉ、俺上手いんだから、と笑いながら、慶次がぶん、と仕掛けを水面の岩陰に器用に投げて落とした。
「魚はね、用心深いから木陰とか岩陰に居るからね。あそことかいいんじゃないかな!」
「うむ、では、いざ!!」
 ぱしゃん、と義輝の仕掛けが川面に落ちて、暫くの待ちの時間が訪れた。



「――ほう、それが孫市との出逢いであったか」
「う、うん、まあ」
 仕掛けに獲物が掛かるまでの暇、義輝が訊ねてきたのは己と雑賀衆を引き逢わせた慶次と、美しき煙烏である三代目孫市との馴れ初めだったりして。
「なんというか……あんまりにも真っ直ぐで綺麗なうえに、男前でさぁ……」
「うんうん、分かるぞ」
 友よ、と楽しげに頷きながら、義輝はまるで己のことのように。
「美しく気高く強い、赤き炎の八咫烏よな。うぬが引き逢わせて呉れたこと、真、感謝しておるのだ。お陰で予はあの火筒の力を得たのだし」
 彼女こそ、と義輝が続けようとしたら、退屈した小供らが「ねえねえ!」と二人の腰に抱きついてきたので。
 おお、と義輝が腰に抱きついてきたおのこの頭を撫でてやれば、その子は嬉しそうに満面の笑みを浮かべた後、彼の脇差を目ざとく見つけて「すごぉい、きらきらひかってきれいなかたなだね!」と云うので、「うむ、持ってみるか?」と義輝に問われ、小供は「いいのっ!?」とはしゃいだので、孫市の噺は其処で終わりとなった。


 いいのかなぁ、と慶次は心配そうに義輝と、彼の脇差を鞘から抜いて構えるおのこ――亀吉、と云う名だった――それを取り巻き騒ぐ子らを見守っていた。
 義輝の護衛である近衛家の二人のもののふは、最早息もしていないくらいに真っ青になっていて。
 そりゃそうだよねえ、と心底気の毒になりながら、あの刀、どれだけの価値があるんだか、と思案した。
 義輝がこの世のありとあらゆる名刀を御所に秘蔵しているのは有名なことだし、多分、今腰から下げている太刀もそれひとつで城が建つくらいの価値があるのだろうと。あの脇差も、簡素なようで研ぎ澄まされた刀身を見れば、名立たる名工の作であろうことは、慶次も分かった。
 それを彼はいとも簡単に、己の子でもない小供に持たせて笑んでいるのだから。
「ほんと、無邪気というか無防備というか……」
 はあ、と息を吐く慶次の肩で「きぃ?」と夢吉は不思議そうに首を傾げた。
「いやさあ、だってかつてはこの日ノ本を掌握していた天帝だよ? 義輝は。そんなひとなのに、なんていうか……」
 ちっとも、えらぶってないのな。
 そう呟く慶次の目線の先で、義輝は頬を上気させて脇差を構える子の背に手を添えて、指南までしだしていた。
「背筋を真っ直ぐに、前を見据えよ。胸を張れ。何より肚に力を込めねば成らぬ」
「う、うんっっ!」
「それから、是が最初で最後の一太刀、と思い振り下ろすのだ。それこそ、塚原卜伝が一ノ太刀の真髄である」
「――う、うん!」
 彼は相手が小供でもあるにもかかわらず、まるで己と同じ齢の者と対峙するかのように、真剣に説いていた。
「定めなければならぬぞ、何故其の剣を振るうのか。そうしなければ、相手を斬ることは出来ぬ」
「じゃあ、たとえばどんなの?」

 よしてるは、なんのために剣を振るったの?

