BASARAの石田を幸せにし隊。

戦国BASARA3の石田三成をひたすらに応援するこっそり避難ブログ

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One Thousand and One Nights 【the first part】

大変お待たせしました…!『いま 帰り来む』と『燭蛾【陽】』を足して2で割った“十年後”を舞台にした、家三小噺前篇やっと、やっとお披露目です…!

も~~広告出るまでなにやってんだよ~~~;;
ってお待たせしてすいませんでした…!だけどその代わりがっつり後半にR18(ry

今回はまだそこまでムニャムニャ、なのですが、後篇がっつりR18要素入れましたので最初からR18指定とさせて頂きました。

三成が随分落ち着いているのや前田家が相変わらずなとことか、さりげなく慶孫です。宜しくお願い致します。


……後篇はパスワードかなんかで、未成年の方が見てしまわぬようにせねば、か;;








「あら、鰯雲」
 真夏のあおから微かに秋のこがねに染まりゆく、手取川の銀杏並木のその向こう、まつが高く晴れ渡る空に浮ぶ、美しく魚の鱗を描いた様な雲を見上げながら呟いた。
ので、旅装束に身を包み、笠を被った三成も思わず空を見上げて薄い色の目を細め。
「何時の間にか、もうそんな季節なのだな」
 ふいに過ぎった秋風に、三成が思わず羽織を胸の前で寄せるので、まつはまた心配を浮かべた母の顔に戻り彼に声をかけた。
「佐吉殿、もしもあちらに居るのが辛くなったら、直ぐに戻ってくるのですよ」
 そう云って三成に歩み寄っていと惜しそうに肩を擦る奥の様子に、後ろに控える利家が
「まつ」
 と彼女の名を呼んで、苦く笑いながら肩を支えた。
「佐吉殿はもう小供ではない。お前がそんな顔をしていたら、ほら見てみろ。佐吉殿が旅立てない、という顔をしてしまうではないか」
 そう云いながら利家が顔を上げた先には、穏やかに年月を重ねた三成の細い面の、心配に曇った顔があって。
「まあ、だめですね。まつめとしたことが……そうですね、此度のこと、佐吉殿が自ら決めたこと。ああでも心配なのです。あちらの食事と水は佐吉殿に合いましょうか?肌寒くなってきましたけれど、あちらではきちんと城で暖を――」
「まつ」
 利家はまた呆れたように、一番大事なひとの背中をばん、と叩きながら続けた。
「某たちよりも、竹千代のほうが余程佐吉殿を壊れ物の様に大切に扱っているのは分かっているだろう?」
 利家の言葉に、青年がばつが悪そうに俯きながらぼそっと
「……申し訳ない、私がもう少し……」
と云うので、まつは慌てて「あなたが悪く思うことなど、なにひとつありませんよ」と心からの労りを込めて彼の 手を握り擦った。
「……まつめが案ずるのは、隠し通せるものかどうか、ということなのです……」
 まつの言葉に、三成の苔色の大きな吊り目と、利家の明るい色の二重の双眸が微かに伏せられた。
「――隠し通さねばなりますまい」
 ふいに凛として応える三成の様子に、加賀百万石を築いた夫婦の瞳がはっとして見開かれた。
「すべて承知の上。それでも私は往くと決めた。どうか、御二方ともご案じ召されるな。私はもう――血に飢えた凶王三成ではないのだから」
 御二方の元で養って貰ったお陰で、随分とまるくなったであろう。
 そう、続けた三成の言葉に――思わずまつが「……そう……そうですね、まつめはあなたが竹中様と秀吉殿の子と想うて、精一杯お世話致しましたよ」と、小袖で目元を覆うので。
 慌てて利家が「こらまつ、だからお前がそうでどうする!」と奥の肩を抱いた。
 そして、す、と背筋を正し――前田利家は旅立つ人に向かい
「佐吉……いや、三成殿。竹千代……徳川家康ならば貴殿をきっと大切にして呉れると信じて、送り出そう。前田の家のことは案ずるな、某がまつと子らをちゃんと……ってまつ!だから泣くなって!!」
「だって犬千代様、まつめにとってはもう佐吉殿は慶次の次の弟のようなモノだったのですよ、ずぅっと前田の家に居るものと想っていたのに……」
 と、出逢った頃と変わりない――優しさでまつが必死に云うので。
 三成は今度こそ、あの頃だったら絶対出来なかった明るい笑みを浮かべて、まつの手をもう一度しかと握り締め「ありがとう、まつ殿」と、ひとつ、強く頷いた。
 利家とまつの向こうに見える、今はあの頃よりずっと立派になった前田加賀百万石の金沢城――そう、十年――己が養われた場所を目を細めて焼き付けた後。三成は踵を返し、控える迎えの――相も変わらない本多忠勝の巨躯を見上げた。
「……こんな太平の世に……ただ加賀から駿府へ往くだけなのに……」
 何故わざわざ貴様か、馬ではいかんのか、私は姫か翁か?と、苦虫を噛み潰したような顔で三成が吐き棄てると、忠勝が少し情けの無い起動音を鳴らしたので
「分かっている、もう何も云うまい。頼むぞ、本多」
 と、差し出された彼の腕に掴まってひらり、背に飛び乗った。





