BASARAの石田を幸せにし隊。

戦国BASARA3の石田三成をひたすらに応援するこっそり避難ブログ

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積みて恋ふらく Ⅰ

もうこっちに上げるの散々迷ったのですが、拍手でも「萌えた!」と頂けたのでやっちまいます…!
松永×三好長兄(長逸)の小噺、『積みて恋ふらく』、連載開始です。

そう。連載。さい・・・

長い噺となりました…

内容は松永が一家臣でありながら、三好家を乗っ取るまで、そして長逸を手に入れるまでの昔語り。
史実エピソードてんこもり、三兄弟に至ってはほぼオリジナルキャラと化しておりますので、それでもよろしければ…ば…ッッ…!!
ピクシブにはイメージのための落描きもあげてあります。

あれ ここ BSRの石田を幸せにするブログサイト
うん そうなの イベントはこれからもずっと家三だよ
家三も描いてるんですよ よ・・・ 



     恋草を 力車に 七車 
     積みて恋ふらく わが心から

     

                      広河女王








やわらかな苔の生す庭に、未だ少年、と云ってもいい若武者は、裸足で降り立っていた。


回廊で草履持ちが戸惑いながら其の背を窺っていると、ふいに。
大柄で屈強な影が音も無く草履持ちの横に現れ、草履持ちが止める間もなく、滑るように庭に佇む若武者の方へと。
若武者はといえば、熱心に目の前の――微かに薄萌黄の色を宿す白梅を見詰めていた。鼻先をはなびらに掠めるほどに、顔を近づけて。

「其の梅が御気に召したか」

唄うように響く、低く艶の有る声音に驚いて、若者は振り返った。
結い上げられた豊かな緑の黒髪がふぁさり、靡く。
「これは」
声を掛けられた人は、微かに頬を紅潮させて自分より背の高い――この庭の、城の主を見上げた。
「弾正殿」
弾正殿、と呼ばれた男は、優雅に頭を垂れた後――
「この梅が、御気に召したか。長逸殿」
と、若武者の名を呼んだ。





時に永禄七年――
麻のように乱れる戦国の世、畿内は名目上、室町幕府は足利将軍家によって統治されていた。だが、京の実権を握り将軍――公方を傀儡としていたのは、阿波国から進出してきた、名門・三好一族であり。
そしてこの年――その三好一族を率いてきた、宗主・三好長慶が病に命奪われ、京を席捲しつつあった三好一族の勢いに翳りが射し出した年でもあった。

其処に、其の男は居た。
長慶の今際の際、既にまともに言葉も紡げぬ主の痩せ細った手をしかと握り、何人も近づけぬよう、不思議な威圧を背にして、奥方達や侍女、侍従、三好の家臣達のすすり泣く声を背に。
琥珀色の双眸に、妖しい光を宿しながら。

「案じられるな」

三好家が家臣筆頭格、松永弾正久秀は虚ろな主の瞳を覗き込みながら、囁いた。

「後は凡て、この松永にお任せを」

千熊丸様。

其の響きに、長慶の意識が一瞬にして未だ幼き頃、初めてこの男に出逢った遠い、遠い酷く明るい記憶が甦って。

「…ひさ、ひで…よ…」

主に呼ばれ、松永はひとつ頷いて微笑みながら――彼だけに聴こえるように、云った。

「地獄で先に、義興様も冬康殿も貴方をお待ち申し上げておりましょう」

其の、言の葉に。
一瞬にして長慶は淡い想い出から無残な“今”に、引き戻されて。
そして悟った。此の今際の時に、ようやく――そうか、久秀、凡てはお主――

「……ッ…かッッ……」

まるで蝋燭の火が、燃え尽きる瞬間眩くなるように。
長慶は病んだ蒼い手で、己を此処まで導いた――乳父の首にかけた。
一瞬、松永の双眸が鋭く見開かれ――此処まで育て上げて、そして今、消え失せようとしている命に向って、まるで獲物を狙う梟のように。
「………」
射抜かれて、もう長慶には遺されていく三好の者達に悟った胸の内を伝えることも出来ぬのだと一筋、無念の涙を零した後――

