BASARAの石田を幸せにし隊。

戦国BASARA3の石田三成をひたすらに応援するこっそり避難ブログ

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積みて恋ふらく Ⅱ

あわわ、だ、第一話に拍手ありがとうございました…!!
こちらに上げるのが遅くなってしまいすいません、
松永×三好の長兄、第弐話に御座います。

CPは違うけれど、根底に流れる雰囲気とか、
恋の噺であることとかは、ゆみのやの家三と通ずるモノではあるんで

よかったら、お付き合いくださりませ…




何処かで、鶯が啼いている。
澄みやかな竹の青の中で酷く清かに響く歌声に、長逸は思わず顔を上げて春の草花の匂いを深く吸った。
松永弾正が、今一度と招いた多聞山城の一角――と、云っても其処は砦一角、山を囲った静寂の竹林で。
其処に静かに佇む茶室の外で、長逸は此処の主が現れるのを座して待っていた。
だが、作法どうりに待たされる、というのが長逸という青年には、酷く不可解なモノであった。
幼き頃、阿波国で好き勝手野山を歩き回った己には、京の者達が、東の武人達が心を砕く数寄道というものは、いまいちよく解らないのが本当で。
松永は、「今度は長逸殿と一対一でお噺したいもの」と、文を返してきた。
だから確信した。
あの男は、此の身をどうやら――
いいさ。
青い春の竹林に向かい、長逸は今度は酷く気だるく息を吐いた。
そちらがそう云うのなら。
だが、と。
ふいに心細くなり、目の前の青い竹林の青さに目を見開く。
俺は、恋だとかそういう――駆け引きだとか。試した覚えが無い。
記憶を辿れば、幼い頃から父の望むまま剣術の鍛錬に没頭し、兵法を読み耽った日々。時々美しい侍女らに目を奪われることはあったものの、己の立場を利用すれば彼女らは簡単に応えて呉れて身を寄せてくれたし、武士道の常とされる念友、というものは――思えば、一度も持ったことがない己の経験の浅さにふいに不安になった。
もし、松永弾正がこちらに懸想しているのだとしても――果たして、溺れさせることが出来るのだろうか。
――母者。
ふいに、もう此の世に居ない、京の公家の姫君でありながら、位の低さ故食い扶持に困った父親から差し出されるように三好の家に嫁いだ――それでも、夫を慕って最期まで無邪気に少女のように笑っていたひとのことが過ぎった。
父は云っていた、「あれに笑まれると、どうにもなぁ」と。
困ったような、なのに酷く嬉しそうに笑って自分や政康の頭を撫でて、「そなたらは母に似たことを喜ばねばな。ほんに、京の公達にも勝る美貌よ」と笑っていたことを思い出して。
其の横で、母は父から贈られた豪奢な小袖の裾で小さな口元を覆いながら、無邪気に笑っていたっけ。
そうか。
笑めば、よいのだろうか。
笑めば、あの男も父がそうだったように――
長逸が其処まで思案した時。ふいに、目の前にひらひらと。黒い、透き通る絹のような羽を風に乗せながら、黒い揚羽蝶が――飛んできたので。
長逸は思わず身を立たして、其れに目を奪われた。
綺麗だな。
そして気付く。
待たされている茶室の周りに広がる、竹林の美しさに。
春の陽射しにさやさやと、葉の鳴らす音が心地よく聴こえたのに気付いたので、長逸は
飛び石の上を、履物を脱いで裸足で蝶のように飛んでみる。
感じられる石の冷たさが心地よい。
ので、長逸は蝶に誘われるまま、勝手にその場を離れてみた。
一面に広がる竹林の青に細い顎を上げて、仰ぐ。
「ふ」
吐息とも鼻唄ともつかぬ声をひとつ零すと、青年は緊張も心に潜めた決心も忘れたかのように、舞うように勝手に竹の林を、茶室から離れた処へ幼い頃母から教えられた童歌などくちずさみながら。さくさくと、歩んでみた。