 あれから幾月幾歳経っただろう。
 彼は「十年待った」と低く深く、感じ入るように己を抱き締めながら云ったのだった。

 「儂の処へ来て呉れ。三成」

 と。





 再会の後暫くは、家康が多忙の間を縫って健気に己の元へ通って呉れていたことを、三成は心から申し訳なく思っていた。
 関ヶ原の悲愴の決戦の場、あそこに雑賀孫市を引き連れて天下一の婆娑羅者、前田慶次が意気揚々と乱入して――
 あの瞬間、運命は変わってしまったのだと、三成は今でも昨日のコトのように想い出せる。
 気付いたら前田の家に刑部――大谷吉継と共に担ぎこまれていて、頑なに情けを拒む己に――利家の正室、まつは一心にぬくもりを注ぎ込んでくれたこと。
 そして凍りついた心は少しづつ溶け、約束されていたかのように彼は現れた。
 目が合った瞬間、崩れ落ちるようにその山吹色の眼差しを希っていたと分かり、泣いて見せれば彼は戸惑いながらも己を抱いたので。
 今は居ないひとたちに赦しを請いながら、それでも生きたい、と願った。
 このぬくもりがすべて。
 だが、まつは「この家に石田三成、という御方は居りませぬ」と頑として家康が三成を連れ帰るのを許さなかった。「どれだけ竹千代様が隠し通そうとしても、今は無理」と。だが其れは拒絶ではなく、心から三成の立場を案ずる故の言葉であったので、家康も最後は首を縦に振り「では、“佐吉殿”の元へ通うことは許して欲しい」と苦く微笑んだ――そうして、桜の舞い散る中、蝉の啼く季節、手取川の銀杏がこがねに目の前を染める頃、深々と音もなく雪が加賀の地を覆う冬――邂逅を重ね、十年が過ぎていた。
 

 そうしてふたり、いつも「この季節に再会したのだな」と大切に想う頃、ふいに三成の身を抱き寄せて、家康――今は幕府の祖――は、低い声音で三成に云ったのだった。
「十年待った」
 そう、十年。と。
「――天下泰平は成され、儂も今は駿府に落ち着いている。三成、もう“凶王三成”の名も、人々の間では遠いものとなっている」
 お前にとっては赦し難いことかもしれないが、と家康が瞳を歪めたので。
 三成のほうが思わず小首を傾げて「それどころか、関ヶ原の戦いさえ御伽噺のようなもの」と応えて見せれば。
 家康は思わず情けなく丸い眼を見開いて。
「前田慶次など、小供たちへの寝物語にいつも己がどうやって私たちに頭突きをかましたかを自慢げに語っているぞ。孫市は“そんな物騒な噺を小供らにするな”といつも眉をしかめているがな。あの子らにとっては、関ヶ原の決戦など、己らが生まれる前の御伽噺。家康、もう全ては過去となった」
 と。
 三成がなんということもなし、と語れば、家康は思わず「ふ……ははは、は! そうか……そうだな……」
 と、己の額を片手で覆いながら苦く笑い、そして――今一度、目の前のいと惜しい――十年経っても相変わらずに白く儚く美しいひとの頬に手を寄せて、静かに希った。
「なればこそ。儂がお前の居ない夜をどんな想いで過ごしているか……想いは変わらん。時が経てば慣れると想ったが、その逆だった。愚かと笑って呉れ、それでも儂は――」

