BASARAの石田を幸せにし隊。

戦国BASARA3の石田三成をひたすらに応援するこっそり避難ブログ

Entries

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

積みて恋ふらく Ⅲ

なんとか隔週ペースを保っております、ドマイナーCP道を突き進む、

松永×三好長兄

過去のお噺、第三話。
今回茶道のシーンを、ピクシブでお世話になっている伊知さんに下書き・監修して頂きました。
本当にありがとうございました…!
今まで誰かと一緒に「書く」という作業をしたことがなかったのですが、凄くいいかんじになったと思うので、新しい可能性見えたー、って思えました。

拍手も…ッッここ、石田のためのサイトなのに…ッッ…!!
ありがとうございますお館さばぁああああああああああ(違

今回長逸さん、ピンチなうえ松永さんが本性…じゃない、本領を発揮しておりますれば…!

段々とお噺も盛り上がってまいりました…?
出来たら後ろのほうで織田軍ちらっとでもいいんで、描きたいですねー。


多聞山城から居城にしている飯岡城へ帰ったあと、兄が長い黒髪の前髪、もみあげ二房耳の横に流して、残った前髪をひっつめて後ろで器用に髷にして結い、残りは背中に流しているのを見て。
同じ顔をした三人兄弟の真ん中、政康は怪訝に見据えて、正座して書に向かい澄まして瞳を伏せている横顔に問いかけた。
「兄者、髪型変えたのか」
自分とよく似た声の弟の問いに、ちらりと目線だけ寄越して長逸は「ああ」とだけそっけなく答えた。
む、と明るい、色の瞳をしかめて“年子”の弟は――多分、きっと、本当は同じ時に同じ腹から産まれたであろう“双子”の兄に近付いて見下ろした。
「邪魔じゃないか?背中にそんなに流して」
そういう政康は青みかかった茶色の髪を、ばっさりとうなじが見えるくらい切ってしまっている。
双弟(おとうと)の問い詰めに、ひとつ大仰に溜息を吐くと。長逸は
「…別に。結い上げるより、早く済む」
とまたそっけなく。

おかしい。

政康は細く整った眉をますます顰めて、澄ました双兄(あに)の横顔を凝視した。
おかしい。
弾正追放を誓って“三人衆”を名乗ってきゃつの居城まで乗り込んだあの日から。
何度か招かれて、幾らでも寝首を掻く機会はあったはずなのに、双兄から「今ぞ」という命は未だに発されていない。
それどころか、最近は多聞山城に出向いて松永から茶やら歌会などのもてなしを享けるのが習慣にさえなりつつはあるまいか。
そして――双兄は、双兄のあの男を見る目の色が、変わりつつあるような。
そして彼は気付いた。
双兄の懐に仕舞われている扇子――白木だろうか、酷く良いかおりを放つ木の骨と、浅葱色の淡く品の良い――

あれ

政康はずい、と身を屈めて、双兄の扇子に顔を近づけて――
「あれ。これ、いつこしらえた…っていうか」
ばっと。
確信した賢しい双弟は、長逸に詰め寄った。
「これ、こないだあいつが持ってたヤツじゃね!?」
ずばり、言い当てられて。
長逸が耳まで赤くして後退さったので、政康は切れ長の二重の瞳をこれでもかと見開いて、長逸に向って問い詰めた。
「なにソレどうして兄者が持ってんだよ!」
「こ、コレは、その」
白い頬を紅くしてうろたえる長逸の有様に、政康がますますの剣幕でまくし立てた。
「はー!?もしかして、あいつから贈られたりしたワケ!?」
あの色好みのおっさんに、と政康が続けると、長逸はきっと背筋を正して
「“おっさん”などと!云うな!!」
と、云い返してきたので。
政康は口をあんぐりと開けて――背を反らした後、泣きそうな顔で――長逸の瞳を覗き込んだ。
「…贈られたんだ」
政康の呟きに、う、と言葉を詰まらせて長逸が目を逸らす。
「で、受け取ってんだ?」
次の瞬間、両手で頭を抱えながら政康は
「ッッあーーー!いい歳ぶっこいて、こんな若いの本気で口説いてナニする気だよ、あのおっさん!!?」
「お、おっさんと云うな!!」
思わず長逸が叫んだ後――「…く、どく?」と。
焦茶色の眼をまんまるに見開いて、固まったので。