何時の間にか蝶は見失ってしまったけれど、周りに広がる青い景色に、長逸は袴の裾を靡かせながら、満足そうに微笑みながら――相変わらず裸足で、足を汚しながら軽やかに進んでいた。
裸足は好きだ。
直に石の冷たさ、土のやわらかさ、草のかたちを感じられるから。
傷がついてもそれはそれ――と、長逸は微かに唄っていた。
「恋草を、摘みて摘み摘み…」
風を掌に受け止めながら、長逸が小鳥のさえずりに応えるように囁いた時だった。
「――裸足の貴公子殿」
背後から急に声を掛けられて、長逸は長い黒髪を靡かせながら、上等の浅縹の袴の裾を鳴らしながら振り返った。
其処に、彼は微笑みながら立っていた。松永弾正久秀は、よく似合う仙斎茶の羽織を纏って。
何時の間に。
慌てて居を正そうとしたが、「嗚呼、よいのだ」と。松永は軽く右手で制しながら、静かに青年に歩み寄った。
「今日も、裸足なのだね」
そう云われて、思わず耳まで紅くなる。
そして己の足を見やれば、草の青に微かに染まる、白い足を。
己だけでなく松永もまた、目を細めて眺めていることに、長逸は心底「何をしている、俺は」と我に返り息を止めた。
「卿は、其の足の裏で土のぬくもりを愛でられるか」
だが、松永から掛けられた言葉が待つ筈の身を責めるでなく、酷くやさしく、だが不思議そうに己が裸足であることへの問いだったので。長逸は思わず、心のままに返答した。
「案外冷たくて。春の土というのは」
ふいに、青年が纏っていた緊張をふっとほぐして顔を上げてきたので、松永は微かに息を呑んで幼い人の言の葉を聞いた。
「草は新芽で柔らかなので、切ることもないし。とても綺麗なので、裸足で歩んだほうが気持ちいいかと思って」
そして。青年は白く細い首を傾げながら、壮年の此の城の主に向って云った。
「好い、御庭が幾つもあって、素晴らしきこと」
潜む、幾重にも張り巡る乱世の奸計など素知らぬように。
長逸は整った唇に確かな笑みを浮かべて――初めて、其れは松永に向けられた。
笑み。
まるで、菫の花がほころんだかのような。
「此処は美しい処」
松永は、いつも張り付かせている笑みを引いて――思わず、只一心に目の前の、未だ少年と云っても差し付けないであろう人を見詰めた。
陽射しに透き通る肌も瞳も、髪艶も。
まるで源氏絵巻の中から出づった公達のように。
青年は、今までの挑むような眼差しが嘘だったかのように。無邪気に木漏れ陽の中で微笑んで魅せていた。
整った唇に、確かな弧を描かせて。目元を細めて。
松永を捕らえたままで、青年は「黒揚羽を追ってきたのですが、見失ってしまった」と長い髪を翻しながら、踵を返した。
「申し訳御座らぬ。戻ろうか、弾正殿」
そう云って己の横に並びながら――微笑む青年から目を離せず、松永は息を止めた。
こんなにも、やわらかく笑むのか。
動かぬ松永の様子に、長逸が小首を傾げて不思議そうに「…弾正、殿?」と。
険をまったく潜めぬ声音で問うてきたので。「嗚呼」とかむりを振りながら、彼はようやくいつもの心中窺い知れぬ笑みを浮かべたが。
釘付けになっている。
そう、覚えた時。
遠山信春にして、「狂人の如き者よ」と罵られた己を忘れて、目の前の青年の美しさに捕らわれている心に、気付いた。
何時振りだろうか。このように心、動くのは。
主さえ闇に葬り去り、欲しいモノは力で幾らでも欲の赴くまま手の内にしてきたのに。
例えば、此の大和の地とか、女共とか茶器名器、城に宝剣――
力に任せて、奪えばいいのではないか。
目の前で微かに笑む、この人も。
だが、青年はそんな無粋をすべて跳ね返すような無垢な瞳――陽光に透き通る、蜂蜜色の――で己を見上げてくるので。
無理に手折って、枯らしたくない。
はっきりとそう想い、松永は笑った。
そう、コレを手に入れるとするならば、コレの心も手に入れてやろう、と。
そして啼かせてみたい、一体どんな音色を奏でて魅せて呉れるのだろう、ただこうしているだけでも十二分に美しい人よ。
「戻りましょうか、長逸殿」
深く響く声音で、松永は微笑んだ。
「喉も渇いておりましょう。手前の茶でよろしければ、卿の喉を潤したい」
そう云う彼に向って、長逸は「嗚呼」と微かに頷いて。
「弾正殿の点てる茶は、ほんに美味。貴方の茶を点てる仕草も好きだ」
伝えられ、ほう、と松永は息を吐いた。
「私の?」
「嗚呼。とても美しい所作だった。自分は、未だ数寄道とか…笑われよ、若輩ゆえ、なかなか、わからなくて」
学ばなくは、と続けながら。
長逸は確かに笑みながら松永を見上げた後、軽やかに茶室に向って歩みだした。
青年の揺らされる、豊かな黒髪を見詰めながら。松永はふいに冷たい思考で思った。