かっと、血走った眼を見開いたまま、彼は事切れた。

「――千熊丸様……」

そして松永が身を引いて顔を大きな掌で覆い、肩を震わせて見せたので。
医師が静かに長慶の脈を確かめ首を横に振ると、居合わせた三好一族郎党から一斉に「御屋形様ッッ!!」「長慶様――」「殿!!」と――涙の合唱が聴こえて。
其の中で、男は静かに顔を覆ったままで、感じ入るように唇を噛み締めていた。
傍目には、其れは幼い頃から育て上げた主を失った悲哀に見えたろうが――男は、微かに弧を描かせていたのだった。
其の、整った美しい三日月のような唇に。
ようやくだ。
そう、感じ入るように――広く逞しい肩を微かに震わせていた。






三好長慶が此の世を去り、慌しい日々が過ぎて、幾月かの頃。
松永弾正久秀は、静かに己の築いた豪壮な居城の――「かつてない」と、訪れる者が皆圧倒されて見上げる、見事な四重の櫓の外回廊――を歩みながら、招いた者達が到着した様子を、まるで天上の者のように見下ろしていた。
三好三人衆。
三好家宗主、三好長慶を亡きモノにする前から――思惑どうりに周りの親族を密かに葬ってきた筈なのに。
ふいに、其の若者達は現れて声高らかに「三好家の血脈、此処に在り」と宣言してきたのだった。
まったく。
苦々しく、疲れたように深く息を吐く。
氏血脈か何かは知らぬが、始末しても始末しても、沸いて出てくるモノよ。
いや、だからこそ選んだのだが。
四国という島国から圧倒的な軍力と結束で、京の将軍家を傀儡に取る程の一族を。選んで此の手に――
無意識に、右手を空に翳して、握り締めていた。
己の辿ってきた過去さえ、握り潰すかのように。
私が欲するもの、欲する処。
誰にも、何人たりとも邪魔はさせん――
ようやく、此処まで来たのだから。
名も無き街道の、名も無き一人の仔が。
「――ソレは未だ――」
ふと。其処まで独りごちた時。
近付いてきた――恭しく家来らに先導され、正門にて馬を降り迎えを待つ三好の若武者が三人、はっきりと目に入った。
静かに回廊の手摺に手を掛けて、目を細める。
視界に入ってきたのは三人の中でも一際美しい、長い黒髪を結い上げた若武者だった。
青碧の直垂に身を包み、被っていた笠を取ってふるふると白い首を振って髪を風に遊ばせた其の仕草に。
思わず、松永は「…ん」と低く息を吐いて、彼に見入った。
そして。
若者は、こちらの気配に気付いたかのように顔を上げた。
仰がれた瞳が陽光に透き通り、焦茶色の瞳が一気に蜂蜜色に成って、こちらを――風に靡くは緑の黒髪。
早春の光に照らされた青年の無垢な顔のことに、松永の琥珀色の瞳を思わず見開いて見入った。

美しい。

噂には聴いていたが、想像以上だった。
三好の若き筆頭殿、其の美貌はまるではなのやう。
清廉で、歳に不釣合いな程強気な性根の持ち主だとも。
だが、今――無防備にこちらに上げられた瞳は、表情は――未だ二十歳に届かぬ少年の幼ささえ滲ませるやわらかさ。
今まで何度か三好一族の集いでちらり、三兄弟、いつも肩を並べていたのを見てはいたが、相手が元服した姿に成った後、はっきりと目を合わせたのはこれが初めてだった。
思わず、顎を上げて身を乗り出す。あんなにも美しいモノだったのか、と。

そして青年も目を細め、櫓から己を見下ろしている人を不思議そうに見詰め返した。
逆光でよく見えない。
だが、大柄で屈強な――広い肩幅の黒い影。
手摺にかけられた掌も指も未だ幼さを残す自分の身体と比べ――熟した厚さと重みを感じさせる――
だが、何よりも。
きらり、一瞬影の中に煌いた、琥珀色の梟のような眼光が長逸の視線を絡めとり釘付けた。

――鳥?

確かに其れは人の容であるはずなのに――
首を伸ばして一歩、進む。
たそ、とまで声に出掛かったところで――

「――兄者?」

ふいに、同じ顔をした――年子と親は言い張った――弟が不思議そうに呼び掛けてきたので、はっとして振り返った。
「どうした?」
怪訝そうに潜められる大きな切れ長の二重の双眸に向き合って「ああ」と長逸はもう一度己を捕らえた影があったほうを指差しながら
「あそこに…ん?」
其処にはもう誰も、何者も無く。
「あそこに?誰か居るのか」
長逸と同じ容をした、だがそれよりも明るい薄い色をした瞳を凝らして政康も櫓を見上げたが、其処には誰の影も無く。
「…ん、おかしいな、居たのだが」
「居た?誰も居ないじゃないか」
弟の言葉に、長逸が「…気のせい、だったか」と俯いた時。
「お待たせ致しました、三好の殿方」
と、少し年老いた侍女がいつの間にかやってきていて、三人――三好三人衆と呼ばれる若き筆頭達を出迎えた。
「さあ、こちらへ。松永弾正様がお待ちに御座います」
松永弾正。
其の名に、三人の表情がすっと引き締まっていく。
三好の長であった長慶亡き後、我が物顔で三好を仕切り、畿内での覇権を掌握している梟雄――