ああ、ダメだ、完全に落とされてる

政康は泣き出しそうなくらい情けのない顔をして、「嘘…」と双兄の瞳に自分の瞳を合わせた。
「…あのね、あっち本気で口説きにかかってきてるよ?兄者、ちゃんと解ってる??」
「…は?」
「いや自覚してくれよ、あの梅贈ってきた時から嫌な予感してたんだけどさ、ちょ、あっちかなり本気で狙ってるよ、そりゃあっちが兄者に骨抜きになってくれるのは計画通りなんだけど、なんか」
兄者、と問われて、長逸はうう、と息を詰まらせ、正座したまま後退さり。
「…兄者、何時になったらアイツの首を獲れって、云ってくれるんだよ?」
「……あ」
双弟の言葉に。
長逸の頬が引き攣って、一瞬のうちに蒼白に成った。
そう。
三好家に巣食う、あの蜘蛛の糸のような。
外からいつ間にやら入ってきて――三好のすべてを。喰らい尽くそうとしているあの男を、密かに討つこそが己の役目だと、信じていたのに。
今、双弟に詰め寄られて戸惑いを感じている己に戸惑いながら。長逸は眼を彷徨わせながら「…松永弾正の、首を…」と呟いて。
「そうだ」
双兄の言葉に、政康が頷いた。
「分かるだろう、兄者。アイツが持つ財力に兵力、どう考えたってオレ達に匹敵…いやそれ以上…どうして保つ必要がある?答えは簡単さ、アイツは肚の底では三好家を乗っ取りたくて仕方ないんだろう、オレたちだけではない、家臣共にもよく自分の持つ宝物や貴重な薬など贈っては懐柔を試みている…なあ、オレたちが“三好三人衆”で在る意味って、何だよ?父者や母者が遺してくれてた、此の…」

血を、護るタメではないのか。

問われて。
長逸は大きな瞳を宙に泳がせながら、なんとか必死で――双子の弟に答えようと、言葉を探したが。出来なくて、長い睫を伏せて唇を噛み締めた。
「兄者、俺は本当なら此処には居れない人間なんだ」
ふいに云われたことに、「何を云う」と、長逸が政康と視線を合わせると。其処には――毛色以外は自分とまったく同じつくりの身体を持つ、弟が。背筋を伸ばし、いつも浮かべている不遜な笑みは何処ぞにやって、酷く真剣な眼差しで。
「…長兄(ながにぃ)、オレたちは、双子だろう」
決して声に出してはいけない事実に、思わず長逸があたりに誰か居ないかと首を振った。
「政康、俺達は年子だ。そうなのだ。父者がそう云ったのだから、それでよいのだ」
この戦国の世に、武家におのこが双子で産まれてしまうということは――ましてやそれが初めての子であれば、悲劇以外の何者でもなかった。家督争いを避けるため、弟のほうが密かに葬られるか、寺に預けられるかが常であったが、この三好の双子は――産みの母の嘆願により、“年子”として育てられたのだ。
どちらも手放したくない――
泣いて縋る妻の言葉に、夫は苦肉の策として、一年、双弟のほうを乳母に託して隠して育て、一年、経った後に兄弟として共に育てることとしたのだ。
「長兄ぃがそう云うなら、そうなんだろうけどさ」
ふいに。苦く笑った後、政康は――普段の軽い雰囲気が嘘のような鋭い眼差しで、何処とも無く睨みつけた後。長逸に向き直り、続けた。
「オレは父者と母者が長兄ぃとオレが一緒に生きていけるようにしてくれたことに、感謝している。オレは長兄ぃの優しいトコとか、真面目なトコとか、一族を誰よりも想う気持ちとか、本当に好きなんだ」
だから。
「松永弾正久秀が、もしも兄者の心を玩ぶだけ玩んで三好を…其の時は、オレは刺し違えてでもあいつを――殺す」
青褐色の瞳が鋭く――鋭く光るのを見て、長逸はただ、眼を見開き双子の弟をひたと見詰めるしかなくて。
「……時間は、あまり無いのかもしれない」
視線だけを床に落としながら、政康もまた、顔を蒼白にしつつ呟いた。
「尾張のうつけ、織田信長は足利家の傍流、足利義昭を擁し大義名分として京へと侵攻を続けている。いづれ、三好も…」
其処まで云うと、政康はき、と面を上げて双子の兄に告げた。
「兄者、決断の時は迫っている。もうおままごとは終わりにしよう。オレたちは何時でも、兄者の命を待っている」
其処まで一気に吐くように告げると、政康は風のように立ち上がり――呆然とする双兄を残して立ち去った。