――今なら、縊り殺せるだろうに

だが、出来なくて見惚れる己が居た。
後ろに静かに続きながら、瞳を離せない。

これは、本気で獲りに掛からねばならぬやもしれぬ

口元に、純粋に愉悦を滲ませた笑みを浮かべて。
松永は青年の背に続いて歩みだした。春の青に染まる景色の中。其処に咲く、一輪の華のような若い蕾を、梟のような琥珀の瞳で捕らえながら。



帰り、城門まで松永は自ら出向いて長逸を見送った。
青年は彼の心尽くしに戸惑い、「わざわざ、そんな」と戸惑ったが。
彼はもう、己が三好の筆頭であることさえ忘れてしまったかのように、険の無い白い面で松永を見上げていた。
「何を仰る」
齢を感じさせぬ涼しげな笑みを浮かべながら、松永は馬に乗る前の青年に云った。
「卿は三好の筆頭。御屋形様亡き今、卿は三好の宗主と成らねばならぬ御方。私は、もっと卿のことを知りたいのだ」
「俺のことを?」
松永の言葉に、ふいに青年は険しい眼差しを取り戻して髪を揺らした。
「そう」
酷くゆっくりと。
男が角張った顎を深く頷けた。
「私は御屋形様の御尊父、元長様から千熊丸様…長慶様の御身を託されたというのに、とうとう御屋形様に…渡せぬものが在った」
松永の低く押し殺された言葉に、青年の眉が怪訝に潜められた。
「――なれば、我が無念は卿が――御屋形様がとうとう掴めなかったモノを掴むタメに在りましょう」
ふ、と向けられた松永の笑みの底知れぬことに、長逸は一気に頭が冷えていくのを感じたが――其の後に、ふいに。
松永に手を取られ、静かに包み込まれた、己の白く長い指、其処から感じた温度と彼の纏っている黄熟香の匂いに、甘く鼻の奥を擽られて。
「卿ならば、きっと成せましょうぞ」
「――弾正殿…?」
長逸は一瞬、松永から身を引こうとしたが、はっとして気付いた――絡みとられた指――そして、解った。
そうか。まさか。いや。そうなのか、と。
「…俺が、御屋形様の…」
「左様」
松永が夕闇に潜ませるように微かに、彼の顔を捕らえながら。
「――長逸殿。今は未だ整ってはおらぬ。だが…卿と私、きっと狙っているモノは同じだと」