 お前に傍に、いつも、いつでも居て欲しい。

 泣きそうな顔で云われたので、思わず彼の頬に手を添えながら「いえやす」と。
 応えてしまった秋のはじまりだった。
 
 私とて。

「――そうか!!」
 途端にぱあっと明るく顔を上げた家康の様に、しまった、と思ってももう遅過ぎて。
 家康はそうか、お前もそう想って呉れていたのか、ならば儂の心は決まったぞ、と利家とまつに土下座までして
「三成を駿府に迎え入れる。十年経った今、もうまつ殿が案じられることも、なにもない。あったとしても儂が握り潰すから大丈夫だ!」
 と、天下人の控えめなようで有無を云わせぬ圧倒的な態度に、あんぐりと口を開け――
「……恋、とはほんに、おそろしいものでございますね、犬千代さま」
 と。まつが云えば
「……竹千代が、竹千代がまさか……こんな……」
幾ら佐吉殿が大切とは云え、これはもう――
「……まつ、お前の云うとうりだ。恋、とは人を狂わせるな」
 と、すべてを諦めたような顔をして、隣で耳まで真っ赤にして俯いて「馬鹿め」と呟いている“佐吉殿”――三成に向かい
「と、徳川家康公は仰っているが……某たちが願うはただひとつ、佐吉殿のしあわせだ。それは貴殿がこの金沢城に来た時から変わりない。あとは佐吉殿の心ひとつ」
 と、やさしく笑みながら云ってみせたので、三成も慌てて顔を上げながら
「御二方が、許して呉れるのならば」
 と、躊躇いながらも、駿府へ赴こうと思う、と告げたのだった。



 本多忠勝は正門も天守閣もすっ飛ばして、それどころか本丸も素通りして――城の東、二ノ丸に己を降ろしたので、三成は怪訝に思いながらも「……ご苦労」とぬん、と加賀から此処までひとッ飛びしてきた疲れなど微塵も見せぬ鋼の荒武者を見上げた後――己が立っている背に広がる景色に息を呑み、笠を外して眼を見開いた。
「……そ、んな……」
 その庭は、とても懐かしい景色だった。
 今はもう焼け堕ちて跡形も無い大坂城は――己が秀吉から宛がわれた――西丸殿をそのまま、あの頃のまま移したかの如く――未だ少し咲き残っている百日紅の鮮やかな桃色、これから色づくであろう愛らしい楓の木立たち。濃い緑のくちなしの茂みとか。配された岩までも、あの頃――あの頃のままに現されていて。
「――三成」
 酷く静かに。
 少し躊躇いがちに聴こえてきた想い人の声に、三成がはっと後ろを振り向くと、其処には山吹の羽織を纏った――あの頃のと変わりなく、若々しく黒髪を逆立てた彼が居て。
「……ずっと、待っていた」
 待っていたよ、と苦く笑う家康の顔とは正反対の、泪を浮かべた崩れそうな顔で。三成は彼と、背後に広がる庭を交互に何度も見やってから、ようやっと――「……私の、庭だ」と。掠れる声音で呟いた。
「ああ」
 戸惑う彼の細い体躯に寄り添いながら、家康は三成の頬に手を添えて、頷いた。
「覚えている限り、あの頃のまま造ってみた。お前が半兵衛殿から贈られて、苦心して造った大坂城の庭を。お前の心が少しでも慰められるように」
 十年。経った今も変わらず己の為に――自分を喜ばす笑ます為なら何でもしてみせるひとにむかって。
 三成はくしゃり、顔を崩して泪をほろほろと零して、辛うじて
「……お前、は、馬鹿だ」
 と。
 やっとの想いでそう云うと、彼の太い頸に頭を預けて泣いた。
 天下人が。今はもう死んだ筈の人間の為に。
 こんな、こんな手の込んだコトをしてみせるだなんて。
「……すまん」
 かえって悪かったか、と云う家康に向って、ふるふると銀の髪を横に振ってみせながら、三成は「私の、庭だ」と。泪に滲む声音で云って、溢れる想いのままに逞しいひとの背に腕を廻して身を許した。