「……予、か」
 今まで生き生きとしていた義輝の顔からひゅ、と。
 輝きが引いて、彼は静かに俯いた。そして――一瞬、両の目を閉じた後、彼は力なく首を横に振った後――
「……予は、その“定めるべき理由”を……」
 
失くしてしまったからな。
 
 その言葉に、慶次が眼を見開いて――項垂れる義輝と、不思議そうに彼を窺う子らを見詰めた。
「なくしちゃったの?」
「嗚呼。正しく云えば、自ら棄ててしまったのだ。其の、真の重みも知ろうともせず」
 義輝の言葉に、小供らは不思議そうに顔を見合わせて、急に押し黙る彼を見上げていたが。
 脇差を渡されていた子が、す、と其れを――義輝に返しながら、云った。
「じゃあ、またみつければいいのではないの?」
 そう云うたおさなごに、差し出された刀に、義輝の息が止まった。
「またみつけて、剣をふるえばいいのではないの?」
 それじゃ、ダメなの?
「……また、見つけて……」

 そんなことは。
 
 掠れる様に呟いて、項垂れて身動きしなくなった彼を囲んで、小供らは心から心配そうに
「どうしたの?」「だいじょうぶ? よしてる」
 と、彼の背中をさすってみたり、手を握ってみたりしてみたが。
「…………」
 そのぬくもりが。余計に彼を追い詰めた。
 この子らも。この子らも、本当ならば。

 この手で護るべきモノであったのに。

「――義輝ッ! おい義輝――!」

 慶次の呼びかけに、はっと顔を上げれば、彼はうなぎを獲る仕掛けを引き上げてそれを頭上に掲げながら。
「俺の壷、ちゃぁんとうなぎを捕まえたよッッ!!」
「――何!」
「義輝のも上げてごらんよ!」
 いこう、よしてるいこう、とおなさごらに引っ張られながら、慌てて脇差を亀吉の手から受取り鞘に納めると。義輝は川辺に辿り着き、酷くゆっくり、用心深く仕掛けを引き上げたが――
「……なんと……」
 先ほどまでの顔色が嘘かのように、義輝はまた――小供のように無邪気に。
「……入って、おらぬ」
 と。
 本当に心から落胆し、肩を落として己を囲む子らにも、からっぽの壷を見せた。
「だからいったじゃん!」「けいあにぃはとるの、うまいよぉって!」「よしてるのまけー!!」
 きゃいきゃいと囃し立てる子らに、義輝は「ううむ」とこれまた酷く真剣に唸った後――ころっと笑った。それはとても、穏やかでやわらかく――素直な笑みだった。
「……思い通りにいかぬとは、面白きことだ」
満面の笑みで、彼は慶次を見上げた。
「慶次、此処にうぬに招かれてから、予には想わぬことばかりが起こる」
 予の知らぬことの、何と多いことか。
「――いや」
 そうではない。そうではないな。
「吾は、知ろうとしなかっただけ、か……」
 続けながら目元を細める彼の顔を、慶次は何故か――ちくり、胸に不思議な痛みを感じながら見詰め返して。
 今は、その痛みの理由が分かってきたから。
 ここは、話すトコロだよな、と。
「よーし、それじゃ、ちょっとお使い頼まれてくれるかい? お前さんたち」
 うなぎの捕まったほうの壷を幼子らに差し出しながら、慶次が続けた。
「これ、まつねえちゃんに届けてくれ。俺と義輝は紅葉狩りでもしてから、ゆっくり帰るからって」
「えー」「おいらたちもー」
「まぁまぁ、あっじゃあ夢吉も一緒に行くって! 頼むよ、夢吉」
「ききぃっ?」
「ゆめきち!」「おいで、ゆめきちー!」
 慶次の肩から次々と手を差し伸べる小供らの頭の上へ、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら「き、き!」と夢吉が「まかせておけ」と云うように鳴いた。
「それっと……」
 愛想のよい笑みを浮かべながら、にこにこと。慶次が歩み寄ったのは、常に義輝に付き従い決して離れようとはしない――近習の彼らで。
「あのさ、おにいさんたち悪いんだけど、あの子たちと夢吉を城まで送ってやってくんない?」
「「な、なに!?」」
 声を揃えて顔色を変えた後、ふたりは「義輝様の御身を護ることが我らの役目」「何かあったらどうするおつもりか、前田家当主いえどそのような」と慶次に向かって捲くし立てたが。
「では、予が命ずる。この子らと夢吉を、無事にまつの処へ送り届けよ」
 あんまりにもあっさりと、肝心の“帝”は友である前田家当主の肩を持ったので。
「しかし帝」「此処は京ではないのですぞ」と半分泣きながら食い下がったが
「――予の命が聞けぬ、と?」
 一言。
 義輝が鋭い眼光を放ち、低く声音を落とせば、彼らは「「……ぎょ、御意……」」と答えるしかなく。
 心の中で「ごめんよー……」と謝りながら、慶次は義輝の後ろで片手で頬を多い、溜息を吐いた。