信じている。

擦れた低い声音で。彼は彼に囁いた。
告げられた密やかな野望に、長逸が若い身を一瞬震わせて――強張った。
そうか。三好の三代に渡る――いや、それ以上の、足利将軍家との因縁を。この男は。
思わず唇を噛み締める長逸に向って、ふいに松永は今までの囁きなどなかったかのように、少し明るい声音で云った。
「また、参られよ。この松永、卿のタメならばいつでも望むままに茶を点てまつりましょうぞ」
裸足の貴公子殿。
続けられた呼ばれように、思わず長逸が頬を染めて我にかえり「…田舎者と、想われるか」と微かに呟けば。
松永は益々深く長逸に顔を近寄せて、「私は」と。続けた。
「卿の裸足が好きだな」
焦茶の切れ長の大きな二重の双眸が見開かれて、梟のような琥珀の色と絡み合った。
「とても美しい」
また、いつでも好きなように。
「此の城の庭を、卿の裸足で愛でられよ」
囁かれた言の葉に秘められたことに、流石に気付かぬほど小供でもなかったので。
微かに松永の長い指を握り返しながら、長逸は辛うじて、吐息を零すように
「…貴方が、そう云うのなら」
また、来よう。
擦れた声音で返せば、松永は満足気に深く頷いた後――ようやく彼の手を離して「必ず文を送りましょう。今度は、弟君たちも是非」と、夕暮れ、黄昏時に染まる身を引いた。





それから程なくして、松永は約束どうりに文を書いて寄越した。


   裸足の貴公子殿
   庭はあれから 初夏の緑を早に湛えだしておりますれば
   卿の愛でるモノ 見出せようかと
   おいでなさったなら
   心からの もてなしを差し上げて候


弟の政康、友通と共に弾正の文を解いて――三好三人衆は額を寄せて、居城の一室で松永の直筆に難しい顔をしていた。
「…なに、コレ」
最初に口を開いたのは、快活な気性の真ん中の弟、政康で。
「かんッッッぜんに兄者だけに宛ててますけど」
其の後ろから遠慮がちに、自分達より大柄な身体なのに、いくらかも幼い様子で息を呑んで、末の弟の友通も、文に目を落として固まったままの長逸を窺っていた。
「……笑んで、見せたのだ」
「はあ?」
長兄の、突拍子のない言葉に、政康が眉を顰めて。
「ほら、父者は母者が笑むだけで、いつも嬉しそうにしていたから」
長逸は必死でなんとか、伝えようと言葉を探った。
「笑んで見せたら、なんとかなるかと」
そう思ったのだ、と続ける兄の言葉に、「ほう」と軽くのけぞりながら、政康は涼しい眼差しで思案しだした。
「ふーん。兄者にしては上出来だったんじゃねーの」
「は?」
「現に、アイツこうしてまた誘ってきてるし」
ふぅん、と続けながら。政康が長逸から文を取り上げ、いぶしかげに眺めた。
「…っかし、なんでまた兄者なんかねぇ…オレと兄者は同じ顔してる筈なんですけど」
政康の問いに答えたのは、末弟の友通だった。
「いや、顔は同じかもしれんが、長兄と政兄は中身が全然違う」
「はあ!?なにソレ、オレと長兄ィがどう違うってんだよ!?」
「ほら、喋り方も全然違う。長兄のほうが、おとなしいじゃないか」
「はー!?悪かったなそりゃオレは長兄ィよりは…」
「二人とも、止めないか」
眉を潜めて、長逸が騒々しくなった二人の弟を諌めた。
「もういい、兎に角、弾正は俺を誘っているのだ。ならば、俺はきゃつの寝首を掻く為…このまま弾正に懐柔を試みようと思う」
意外な程静かな長逸の横顔に、政康が、其の顔を覗き込みながら「…兄者、本当に大丈夫か?」と。怪訝に続けたので、「え?」と長逸が思わず顔を上げれば。
其処には、思いっきり顔を顰めた弟が居て。
「つかさ、“裸足の貴公子殿”って、ナニ?」
え、と。
思わず染めれらた長逸の頬の色を、政康は見逃さなかった。
「…な、に?」
益々眉を顰めて詰め寄ってくる真ん中の弟に、思わず手を翳しながら。長逸は「なんでもない」と言葉を濁して、ばっと立ち上がって松永からの文を弟達から取り上げて「兎に角、近いうちにまた多聞山城に出向くぞ。どちらにしろ、弾正が何か不穏な動きを見せぬよう、睨みを利かせておく必要があるのだ。いいな」
そこまで一気にまくし立てると――弟達の返答を待たずに、ぴしゃんと障子を開けて出て行ってしまったので。
残された政康と友通は、顔を見合わせた後――長兄の去っていた後をまじまじと見やって
「…まさか、な」
政康の言葉に、「あっては成らぬことだ。兄者だって、そのくらい――」と、友通は答えたが、政康は「ばっか、お前、“恋”ってのは魔物なんだぜ」と。澄ました顔で末の弟の無骨な顔を見下ろした後――眉を顰めて「…兄者、うぶだしなぁ」と低く呟いた。
「本気に…まさか…な」