双弟が居なくなった虚空を見詰め、長逸は無意識に仇である者から贈られた扇子を握り締め、胸元へと寄せた。

あの方の香だ。

扇子からふっ、と立ち昇った香りに、おもわずすん、と鼻を鳴らす。

齢に似合う、黄熟香を元にした落ち着いた高貴で、金色を想わせる香りが、長逸の鼻腔を擽った。
そのまま扇子を胸に抱き、ぱたり。畳の上に倒れる。

瞼に過るは其の面影。

精悍な鼻筋に、きり、と引かれる黒い眉、その下の堀りの深い瞳。
あの方は目元に化粧(けわい)をしておる、より深く強く魅せる為に。

可笑しなことだ、と自分でも想う。相手は既に齢四十は越しているであろう人。こちらは二十歳にも達していない若造なのに。

卿は美しい

そう囁く声音が、あまりにも鮮やかに蘇る。閉じた瞼の裏。
ほう、と息を吐きながら、長逸は想う。
己より、貴方のほうがよほど美しいのに、と。

其処まで想って、がばり。
身を起こし、長逸はどこでもなく、空に向って切れ長の二重の双眸を見開いて――思わず震えるくちびるに、指をあてて。
まさか。
思わず熱くなる頬に、己で戸惑い。
そんな。
だが、確かに彼の香りを潜ませる扇子を抱き締める己に――慄いて、そんな、と。凍りつき――胸に甦るあの、琥珀色の瞳の酷くあまったるくてやさしい眼差しが、己の胸を蝕んでいることに――気付いて。
そんな。
思わず胸を掻き毟る様に抱きながら。
梳かれた髪を。触れられた時の指の温度を。あの逞しい首筋とか。
そんな。
青年は信じられない、ともう一度崩れ落ちながら、呟いた。
其の懐に抱かれたなら。其の時は、首を。其の命を。
そう、目論んでいたハズなのに。
今、自分は――

「弾正殿」

思わず声に出してみれば、ただ

逢いたい

言の葉交わしたい、香りを確かめたい。笑んだ眼差しを、どうか。と。
解ってしまった時――
涙が溢れたので、なんということ、と青年は胸に在る贈り物を握り締めながら、息を殺して弾正殿、と救いを求めるように。
そうなのか?と。
俺は、貴方を――

ふいに、西の空から暗い雷鳴が近付いてきているのを。
おぼろげに感じながら、長逸はぱたっ、と畳に涙を落とした。
そんな、と。
どうして、よりによってこんな時、こんな――

雷鳴が遠くごろごろと近付いてきている。
其れは畿内を圧した三好に忍び寄る――尾張からの閃光のようであった。
尾張の魔王――織田信長は、確実に、京へと攻め上がりつつあった。