 二人だけになってみれば、川の流れる音は大きくなり、水面に時々走っていく紅葉はまるで御所で見た絵物語のまま、いや、それ以上に――“本物”は美しいものだ、と。義輝はぶらぶらと歩く慶次の後ろを静かについていった。
 陽が傾き出して、夕暮れの赤に近付きつつある手取川のたもとを。
 やがて「お、あったあった。あれ、俺の好きな岩」と、慶次は大きな、川面に突き出した巨石を指差して。ふむ、いいな。と義輝が答えたので、ふたりは苦もなくひと飛びで、その上に辿り着いた。
「あのさぁ、義輝」
 どっかと石の上にあぐらをかくと、慶次は隣に義輝を座らせた。
「無理しなくて、いいと想うよ」
 云いながら、義輝の顔を覗き込めば、彼は眼を見開き――息を呑んで。
「もう、全部天に還しちまったんだろ? だったら、あんたが背負うコトなんて、もうなんもないよ」
 代わりに、俺が背負うから。
「前田の家督を継いだ時に、俺、肚括ったから」

 日ノ本みんなが、笑って暮らせる国にするって。

「別に、それは前田が天下統一するってワケじゃなくって。皆が戦なんかじゃなくって、きちんと分かり合える場を整えれば、きっと沢山船頭が居ても国は進んでけるんじゃないかなって……今、ぼんやりだけど、考えてるんだ」
「――慶次よ」
 義輝が応えた。
「其れは、本来なら……其れこそが、幕府の、予の、帝たる将軍足利義輝の……役目だったのだ」

 其れを、吾は放棄した。

 精悍な高い鼻筋の横顔が、酷く冷たく、美しく凍るようになるのを。
 慶次は息を呑んで、見詰めた。
「足利将軍家嫡流として生まれた時から、吾の運命の旋盤は定められていた。将軍として、民草の為に、日ノ本の為に生きる。生きねば成らぬ……そう、決まっていたのだ。吾はそう信じていた。いや。信じさせられていたのだ」
 家名に、父に、母に、臣に、取り巻く小さな、其れは“幕府”という名の世界に。
「其れに気付いた時、吾はすべてを壊したくなった」

 そして、そうしてしまった。

 そう云う彼の声は、震えていた。
 あんなにも、絶対に強き者、として人々の頭上に君臨していた王が。
「予を理解するか」
 と。
 あの時でさえ、張り付いたような笑みで応えたひとが。
 葡萄色の瞳に水鏡を張ったかのように、必死で零れ落ちそうな涙を浮かべて、喉を震わせ、強く拳を握り震わせて――
「吾は知りもしなかったのに。此処で得たちいさき友ら、あのように必死で毎日を紡ぐ者たちが、吾を、幕府を、日ノ本を支えていたのに、知りもしなかった。知ろうともしなかった……! 民草らの苦しみを、生を、この足で、目で確かめもせず、誰も吾を理解しないと、本当に身勝手に、すべてをこの手から――」