それから暫く、そんなに通うのに苦ではない距離であったのもあって、長逸たち三好三人衆は足繁く松永の多聞山城に通うようになった。
数寄道に通ずる松永に、長逸ら三兄弟が教えを乞うようになったという。
ただ剣の腕前立つだけでなく、数寄道に通じてこそまた、為政者として力にも成ろうと。
他の三好一族は「あれほど厭うていた松永に?」「長逸様は何をお考えか」と訝しがったが、政康の「我らには我らの考えがある。今に見ておれ」という囁きに、黙って若き筆頭達の動向を見守るに留まり。
何よりも、足利将軍家だけでなく――尾張の地から狼煙を上げた、新たな風雲児――織田信長の勢い凄まじくなることに、内輪もめをしている場合ではないらしい、と。新たな風向きになりつつある乱世に、息を潜めるしかなかった。








そうして何回目かの来訪の時。
茶室ではなく――相変わらず豪奢に金色を放つ上段の間にて、松永と三人衆は会していた。そして――
目の前に差し出された、研ぎ澄まされた冷たい覇気を纏わせる――十文字の大槍を、三好三人衆が次兄、政康はわなわなと微かに震えさえして、今にも掴みそうな勢いで凝視していた。
其の横顔を、はあ、と。ほんの少し呆れながら髪以外は同じ背格好の長逸が困ったように見詰めていて。横に座する末弟の友通も、危うく苦く笑い出しそうになるのを必死で堪えていた。
「之定が作に御座る」
いつものように。
優雅さを湛える笑みでひとつ頷きながら、松永は絹の上に横たわる見事な大十文字槍の由来を三兄弟に向って簡潔に述べ上げた。
「先日手に入れましてな。聞くに、政康殿と友通殿は、それは見事な槍の腕前をお持ちとか。なれば、是非にお見せしたいものだ、と」
松永の言葉は、半分ほども政康の耳に入っていないようだった。
いつもなら油断なく、青褐色の切れ長の瞳を光らしている次兄は今や――眼前の名槍に涎を垂らさんばかりの顔色で。
「――政康」
とうとう長逸が、低い声音で弟の名を呼ぶと。
「えっ!?」
と。
本当に何も聞こえていなかったように、政康は我に返って慌てて「あ、う、うむ」と背筋を正してわざとらしく咳払いなどしてみせたが。
「はははは」
喉を深く震わせながら、松永から品の良い笑い声が零れたので、長逸が眉を潜めながら
「申し訳御座らぬ弾正殿、ご覧のとうり、政康は武具に目が無いのです。ましてや、このような名工の作となると」
と、ふるふるとかむりを横に振ってみせた。「あっ兄者ッ!!」云うなよ、と小声でぎっ、とこちらを睨みつけてくる双弟に、改めて長逸は溜息を吐く。
だが、松永はまるで愛しい小供らでも眺めるように、穏かな笑みで「御気持ちはようく分かります、私も一介のもののふゆえ」と、今度はいつも滅多に己から喋らぬ友通に向って「如何かな、卿の目から見ても、そこそこのモノではありましょうか」と問うたので。少し驚いた後、友通は
「そこそこどころではない。これはまた、見事。触れる前から斬れそうに立ち上る覇気と云い、こちらの面を鏡のように映す透明さと云い…見事、誠に見事」
と。
感じ入るように、隣の政康よりも余程落ち着いて答えて見せたので。
長逸がほ、と今度は安堵の息を吐き、政康は少しへそを曲げて「ふん」と鼻を鳴らして視線を末弟に滑らせたが――