 其の佳人は、文人のように静かな佇まいで、着流しに羽織を纏って暫く己の与えられた間の華美な狩野派の金箔が施された襖絵、南蛮渡来の文箱などを珍しい――其れはまるでびいどろたまのような――透き通る苔色の切れ長の瞳でゆっくりと手を触れたり眺めたりした後――
「……質素倹約、が信条であろうに……」
 と。
「私はなにも此処まで望んでいない」と眉をしかめて、細く長い溜息を吐いた。
 其の様に、未だ幼い侍女――彼女の名は“ちさ”、と云った――は「此の世にこのように美しいひとがいるものなのだ」と、頭を垂れて控えながらもちらりちらり、と佳人の顔を窺っていたら。
「ちさ、と云ったか」
 と。ふいに今日から己が世話することになったひとから声を掛けられたので、「は、はいっ!」と慌てて額が畳みにつくほどに平伏した。
「よい。そう畏まるな。これからよろしく頼む」
 低く艶の有る、謳うような声音もまた彼の美しさを際立たせていた。
「は、はい!こちらこそ、何卒よろしうお願い申し上げます」
 少女が顔上げてみれば、己を見下ろす佳人の雪の様な蒼白い月のような面、そこに潜むみどりの眼が静かに、だが随分やわらく光っていた。笑ってこそいないものの、穏やかで静かなひとなのだ、とちさは想って少し安堵した。
 家康公が密かに加賀から譲り受けたという佳人――それ以外には何も知らされてはいないが、きっと大殿様の手助けをなさるのだろう、とちさは思っていた。
 陽はとうに暮れていて、りんりんと虫の音が響き出した庭のほうを見やりながら三成は、「……今日はなんだか、随分と疲れた」とぼそりと呟いたので。
 ちさは「床の間の準備を致しましょうか、“佐吉”様」とこれからの主に問うた。
 
 そして彼が寝床に入ってちさが静かに寝所を後にし、ふいに廊下ですれ違ったひとが――“大殿”、徳川家康その人であったので。ちさが慌てて回廊の隅に寄って頭を深く垂れれば、家康は「よい、そう緊張するな」と静かに笑んだ後。
「ちさ、佐吉殿のこと、これからよく頼むぞ」
 と声まで掛けて呉れて、それから。滑るように彼の人の居る場に静かに身を隠したので、幼いながらも少女は「あ、大殿さまの、“そういう”御人なのだ」と気付き――あんなに綺麗な人だもの、分かるわ。と。それから急に己のことでもないのに気恥ずかしくなって、頬を紅くしながら足早に回廊を立ち去った。



 既に横になっていた三成の床に当たり前のように潜り込もうとしたら、彼は気だるそうに苔色の眼を半分だけ開けた後――
「……今日は、疲れた」
 一人で寝たい。
 続けられた言葉に、家康は期待をあっさり打ち砕かれて、情けなく眉を八の字にしてしまう己に――簡単にしてくれる想い人の素っ気無さに肩を落としながらも、諦めずに「何もしないから」
 と、上質な布団を押し上げて彼の薄い肩を後ろから抱き締めたので。
 三成はほんの少し身を捩じらせて抗った後、己の胸に廻された彼の逞しい腕に諦めたように冷たい指を添えながら「……眠い」と、不機嫌そうに呟いた。
「ああ、眠るといい」
 本当は、期待していたのだが。と、家康は思わず続けそうになった言葉を押し殺しながらも、想い人がここ三月程も身を許して呉れないことに不安を感じていた。

 疲れた。眠い。気分じゃない。

 今まで当たり前のように己に身体を開いて呉れていた人が、酷く暑かった夏の頃から急に己を受け入れて呉れなくなった。
 それどころか、くちづけさえも顔を背けてさりげなく拒むのだ。
 宿命の関ヶ原からようやっと解き放たれた時から、あんなにも求め合ってきたのに。
 だが、十年も付き合っていればそういう時もあろうか、と敢えて「何故」とは問わずに辛抱強く、家康は待っていたのだが。こうして駿府に来て呉れた、其れは彼が今でも己を想っていて呉れるからこそ、だから、今夜は――
 そう想っていたのに。
 変わらずに背中を向けるひとに、一体どうしたことなのだ、と少し家康は不安を覚えながらも、無理だけはさせたくないし、させないと誓ったのだと己の欲を抑え込もうとして無理矢理両目を閉じた時――