曇って冴えない長逸の横顔に、松永が「最近の卿の顔色は、いつも蒼いな」と。低く問うてみせたので。長逸は驚いたように細い面を上げた後――また俯いて、低く答えた。
「――尾張のうつけ…弾正殿も聞き及んでおろう、織田、信長の動向が気になる」
長逸の言葉に、松永もふむ、と抑えたように息を吐いた。
さくさくと、茶室への道をいつものように、二人肩を並べて多聞山城の中の昼下がり。
何も変わりは無し、お互いへの心の在り様何も変わり無し、というように。
「足利家の傍流、足利義昭を擁し他国侵攻への大義名分にして、まこと苛烈なる所業の数々…」
「まったく、公方は何人居るというのか」
眉間に皺を寄せながら、長逸が苦く続ける。
「足利義昭?知らんな、義輝だけでも充分だ。どうせ、我らの後ろ盾がなければあのような御殿に居座ることも出来ぬ傀儡のくせに。長慶様の甘さが今の事態を招いている…そう思わざるを得ない。何故、御自分の父君の仇にあれほど尽くされたのだ」
一気に吐き出された長逸の本音に、松永もまた、同じように感じていると深く頷いてみせた。
そう。今は亡き先代三好家宗主・長慶の父、元長はかつて足利将軍家との対立の激化の末、追い詰められて非業の自害を遂げたというのに。
最初は傀儡として利用するだけのつもりだった――いや、実父の仇である足利家に、何故か長慶は素直に従い尽くしたのだった。
「まったく。私が何度進言致しても…父君の仇を討たれる気はないのか、と進言し続けても、御屋形様は律儀に将軍家を立て続けた。ほんの少し、義輝公からお褒めの言葉を頂くだけで、己が京の公達の一員に勝るように感じ入って居られた…しかし…長逸殿察して呉れ給え、御屋形様はまこと心優しく寛大で、まるで公達のように雅な御方だった。そうだなあ、御屋形様に卿の如き、もののふの心がお在りだったらならば…今頃――」
松永の言葉に、今度は長逸はふいに戸惑ったように彼を見上げて視線で制した。
「い、や…決して御屋形様のしてきたことに異を唱えているのではない、弾正殿、貴方を取り立て大和の地まで三好を進めたのは御屋形様でもあるし、俺も幼い頃は…」
そこまで云うと、長逸はいたたまれないように顔を伏せて哀しそうに長い睫を奮わせた。
「…何故だろう。皆、ただ己の家を護りたいだけなのに…」
大切な者たちを、と。
傷ついたように続ける青年のことに、松永は彫りの深い瞳を伏せて、横に並ぶ若い筆頭を見詰めた。
「…長逸殿。私も織田の動向には正直、怖れを抱いておりますれば」
其の答えに、長逸がばっと顔を上げて艶やかな黒髪を揺らした。
「だが、今は未だ義輝公が将軍で在らせられることに間違いは無い。ま、案じられるな。今日は卿に茶の湯の作法を御教え進ぜると、其の約束をまず果たしたい」
酷く労るように降り注いだ言の葉に、長逸の顔色も微かに明るくなった。
「そうだった。この間頂いた扇子と、そう、袱紗も新しくこしらえたのだ。俺も弾正殿ように少しは数寄に通じねば、刀を振り回すしか脳のない田舎者と、嘲われてしまう」
少し首を傾げて「ほら」と新しい袱紗を取り出して見せるひとの幼く可愛らしいことに、松永は少し痛ましい、と想いながら笑った。
こんなにも、本当は無邪気でただ優しげな心を持つひとよ。と。
どうして、君がこんなにも重いモノを背負って立ち向かうことを望まれているのだろう、と。