「それはよかった。差し上げるに値する価値は御座ったな」
次の瞬間、松永が告げたことに、政康は今度こそ我を見失って大声を出した。
「何!?」
「政康ッ!!」
直ぐに長逸が押し殺した声音で制したが、既に遅く。
「弾正殿、今何と申した」
思わずぐ、と屈みこみながら、政康がにっくき奸臣である筈の松永の顔を覗き込んで。
「此の槍に、卿らに差し上げる価値があってよう御座った、と申しましたな」
其の答えに。
はあああ、と息を呑んで、政康の青褐色の瞳が一気にうっすらと感極まって涙まで浮かべて。
「…我らに…ッッ!?」
「政康ッッ!!」
双弟の有様に、とうとう長逸が怒声を上げて彼を諌めようとしたが。
「嗚呼、よいのです長逸殿、このように喜んで頂けて私は嬉しい」
松永に軽く制されたものの、長逸は「だがしかし、コレは…そう易々と頂ける様な…」と言葉を濁したが。
「よいではないか兄者、弾正殿は本当に気前のよき御方で御座るな。この間も、梅の木一本、まるごとこちらの飯岡城に寄越した時など、本当に驚いた」
今までの態度が嘘のように。調子よく政康が饒舌になったことに、「ああ、もう止められない」と長逸が思わず片手で顔を覆った。
「…ほんに、申し訳御座らぬ…」
愚弟にて、とぼそっと呟いて肩を落とす長逸の様に、流石の松永もくく、と声を押し殺して笑みを堪えた。
「して、弾正殿、手にしてもよいだろうか?」
そわそわと身を乗り出して問う政康に向かい
「嗚呼、もちろんですとも。出来たら御二方の為に、二本手に入れたかったのですが」
と、松永が答えた。
「なんと、それは」
思わず末弟の友通も、彼の言葉に驚いて。
「きっとこれは、政康殿のモノになるでしょうな」
「…宝は兄に譲るもので御座ろう」
苦く笑う――腹違いゆえか、上の二人の兄と違って少し角ばった無骨な顔の友通であったが、笑うと歳相応の少年らしい愛嬌が滲んだ。
「いつか、友通殿にも」
「これは、痛み入る」
静かに目を伏せて感謝を述べる友通の横で、政康はもう我慢できぬとばかりに目の前の大十文字の槍に手をかけて「これは…!マ、…い、いや誠、見事…」ともう周りなど目に入っていないかのようだった。
そんな弟を長い睫を伏せて心底呆れたように――だが、どこかあたたかさを秘めた眼差しで見詰めた後、長逸は
「弾正殿、心より御礼申し上げる」
と、ほんの少しだけ唇に弧を描かせた。



それから暫く、二人の弟がああでもない、こうでもないと夢中になって動きそうに無いのを悟ると、長逸は「少々失礼する」と、上段の間を後にして「厠だ」と控える小姓に告げて勝手に歩き出した。

本当は、厠というのは口実で。
困ったものだ、と心の中で「あんなに敵意を剥き出しにしてきたクセに」と弟に対して文句を垂れて、それから「別に、俺を気に入ったワケではないのかもしれぬ」と。ふいに、そんな風に想い暗くなった胸の内に驚いて――あの日の竹林が懐かしくなったのだ。
あの日、彼は云った。
卿の裸足が好きだ、と。
贈り物も招きの文も、己だけに注がれていたように想ったが、あれだけの宝を弟たちにも惜しげもなく差し出して見せた。あの男は。
「…結局…」