 「――ッッ」

 ふいに、三成が肩を揺らしてこん、こん、と。
 苦しそうに咳いたので、家康は山吹の眼を見開いて半身を起こし、苦しそうに咳き込む三成の顔を覗き込んだ。
「どうした?三成」
 だが、三成はそれに答えられずに暫く苦しそうに咳いた後――肩を使って荒く息をしたので、家康の顔色が変わり「どうした、三成」ともう一度問うて、彼の銀糸の髪を撫でながら「風邪か?」と云ったら「違う、噎せただけだ。案ずるな」と低く答えた後、「……具合、が、あまりよくない。離れろ、家康」と云ったものだから。
 家康はがばりと起き上がり「すぐ薬を用意させよう」とひとを呼ぼうとしたので、三成は慌てて「よい、疲れただけだ」と云ってぐい、と家康の衿を引っ張ってその太い首にほんの一瞬、くちづけた。
「よい。眠るぞ、家康」
 先程までの拒むような態度が嘘のように、彼がふいに甘えるように身をすり寄せてきたので、家康も戸惑いながらもそれに応えてきつく彼を抱き締めて身を横たえれば――「……案ずる、な」と。三成が酷くか細く囁いた後、すう、と、己の胸に顔を埋めて幼子のように本当に眠そうな、不機嫌な吐息を零したので。
 それ以上は問えずに、家康は彼の頭の下に己の腕を添えてやりながら、背中をさすってやりながら、細い身体が冷えぬようにと抱き寄せるしかなかった。





 渇いて冷たい秋風が、散って積もった二の丸の広大な庭の落ち葉を舞い上げて、三成の足元を橙や紅で一瞬飾った後、控えるちさの肩を撫でていったので、ちさは思わずちいさな手をすり合わせながら、つるべ落としの秋の夕日に目をやった。
 仕える佳人は、淡い藤色の、茶人が纏うような簡素な羽織の出で立ちで、雪のように白い手で色づいたもみじの枝を顔に寄せて、静かに吟味していて。
「……加賀の銀杏は、もう全部落ちたであろうか」
 長い睫を伏せてふいに呟いた後、こんこん、と。
 三成――“佐吉様”が咳き込んだので、ちさは慌てて近寄って其の背を擦ろうとしたら「よい、案ずるな」と。彼は手でちさを制して、近寄ることを拒んだ。
「佐吉様、お身体が冷えましたのでは」
「……そうだな。少し散策を、と思っていたのに、気付いたらもうこんな刻か。随分広く造ったものだ」
「はい。わたしたちも、“この庭はまるで杜のようだね”って、云ってます」
 ちさの云うことに、三成も「……家康らしくない。無駄な広さだ」と、豊かな樹々で所々覆われた駿府城の空を見上げた。
「本当に、あれは馬鹿だ」
 ちさは一瞬、“あれ”と云われるひとが誰なのか、と思案したが、やがて「あ、大殿さまのことなのかしら」と気付くと、ますます不思議になって目の前のひとを見詰めた。
 今や天下人となった東照権現を簡単に“馬鹿”呼ばわり出来る、このお方は本当に何者なのだろうと。
 すると「ああ、やっと見つけました!」と若いおんなの声がして、ふたりが振り返ると少し息を上げながらひとりの侍女が「ちさ、こんな刻まで佐吉様をお戻しにならなくて何をしていたの」と眉を潜めたので。ちさは慌てて「ご、ごめんなさい」と頭を下げたが「よい。私がちさを連れまわしたのだ。これは悪くない」と、静かに制した。
「は、はい……あの、佐吉様、もう夕餉になりますし、お戻りを。大殿さまもお見えですので」
「――何?」
 侍女の言葉に、今度は三成が怪訝に眉を潜めた。
「今日はいえや……大殿の御母堂、伝通院様が此処にお見えになっておられるのではなかったか」
「あ、え、ええ……確かに伝通院様は本日、大殿さまにお会いになるため参られておりまする」
 侍女が不思議そうに答えると、三成が
「ならば何故、私と?伝通院様を差し置いて?」
「そ、それは……わたくしも存じ上げては」
 彼女が困惑した様子で畏まると、三成は心底困った、という顔をして――「否と」と呟いた。
「大殿には、私のことなど気に掛けず御母堂と過ごされよ、と伝えよ」
「え……っ」
 彼の言葉に、ちさと控える侍女が戸惑いを隠せずにいると、
「構わん。私の言葉をそのまま伝えろ」
 と。くるり、踵を返して帰るどころか、ますます庭の奥、清水の湧き出でる泉の方へと去っていこうとするので「さ、佐吉様!もう暗くなりますのに!」と、ちさが慌てて彼の背を追いながら「大殿さまに、お伝えして」と後ろの侍女に云って、さくさくと小さな足で主の広い背を追った。