畳は六畳あろうかという質素だが所々に季節の趣を凝らした茶室に、松永と長逸は静かに対峙した。耳を澄ませば蛙の鳴き声と、小雨の音が聴こえてくる。茶室に上がる頃からか。微かに西の空が暗く染まっているのを見て、長逸が「雨の匂いがする」と呟き、松永もまた「…雷が、来るやもな」と答えていた。
そうしてしとしと…と、外の木々の葉を、空からの雫が鳴らしだす中。松永の背筋の通った凛とした姿勢に長逸は少し及び腰になりながらも、息を呑む。そんな彼に向って小さく笑むと、松永は姿勢を一切崩さずに茶杓、茶筅、茶巾やらを仕組んだ茶碗から取り出し、先に作っておいた湯を釜から柄杓で掬い茶碗に注ぎ清めた後、その水を建水に入れた。
そして茶巾で茶碗を拭くと、袱紗を持った。
「それでは、本日はここから教えて進ぜると致そう」
そう静かに云うと、彼はまず茶碗に微かに指を添えて意識を集中した。今の季節に合わせた淡い紫色の椀で、長逸は見惚れるようにその仕草を、指先を見詰めた。
その次に松永は棗に手をかけて、袱紗で棗の蓋を優美な動作で拭いた。其れもまた職人の匠の技を凝らした一級品で、松永は丁重に拭き終えると茶杓を持ち其れも袱紗で拭いた。
その全ての動作の一糸乱れる事なく優美な様に、長逸は思わず「おお」と小さく溜息を漏らした。彼の、袱紗を折る指づかい、手の甲の血の管が微かに動く様、長逸はすべてに憧れ愛でていたから。この動作の美しさを形容する言葉を、初めて彼の点前を見た時から探し続けているが――本当にこの人はあんな綺麗な長い指で、刀を握って人を斬ったりするのだろうか。と、間の抜けたことしか考えられない己を、矢張り幼いのだと口惜しく想う。
松永は長逸の溜息など気にせずに、棗をふたたび手に取って蓋を外し、その中に入っている茶を茶杓で二、三回取り出してに茶の粉を入れた。それから茶釜から柄杓で一杯分の水を取り出し、静かに入れる。
そして茶筅で湯の入った椀を回して――長逸には其の動きが、まるで琴でも奏でるように見えた――泡が少しできるまで回し続けた。
そうして茶はでき、長逸はその完全たる動作に目を奪われながらも頭を深く下げ、松永も柄杓よりも低くならない低い礼をしてみせた。
「…半東が居らぬ故、この茶は自分で取りにき給え」
そう云いながら松永は畳の縁の外へと茶碗を出し、長逸はその茶碗を取りに行き、自分の席で松永に一礼して。
「……見事なお点前で」
「――有り難く」
答えた言葉はあくまで主に向けての畏まったものであったが、松永は今、師として弟子の茶を飲む姿勢をよく凝視しているので、長逸は生真面目に姿勢を正して茶を飲んだ。
彼が茶を作法どうりに飲み終わると、松永は少しだけ笑んで「結構」と労うように云って呉れたので、長逸は緊張感から解放されたと、少しだけ姿勢を崩したのであった。
「…美味に、御座った」
と。
長逸は、まるで姫のように無邪気にほう、と小さく息を吐いた。
「この味を頂くまでに、ほんに成さねばならぬことの多いこと」
そして青年は今度は肩全体を使って大きく息を吐いて、疲れきった、とでもいうように松永を切れ長の二重の瞳で見上げた。
「…俺はもう、いろんなことを飛び越して、この味をさっさと味わいたいと息苦しく思ってしまうから…数寄者には成れぬやもしれぬ」
そう云って本当に疲れたように瞳を伏せる長逸に向かい、松永が「はは」と低く、だがやさしく笑ってみせた。
「未だ慣れておらぬだけに御座ろう」
「――弾正殿」
ふいに、長逸が目を見開いて無邪気に問うた。
「もしも、このような作法抜きで貴方の茶を頂いたら、どうなるのだろう」
長逸の問いに松永もまた眼を見開いた後――ふ、と微笑んで答えた。
「では、やって見せて進ぜようか?」
妖しく笑んだ松永に、長逸は緊張した。
それから、音を立てずに柄杓を取りながら、松永はいつもとはまったく違う素っ気ない、だが簡単な動作で茶碗に静かに湯を注いで見せたので。
長逸は思わず「あ」と。驚いてその様に声を上げた。
青年の顔色を捕えた後「こういうことに御座る」と、松永は再び妖艶に笑んで見せた。
「つまらぬで御座ろう」
「……ええ」
 長逸が、感じ入れるように背筋を正しながら答えた。
「貴方がそんな風に素っ気なく湯を注ぐと、なんだかこの茶室全体の空気が変わってしまうようだ」
「――分かってらっしゃるではないか」
ははは、と。松永は低く静かに、そして上品に笑いながら今度は――作法通りに。静かで美しい袱紗の衣擦れだけを零しながら、大きく長い指で楽器でも奏でるように柄杓を操って、釜の横に収めた。
「無駄なことは一切ないのです。只、卿に茶を進ぜるだけならば別にこのような作法は要らぬかもな、だが其れでは」