三人まとめて絆せれば、それでよいのか。

「…弾正殿」
最後、思わず声になった呼びかけに
「此処に」
と。
本当に彼の声が返ってきたので、緑の庭を望む回廊の真ん中で、長逸は長い黒髪をふぁさり、と大きく揺らしながら振り向いて、「だ、弾正殿!?」と思わず顔を紅くした。
「な、何故」
「いやはや、卿の弟君の執心と熱意に思わずあてられましたな」
涼みに、と。
続けながら、松永は優美に流れる仕草で懐から扇子を取り出し、ばっと広げて己を扇いでみせた。
すると。
「あ」
ふいに、長逸の瞳が見開かれて――松永の手にしている扇子をひたと見詰めた。
「…この扇子が、如何した?」
松永の静かな問いかけに、長逸が「ああ、とても綺麗な色合いだと想って」と。何気なしに、だが深く探るような不思議な目線で答えた。
「浅葱色の地に真朱色の旭。其処に金地の雲が広がる様…とても風雅」
素敵だな。
無邪気に続けた青年の傾げられたうなじに。
思わず見入りながら、松永はほう、と答えた。
「卿は色彩に対して、非常に豊かな感性をお持ちなのだな」
そう、嬉しそうに。
笑みを含ませた男の言葉に、はっとして長逸が顔を上げれば。其処には酷くやさしいやわらかな笑みを湛えた眼差しが在った。
「嬉しいものだ。なに、“貴殿の持つモノは趣味が好い”と口だけの輩なら幾らでも居ります。だが、そうしてはっきり何処が好い、とまで云ってくれる人は少ないものだ」
其の上、素直。
続けられた言葉に、長逸が思わず頬を染めた。
「いや、そんな」
慌てて、背筋を正してかむりを振る。
「申し訳御座らぬ、若輩が出過ぎた言葉であったか」
「何を臆される」
はは、と松永が深い低い声音で喉を震わせながら、己より細く背の低い長逸の瞳を捕らえた。
「卿は卿の趣味の好さをもう少しご自身で認められたらよい。いや、流石は三好の御曹司殿。それに、卿は三好三人衆の筆頭殿…私は卿に仕える身。卿が白を黒、と云われれば、それに従うまでの身であれば」
松永の柔らかな物腰の言葉の中に――さりげなく忠誠を含ませることに、信じられなくて長逸は微かに瞳を見開いて、己を見下ろす美丈夫の――琥珀色の艶やかな瞳を見詰め返した。
「…其れは、真か」
ふいに。
長逸の表情がひゅ、と引き締まって――青年は、挑むように問うた。
「俺が白を黒、と云えば貴方もそう云うと」
長逸の問いに、ゆっくりと。
酷く深く、松永は笑みながら頷いた。するすると、音も無く扇子を閉じながら。そして云った。
「もちろん。我が主(きみ)よ」
「…で、は」
く、と。
知らず知らずに、拳を握り締めながら。長逸は続けて。
「俺が腹を切れ、と云うたら、切れるか?」
長逸のき、と強張った頬を――見下ろしながら、一瞬。松永は眉を潜めて。だが次には
「卿が希むのであれば」
と、頭を恭しく垂れてみせて。
「卿が希むのであれば、私の命を」