 放り投げてしまった。

「吾は赦されぬ、己を支えていて呉れた者達を見返りもせず吾は、吾は……」
 嗚呼、と。義輝は強く眼を閉じた。
「誰も、吾のことなど理解ろうともしないと、本当に、勝手に……ッッ!!」
 そこまで絞るように吐き出すと、義輝はもう、耐え切れないように俯いて唇を噛み締めた。
だから、慶次は迷わず彼の肩を抱いた。
 震える拳に己の手を重ね、必死で伝えた。揺さぶった。
「それでよかったんだよ、義輝……!!」
 驚いて義輝が己の肩を抱き寄せた友を見やれば、彼の瞳にも己と同じように涙が湛えられていて――それは、お互いの姿をはっきりと映していた。
「それでよかった、壊したから、壊せたからこうしてあんたと俺、今こうして居られるんだから」
「けい、じ……」
「あんた、人としていっっちばん大切なトコすっ飛ばして生きてきたんだな」
 俺、何にも分かってなくて。
「いいじゃないか、義輝、義輝は義輝のタメに生きればいいよ、これから」
 必死に、笑おうとしているのに上手く出来なくて泣きそうな慶次の様に、義輝はただ、ただ圧倒されて。それは、とても正しい姿に彼の目に映った。
 ただ己の心のままに、繋がりを守ろうとする強さを。
「あんなに絢爛豪華な場所で生まれ育ったのに、たくさんの家来に囲まれていたのに、あんた今まで本当に独りぼっちだったんだな」
 そこまで云うと、慶次の瞳からとうとう――大粒の涙が流れ落ちたので。
 呆気にとられて彼の涙を見ていたら、自分の目からも同じように涙が零れ落ちたことに、義輝はこのあたたかいものを感じるのは、一体幾年振りなのだろう、そうだ、あれは幼き日、流れ公方と成り京を落ちた時から――
「――慶次……」
 この気持ちを。
 この気持ちをなんて伝えればいいんだろう。
 長い、長く生きて、生き過ぎた、とさえ想った此の身なのに。
 こんなにも、欲したモノは今――
「もう、独りじゃない」
 そう云いながら顔を上げた慶次の瞳には、強い光があった。
「もう独りじゃないから。義輝は、絶対。一緒に探そう、あんたがあんたのタメに、心から笑える理由、生きられる理由を」

 理屈ばかりこねまわして、すっかり冷めたと想った胸の奥から、一気に留めていたモノは今、溢れ出して涙になった。凍っていた時を溶かすかのように。

「……ありがとう……」
 義輝はやっとの想いで震えた声で伝えると、堪えきれずに大きく肩を震わせて、泣いた。
 声をあげ、もう“帝”という名の檻に己を圧し込めずに、泣いた。
 おお、と嗚咽する友の肩を、背を、慶次もまた抱き締めながら泣いた。
 一度は無二の友を失くし、その意味さえ分からなくなった己にまたもたらされた繋がりに、あんまり嬉しくて切なくて。
「……帝ではない、吾を……そう、云ってくれる者を……者が、居たのだな……」
「ここにいるよ……!!」
 いつだって呼ぼう。
 君が独りで泣けもしない場所へ、また行ってしまわぬように。
「俺とあんたは友垣だから」
 そして慶次は力強く頷いた。大切な、新たな絆にむかって。
「絶対に、絶対に、忘れないでくれ。たとえ義輝が忘れてしまっても、俺は絶対に忘れない」
 その言の葉に。
 義輝は、涙を零しながら笑った。
 作り物ではない、心からの喜びを込めた眩しい笑みだった。
「吾も、うぬが忘れてしまっても、決して忘れない」
 そう云ったあとで、また「はは」と、彼は笑ってぐい、と大きな手のひらで己の涙を拭った。
「おかしなことだ。互いに“忘れても”、“忘れない”、と云っている」
 だから、慶次も笑った。涙をそのままに。
「――ははっ! ほんとにねえ!!」
 こんな風に抱き合って、一緒に泣いて笑って。それなのに。
「人って儚いからねぇ」
 慶次の云うことに、義輝は心から嗚呼、本当にそうだ、と想った。
 うたかたのゆめ。
 そんな時代、乱世に生まれて。
 それでも。
 出逢った。出逢えた。
「――だが、強いな」
 今度は慶次がはっとして、義輝の笑みを見詰めた。
「こうして……嗚呼、慶次、吾は今こそ“生まれた”気がする」
 ふいに射し込んできた真っ赤な夕焼けの光線に。
 眼を細めながら義輝は顔を上げた。
 変わらずに流れる川も、山も、空も、自分達が座っている石も、すべてが真っ赤に染め上げられていた。
ひとつの色に。

「……忘れずにいよう」

 この夕焼けを。真っ赤な空を。
 ふたりで並んで見た真っ赤な秋の夕焼けを。

「――うん」

 絶対に忘れない。

 慶次も同じように眩しそうに目を細めながら、彼の肩を抱きながら頷いた。

「大丈夫。きっとみんな、なんとかなるよ」

 慶次の言葉に、義輝もまた、微笑みながら頷いた。




真っ赤な空を見ただろうか・挿絵
illustrated by ハト
「ハト豆」

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ゆみのや

Author:ゆみのや
戦国BASARA3の石田三成にぞっこん一目惚れいたし
こっそり応援し隊所存にございます。

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