味気ないのだ

そう云われて、ほう、と。
青年は心から感服するかのように、顎を上げた。
「成る程」
これが、数寄道というものか。
長逸は酷く嬉しそうに、微笑んだ。
「俺は良き師を頂いたのだな」
其の言葉に、今度は松永が驚いて青年を見詰めた。
「哂われよ。実は俺は、貴方の所作が美しいのは貴方が美しいからだ、とくらいにしか想っていなくて」
青年が何気なしに零した言葉に、松永は思わず面食らったように微かに顎を上げた。

貴方が美しいから。

「そうではないのだな、数寄道のなんと深く難しいこと。俺はただ貴方の立てて呉れる茶が美味い、というだけで此処に通っていたのだ」
そして、長逸が肩を竦めて困ったようにかむりを振った。
「…これ以上は云うに臆される。申し訳御座らぬ、弾正殿」
「いやいや、私は訊いてみたいな」
そう云いながら、松永が座したまま、すいと身体を長逸のほうへ向けて少し詰め寄りながら。
「長逸殿、教えては呉れまいか」
「――い、いや、きっと哂われてしまう」
本当に慌ててさらさらと髪を揺らしながら、長逸が頬を微かに染めるので。
松永は余計に訊いてみたくなり、「哂わぬ、卿の心はいつも真剣であると私は知っているよ」と、穏かに笑んでみせたので。長逸もとうとう「う…」と身を逸らせながらも、大きな焦茶の瞳を泳がせながら、だが告げてみた。
「茶菓子もまあ、美味いのですが。それよりも…茶碗から溢れるくらいの量を、一気に飲み干してみたいな、と。思っていたのです。いつもなんだか少ないな、と。一気に飲み干せるくらい、水みたいに貴方の茶が飲んでみたいな、と…ああ、本当に俺は小供なのだろうが、やはり今でも思う。一気に。こう。この椀から溢れるくらいの量を飲み干してみたいな、と思うのだ」
青年は酷く真剣な表情で、顔を上げてみせて。
「そしたら、満足出来るやも…」
「――は、はははは!」
とうとう、堪えきれぬ、というように松永が茶室では決して出さない大きな声で笑ってみせた。
「其れは、其れは…しかし長逸殿、それでは卿の胃がきっともたぬぞ」
「――だから!云ったのに、きっと哂うと!」
頬を真っ赤にしながら長逸が真剣な顔で憤って見せたが、云われた本人は耐えられぬ、とばかりに腹を抱えて肩を揺らして笑い続けていた。
「い、いや、悪く思うな、まさか、いや、本当に卿は」