差し上げよう。

余りにも、其の声音が艶やかに低く、耳をくすぐったので。
長逸は自分でも信じられないことに、胸の奥から言葉に出来ない熱いモノが込上げてきて、ふらり。よろめいた。
「――おっと」
其の腕を。彼は迷いなく取って己の方へ抱き寄せた。
一瞬。
ほんの一瞬だけ、抱き寄せられて。
長逸は鼻をくすぐる彼の黄熟香のかおりにくらり、として彼のうなじに額を寄せたので。
一瞬、雷が走ったように悟った。
嫌ではない。俺は――この人を。
「如何なされた」
酷く優しく声が降ってくるので、慌てて長逸は松永の胸に手を添えて、己の身を圧し剥がした。
「いや。なんでも」
必死で平静を取り繕う。
暫し。
取られた腕をそのままにさせて、長逸は松永から顔を背けて黙っていたが。
「――御気分が優れぬか?」
そう、松永の問うてきたので「大事ない」と彼の腕を滑るように剥がした。
「……長逸殿」
青年の臥せられた顔に向って、松永はなんということもなし、と続けた。
「周りの者共が何と云っているかは知らないが、私は長慶様――御屋形様から享けた御恩を忘れたことはない」
其の言葉に、心の内で「詭弁を」と想いながらも――今は信じたい、と願う己に長逸は酷く動揺した。
そんな彼の心の内の嵐を知ってか知らずか、松永は手元の扇子を今一度美しく広げた後、綺麗に折り畳んで――「もしよろしければ、コレは卿に差し上げよう」と笑みながら。
「――え?」
豊かな黒髪を揺らしながら、長逸が松永を見上げた。
「いや、本来なら手をつけずに献上奉るところなのだが。コレは未だ、今日卸したばかりでね。そう私の手垢もついてはいまい。卿さえよろしければ、持っていかれよ」
「――そんな」
慌てて。長逸の表情が無垢な幼さを滲ませるものに戻っていく。
「価値あるモノと御見受けいたす。そんなモノを…」
恥じ入るように続けた青年の手を取って扇子を握らすと――松永は息を止め、重ねられた手を頬を染めながら見詰める青年に囁いた。
「よいのだ。卿によく似合うだろう」
そう云われて梟のような不思議な眼光で覗き込まれれば、もう何も云えずに彼の瞳を見詰め返すしかなくて――それからはっとして、長逸は「そんな」と。
微かな吐息で呟いて。
「…この間の梅の枝に、馬尼拉の壷…それに、この扇子まで」
俺は何もお返ししていない、と。
青年が恥じ入るように長い睫を伏せるので、松永はふいに想い付いた様に云ってみせた。
「では、ひとつ聞き入れて貰ってもよろしいだろうか」
「――え?」
「卿の黒髪は見事だ。京の公家の姫君にも勝るとも劣らぬ艶と豊かさをお持ちだ。折角伸ばしてらっしゃるのだから、結い上げずに流してみては…如何かな?」

触れてもよいだろうか。

そう、問われて。
長逸は二重のくっきりした焦茶の双眸を見開いて、目の前の美丈夫を見詰め返した。

「そうだな、喩えば」

ふいに。
男は青年の背に回り、長く節くれだった指で結い上げていた髪を解いてみせた。

「嗚呼、矢張り美しい」

ふぁさり、己の黒髪が背に掛かるのを感じて。
長逸は驚いて、背に居る人を振り返った。
「嗚呼、そうして靡かせれば、なお」
松永弾正久秀は、満足そうに目を細めて勝手に頷いた。
解かれた髪は、まるで柳の枝のように自由に風に靡いて。
齢、二十歳に満たぬ青年の幼さを引き立てるように、さらさらと風に舞って魅せた。
己でも驚いたように、長逸が耳に掛かる黒髪を長く細い指で梳いてみせるので。
松永弾正はもう一度、満足そうに頷いた後。
ほんの一瞬だけ、一瞬だけ。
彼の髪に触れて、囁いた。

「卿は美しい」

とどめのように告げられた言の葉に、長逸は今度こそ息を止めて肌を粟立て、妖しく微笑む梟雄と呼ばれる男の瞳に絡め取られた。
ふたりは暫し刻を止めたかのように、磨き上げられた城の回廊の真ん中、柔らかな早春の木漏れ陽に射されながら見詰め合った。



《続》

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Author:ゆみのや
戦国BASARA3の石田三成にぞっこん一目惚れいたし
こっそり応援し隊所存にございます。

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