「佐吉様!」
 息を切らしながらやっと彼に追いつくと、何故か少し怒っているような彼の背に、戸惑いながらも彼女は
「どうか、お戻りを。日が暮れたら、お部屋に帰るのも大変になります」
 と、懇願したが。
「……今宵は満月。杜も明るくなろう。もうよい、お前は先に戻れ」
 と素っ気無くあしらわれるので。
 ちさはますます、一体どうしたことか、とおろおろするばかり――其の時。

「佐吉!!」

 溌剌とした男らしい声音が彼の人を呼んだので、驚いてふたりが顔を上げれば――其処には櫨染色の羽織を纏った家康公、其の人が居たので。
 ちさが驚いて「大殿さま!」と深く頭を垂れたが、呼ばれた“佐吉”のほうはといえば、不機嫌を其の侭顔に出して「……家康!」と低く唸って肩をいからせた。
「貴様、何をしている!今日は御母堂が……」
「それはいいんだ、母上はもう御出家された身故、父上の為に経をあげると……何を怒っている?」
 家康が精悍な顔を悲しそうにしながら三成に歩み寄れば、彼は思わず二、三歩後ずさって清水の池の淵から身を投げそうに見えたので、家康は思わず駆け寄り彼の細い肩を掴んで引き寄せれば。
 寄せられた視線が絡み合って、ふいに間に匂い立つような恋慕が露わになったので、少女はちいさく息を呑んで、絵巻にでも描かれる様なひとらに見入ってしまい、それから慌てて「も、申し訳ございません」と頭を垂れた。ので、家康が「もういいよ、先に戻ってくれ。儂がこいつを連れて戻るから」と云うので、ちさは逃げるように紅くなった頬を両手で覆いながら小走りにその場を去った。
 彼女の背が木立の間に見えなくなるのをみとめると、家康が目の前で眉間に皺を寄せて瞳を伏せる――想い人の頬を、宥めるように厚い手のひらで撫でたが、ぱしり、とそれが振り払われたので「何を怒っている」と。もう一度、家康は困ったように彼の細い腰に両手を廻して抱き寄せた。
「……私に、溺れるな」
 消え入るような声音で告げられたことに、家康が丸い目を見開いて、三成の顔を覗き込んだ。
 其の視線から逃げるように。ますます深く俯き、煌く銀糸の髪で己の目を隠すように。
「……私に溺れるな、家康。一族を一番に想え。御母堂を差し置いてまで私の元へ来るな」
 其の言葉に――家康は、今ようやっと――彼が駿府に来てからも、どこか素っ気無く何気なく己と距離を置こうとする理由を垣間見た気がして、「三成」と。低く、擦れた声音で冷たい白く尖った耳に囁きかけた。
「お前に溺れることの、何がいけない?」
「……な……っっ……」
 告げられたことのあまりの率直さに、三成が思わず顔を上げれば、有無をいわさず重ねられるくちびるがあたたかく、やわらかかった。
「……ん、ぅ……」
不満のうめきも、あんまりやさしく食まれるから。
ふたりは久方の感覚に思わず陶酔して息を止めた後――無心にお互いの温度をくちびるで確かめた。あんまりそれがやわく心地よいので、思わず開かれたあいだに、彼が舌を入れようとしたので、三成が弾けるように顔を背けて逃れようとした時。回した手に少し力を入れて、逃すまいと家康はすべるように彼の白いうなじに喰らいついたので。
「あ」
 かくり、と思わず三成が耳まで紅くなりながら崩れ落ちそうになったので、そのままふたり冷たい秋の庭の上にしゃがみこんで、家康は三成を抱え込んで溜め込んでいた――触れられなかった不満を露わにするように、力任せに三成の細い身体を己の膝の間に入れて掻き抱いた。
「……よ、せ」
 だが、言葉とは裏腹に。
 乱暴なようで優しい大きなてのひらの愛撫に、思わず仰け反る彼が居たので、家康は衣の上から彼の胸、それから脇腹を撫でて太腿に手を掛けて押し広げたので。
 三成が慌てるように顔を背けて、手で家康の頬を無理矢理押し退けた時。
 ぎっ、と己の右手首をきつくひね上げられるのを感じて、三成が驚いて顔を上げれば、其処には酷く切羽詰った――だが、普段の穏やかな彼とは掛け離れた獣のような暗くぎらついた視線が己を絡め獲っていたので、三成は眉を潜めてまるで早乙女のように慄いた。
「何故」
 低く、だが酷く静かに。
 ふいに泣きそうな顔で彼が問うた。
「もう、三月も抱かせて呉れていない」
 家康の問いに、三成は微かにくちびるを震わせることしか出来ない己に――雷に撃たれたように、身を震わせた。
「儂が嫌になったのか?」
 まるで幼子のようにくしゃり、顔を歪ませて今にも泣き出しそうに、彼が問うものだから。
 三成も、また胸に込み上げる――嗚呼、お前を――と。
 瞳を潤ませて必死で首を横に振った。
「違う」
 そうではない。
 でも、云えない。
 隠し通すと――そう、隠し通してみせると誓って前田の家を出て此処へ来たのだから。
 決して、彼の重荷にはなるまいと。
 なのに。
 それなのに、結局この事実の前にはどうしようも出来ないのだと、三成は悟った。
 