奔放だ

云われて、長逸は「…ほん、ぽう」と。
繰り返してから、
「…そうなのだろうか」
と。
眼を見開いて視線を畳みに落とし、告げられたことを不思議そうに、青年は必死に飲み込もうと呟いた。
細い面があんまりにも無防備で――無垢だったから。
松永はふいに密やかに声音を落としながら、艶やかに囁いた。
「まこと、風のように奔放で、愛らしい」
愛らしい。
其の言葉に、長逸がはっと顔を上げて次の瞬間――「お、おのこに愛らしいなど、からかい以外のなんになろうや」と立ち上がって茶室を後にしようとしたので。
松永は自分でも微かに驚きながらも――青年の白い手を取って、圧し留めた。
「悪かった」
「放されよ」
つん、と。容のよい鼻先でそっぽをむけながら、まるで幼子のように青年は拗ねて見せるので。はは、と男は思わず笑いながらも、放すどころかますます強く彼の指を手繰った。
「雨脚が強うなっておりまする。暫し、此処でもう少し」
「――知らない」
とうとう耳まで紅くしながら、長逸は本当に怒っていた。
「どうせ、貴方のような方からしたら、俺など…田舎者の若造で、つい思ったことをそのまま口に出してしまう…父者や爺やからもいつも云われておった、俺はどうにも一族の長足る者のふるまいに疎いと」
「ほう、其の様に」
「嗚呼、母者のようだと…その、母者は京の公家の姫君で、世間知らずだったから。俺は母者が好きだったので、いつも傍で貝合わせとか、着物のかさねの色目とか、そういう遊びを好んでいたので」
「そうか、卿が色彩に非常に通じているのは、母君が教えてくれたからなのだね」
「…そうなの、だろうか」
気付けば、いつものように彼の空気に絆されている自分に気付いて、長逸は本当にいたたまれなくなりきつく唇を噛んだ。
今ならば。この懐に隠した刀で其の首を。掻き切れるやもしれぬのに。
出来ない。届かない。
それどころか。掴まれた指と指の温度に切なさが込上げることに、青年は顔を背けながら思い知って苦しくなった。
間違いなく。もう、解ってしまった。
この気持ちを、きっと世の者たちも謳うであろう、コレは――
「…放せ」
長逸が振り絞るように、微かに吐き捨てた。
「俺は、貴方とは――」
其の、酷く儚い様に。
松永弾正の心もまた。酷く切なく疼いていた。
分かっている。本当は、どちらかの首を落とさねばならぬ間柄であるのだと。
だがお互いがそう目論んで近寄ってみれば、分かってしまったのはどうしようもなく切なく動く胸の内だった。
言葉で解せたなら、どれだけ楽であろうか。見出してしまったいと惜しい感情に説明をつけて、ばっさり斬り捨ててしまえたなら。
けれど、もう手遅れだと男は確信したので。長逸の細く冷たい指を手繰りながら。どうしたものか、と。
気付けば、こんなにも近く。いと惜しい距離にまでなった人を。
膝で立ったまま、むすっと脹れて見せている人の無防備な様を。
酷く疼く胸の内のまま、留めている手を――親指で、そっと彼の親指の付け根を撫でてみた。
仕草に、青年の顔がふいに強張り、息を呑んだ。
それは酷くやさしくて――官能を潜めた愛撫だった。
指で、感じることがあるなんて。
長逸がは、と吐息を零した次の瞬間には。
其の身は、強く抱き寄せられていた。
ふわり、鼻腔をくすぐる黄熟香――そして着物を通して感じられる熱さに、青年の瞳が潤んで見開かれた。
「――卿は」

本当に、愛らしい。

そう低く囁くと、男は抱き締めたひとのうなじに強くくちびるを押し当てたので。
あ、と青年は身を震わせて思わず彼の背に腕を廻してきつく羽織を握り締めた。
離れなくては、と理性は云うけれど、心は希求して離れてくれない。
こうなることを、願っていた?
長逸は感じられる相手の体躯の逞しいこととか、掌の大きくてあたたかくて酷く優しく背を撫でてくれることとか、すべて待ち望んでいたかのように想っている己に慄いて、なんとか抗おうとしたが。
出来なくて、「嗚呼」と微かに淡く吐息を零せば。
うなじを這う彼のくちびるが、滑るように頬にあてられて、己のくちびるに重ねらようとしたので。はっとして長逸は長く冷たい指で拒んだ。
やわらかな感触が、指の腹に当たって、震える。
「…この期に及んで、無粋なことは尋ねまい」
松永の酷く低い声音に、長逸の全身が震えた。
「私が卿を、如何様に想っているか。察しては呉れぬか」
余りにも甘い旋律に、長逸は抗い難い心でだがしかと、彼のくちびるを必死に留めた。
「成らぬ」
微かに震えながら。永易は必死に拒んだ。
「成らぬ、弾正殿」
氷のように真っ青に冷たくなった頬、伏せられた長い睫毛が小刻みに羽根のように震える様に、魅了されながら。松永は確信した。
我が目利きは間違いなし、コレは奪うに値する――いとうつくしきひとよ。
拒む指に唇を押し当て甘く柔らかい味を辿れば、青年は耐えられぬように甘い吐息を零して震える。必死に目を閉じて只、黒髪で顔を覆い耐えた。
指を食まれるだけでもこんなにも。こんなにも身が蕩けるようならば、もしも。もしも、この人が力づくで――

怖い。

ああ、と長逸が震える声音で泣くようにするので、松永は強引にその身を両の腕でかき抱き、彼の背中の黒髪を梳いた。
「卿の」
白い冷たい耳に囁く。
「くちびるに届くまで、あとどれ程の宝を贈れば」

許して呉れる?

問いに、長逸はもう本当は奪って欲しい、と浅ましく想う身に、震えた。
「……そうだな」
彼の身をきつく抱き締めたまま、彼は囁いた。
「――次の卿への贈り物は、亡き長慶様…御屋形様への手向けとしたいと、思う」
松永の言葉に、長逸がばっと顔を上げた。
亡き、三好家先代宗主、失意の内に息を引き取った長慶への手向けとは――
「…か」
まさか。
そう云いたかったのに、喉が震えてうまく発してくれなかった。
「既に整った」
そう云って松永は――今までに見たことの無い、深く暗い笑みを長逸に向けた。
「共に。長慶様の御無念を」
晴らしましょうぞ、と。
続けられた言葉に、長逸の瞳が吊り上がり――鋭い光を宿しながら。
「…公方、を」
討つと申されるか。
長逸の言葉に、ゆっくりと。深く頷いて、松永は云った。
「共に、長逸殿――三好家の為に」
まるでまじないか何かのように、囁かれた言の葉に。
長逸は考えるより先に、己の手を握る男の指をきつく握り返していた。
梟雄の手に、己の冷や汗の滲む、細い指先を。
すると松永は瞳を細くして深く笑んだ後――もう一度、彼の指に恭しくくちづけながら
「何も案ずることはない」
と、囁いた。
其の言葉に、長逸はそうか、この人は本気なのだ、と。慄いて。
「万事、私に委ね給え」
静かに長逸の身を離すと、戦慄のまま眼を見開いている青年に向かい、松永はひとつゆっくりと――頷いて。
「三好に、京の覇権を」
と、云った。
遠く、激しくなってゆく雨脚を聴きながら。長逸は嗚呼、始まってしまう。
酷く火照って、それでいて冷たい頭で松永の琥珀色の双眸を見詰めながら、想った。
もう止められないのだと。
乱世の炎で焼くか焼かれるか、ならば。
三好家のタメに俺は――俺達三人衆は――
ふいに轟いた雷鳴に、長逸は我にかえって
「如何様に」
と。声音潜めて自ら、松永弾正のくちびるに己の耳を寄せた。





時に永禄八年――後世に延々と語り継がれる謀叛は、霧雨の中決行された。
将軍、弑殺――
剣豪将軍、と称された足利義輝が、松永弾正久秀と三好三人衆の手によって、とうとう滅亡に追いやられた、京が焔の色に染まった地獄のような一夜であった。


《続》

Comment

Comment_form

管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。

ご案内

プロフィール

ゆみのや

Author:ゆみのや
戦国BASARA3の石田三成にぞっこん一目惚れいたし
こっそり応援し隊所存にございます。

最新記事

最新トラックバック

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

FC2カウンター

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。