 いと惜しいひとよ。
 心がぴたりと重ね合おうとする者同士は、結局肉の身も求めずにはおられぬのならば。
 もう、引き千切るしか、君を守る方法が無い。

 瞬間、三成は弾かれる様に家康の腕の中から立ち上がり、ぼろぼろ落ちる泪を止められなくて、必死に手のひらで拭いながら夕闇の杜を駆け抜けようとした。
「――三成!?」
 慌てて追ってくる太陽のぬくもりを振り払わねば、と己を必死で奮い立たせて。
 来るな、どうか来て呉れるな、と。
 何故なら、今此の身は君を――
「来るな」
 泣き咽びながら、三成は叫んだ。
「お前が嫌なのではない」
 ざくざくと。落ち葉を踏み拉きながら彼は叫んだ。
「だが、だが――」
 もう、此の身は。
 其処まで云おうとした瞬間、「……ッッ!!」と、言葉にならない苦しさに胸を苛まれて、三成は崩れ落ちて激しく咳き込んだ。
「――三成ッ!?」
 駆け寄った家康が必死で彼を抱え込んで其の背を擦ったが、三成の咳は収まらず――泪を滲ませながら、彼は息も絶え絶えに
「や、はり……無理……ま、えだ……の、家に、かえ……っ……」
 其処まで必死で声にした次の瞬間、三成が吐いたのが酷く透明な紅い血であったので、家康の顔から一気に血の気が引いて「三成!!」と。悲鳴が夕闇の杜に響いて、烏が一斉に飛び立ち騒ぐ中で――来るのでは、なかった、と。泪を零しながら、三成は離し難いぬくもりの中で意識を失った。





 次に目が醒めたのは、枕元で少女がすんすんと声を殺して泣く声が聴こえたからだった。
 他の間よりもずっと豪奢に、南蛮渡来の品々で飾られた己の床の間で意識を取り戻した三成は、どうしてまだ夕方なのだろう――と不思議に思ったあと、力なく右手を伸ばして己の枕元で泣く少女――ちさの膝に手をかけた。
 ちさは飛び上がるほどに驚いてから、「佐吉様!!」と涙でくしゃくしゃになった顔で三成の顔を覗き込んだ。
「ごめんなさい、ごめんなさい……!!」
 謝りながらほろほろと泪を流す、己の傍仕えの少女に、三成は擦れた声音で「……なぜ、泣く……」と問うた。
「佐吉様……!!」
 もう一度彼の名を呼びながら、しろい頬にぽろぽろと泪を伝わせながら、差し出された三成の手を必死で握り締めた。
「ごめんなさい、ちさがもっと早く気付いておればよかったのです……!佐吉様の具合がよろしくないことに気付いていれば、あんな寒くなるまでお庭にお出ししておりませんでしたのに……!」
 そう云いながら必死で己の手を握り締めてくる少女を見て。ふいに、三成は酷く静かな声音で
「……お前は、よいこだな」
 と。
 自分でも信じられないような、穏かな声音で三成は少女に云いながら、その頬を撫で、泪を拭ってやったあと――ぽんぽん、と。
 さらさらとした黒髪の頭を撫でて
「お前はよいこだ」
 と。
 擦れた声音で、静かに告げて――やさしく少女の頬を撫でてやった。
 そして、ふ、と。
 そう、かつて自分もそうして貰ったことを想い出した。
 
   佐吉はよいこだね
 
 ちさもまた、目の前で横たわるひとの顔に、ふいに見たことの無い――別人のような影が過ぎったことに、息を止めて見入って。
 三成の脳裏には、嗚呼、まるでこの娘は幼い頃の私で、こうしていつも慰めて呉れたのは、大切で大切で、今でも逢いたいと心から希う育ての親御――自分と同じ色の髪をした女人のように美しいひとのことを想い出し。酷く穏やかな気持ちになった後、「ちさ」と目の前に控える少女の名を呼んだ。
「はい」
 少女は思わず胸の前で両手を握り締めながら、「はい、佐吉様」と、主の苔色の瞳を必死に見詰め返して。
「ちさ、お前、字は書けるか?」
 ふいに問われて、ちさは驚きながらも
「は、はい!あの、ひらがなしか、書けませんけれど……」
 と、恥じ入るように俯いた。
「よい。ひとつ頼まれて呉れないか」
「は、はい!ちさに出来ることなら、なんなりと!」
 必死で頭を縦に振りながら、ちさが三成の顔を覗き込むと、彼はゆっくりと上半身を布団の上に起こして、少女に云った。
「私の代わりに、文をしたためて欲しいのだ」





 それから数日後――駿府の城の門番が目をまんまるにして、大柄な栗毛の馬の上に跨る草色の装束を纏った女武者が寸でのところで「ヒヒィイイン!!」と馬を鳴かせながら手綱を引いて止まり、土煙を上げながらこちらを見下ろす様に、完全に固まった。
「御城主、徳川家康公にお伝えくださりませ」
 凛とした張りの有る声音で、女武者は呆気にとられる門番達を見下ろしながら告げた。
「前田利家が妻、まつ。お目通り叶いたく、此処に参上致しましたと」
 そう云って大きな黒い瞳を見開くまつの懐には、佐吉――ちさが書いた三成からの文がしかと挟まれていた。

 だが、城の上段の間で待たされたまつに伝えられたのが――「家康様は、只今お留守に御座います」という侍女頭の言葉だったので、「なんと!?」と、まつが拍子抜けしたように仰け反ったあと、品のよい白髪を纏めた侍女頭に詰め寄った。
「では、たけち……家康公は今どちらにおられるというのです?」
「そ、それが……今朝のうちに御内密に城をお出になられたようで、忠勝様も居らぬとなると、わたくし共にも、皆目検討つきませぬのです」
 何卒お許しを、と平伏する侍女頭の様に「……そんな」と呟いた後、まつははっと我にかえり「佐吉殿!では佐吉殿に逢わせてくださりませ!嗚呼……やはり出すのではありませんでした……」と。
 侍女頭が立ち上がるより先に立ち上がって、回廊へ足早に踏み出していた。



 其れと同じ頃。
 金沢城の一角で、空から轟音を立てて降り立つ本多忠勝と家康を呆気に取られて見上げていたのは――
「い、家康……!?」
 茶色のなめし皮に、弾丸をしまう袋をいくつも縫いつけた上着を纏った――今は雑賀の一派に属する前田慶次で。
「――慶次!!」
 忠勝の背からひらり。
 あの頃と同じ、山吹の戦装束に身を包んだ家康が飛び降りて、勢いのまま、慶次の肩を掴んで――泣き出しそうな顔で必死で彼の顔を覗き込んだ。
「慶次、丁度よかった……!!」
 お前に逢いたかったんだ、と項垂れながら、家康は続けた。
「もう、儂には解らない」
 あれの心が解らんのだ、と。
 必死で詰め寄ってくる家康に向って「ちょ、ちょっとまって、一体何があったのさ??」と。云いながら、そういえばまつねえちゃん、前の日に血相変えて出てったのと何か関係あるのか?とぐるぐる思いながらも、家康の肩に両手を置いて、
「なんでも聞くよ、だから、ま、落ち着いて」
 と、家康を城の中に招き入れたのだった。





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Author:ゆみのや
戦国BASARA3の石田三成にぞっこん一目惚れいたし
こっそり応援し隊所存にございます。

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