今こそ、決着をつける時。

二人の兄の背後に無言で立つ、少し大柄な弟――友通に向って、長逸が頷いた。
「ゆくぞ」
豊かな黒髪を靡かせながら、長逸が大きな切れ長の瞳の端をきり、と吊り上げ踏み出した――“絢爛壮麗”と謳われる、多聞山城への中へと。



通された広間の柱は金色の真鍮で美しく飾られたうえ薄浅彫りの細工が施されており、其の合間を唐土の昔物語を描いた見事な屏風絵が囲む。
とても大名でもない――一家臣である者の城とは思えない壮麗さに気圧され、若き三好の筆頭達は息を呑んでいたが、政康の「何様のつもりだ?御屋形様の威光に仕える身でありながら…これではまるで…」という歯軋りにはっとなって、背筋を正した。
「兄者。噂は本当だったな。これじゃまるで、あいつが三好家の長みたいじゃないか。赦せない、何処から来たかも分からない出自のクセに…」
「分かっている」
息を潜めるようにして、長逸が弟の言葉に答えた。
「きゃつの肚の中を暴く。そして、三好から追放せねば。我らこそ三好の嫡出。これ以上、きゃつの勝手にはさせぬ」
兄の言葉に、弟は満足そうに頷いた。
「ああ。オレたちは確かに若すぎるが、御屋形様の無念を継ぐのは我らでなくては」
其処に――
「松永弾正久秀様、おなりにございます」
小姓がそう云うと、男は現れた。
音もなく、静かに長身の雄偉な身体を滑らせて――
其の影に、「あ」と思わず長逸が声を洩らした。
あ。あの影ではなかったか。
見上げた先には、筋の通った鼻、張った鰓骨、白髪さえも美しく整えた髷、太い首筋――を持った、背の高い男の姿。
あ、この人ではなかったか?
あの櫓の上から――己を捕らえていたのは。
長逸がそこまで考えを巡らせた時、ふいに彼はこちらを向いた。
琥珀色の深い切れ長の瞳が、微かな笑みさえ乗せて。己の瞳を捕らえて。
彼の整った唇が優美に弧を描く様に思わず息を呑みながら、長逸は幼い瞳を見開いた。
ああ。この人ではなかった?と。
「――よくぞ参られた」
そして男は、低く、だが艶のある深い声音で云い頭を垂れながら、静かに上座に落ち着いた。
「三好三人衆。我らが筆頭殿よ」
座しながら、男は名乗った。
「松永弾正久秀に御座る。卿らとは、御屋形様の葬儀以来ですな」
そして男はもう一度笑んだ。
「よくぞ、我が多聞山城に参られた。御足労、心より御礼申し上げる」
仙斎茶の品の良い袴に身を包んだ三好随一の家臣は、緩やかに瞳を上げて若武者らをゆっくりと捕らえながら頷いた。そして――真ん中に座する長兄を真っ直ぐに見詰めながら云った。
「まずは茶など嗜みながら、これからの畿内の情勢など語らいたいと思うのだが…如何な?遠路御疲れであろう」
問われた長逸は――はっと我に返って背筋を正しながら答えた。
「そうであるな。弾正殿。御心遣い、受け取ろう」
若者の声音の張りのあることに。
松永弾正久秀は、微笑んだ。



重い静寂の中に、釜にくつくつと湯が煮立てられる音と、主が一分の迷いも無く静々と柄杓を立てる音がして、畏まった三好の若き筆頭達の前に茶碗が弾正自らの手で差し出された。
長逸は切れ長のくっきりとした瞳でちらり、目の前の鮮やかな色の茶を点てた松永を見やった。
力強い太い首に肩幅。それでいて、決して無骨でない涼しい面。
美丈夫、ということは聞き及んでいた。
そして、流れるように上質な羽織の衣擦れだけ鳴らしながら見事な手前で茶を点てる。
この男は――
長い睫を伏せて目の前の茶碗に視線を落としながら、若き三好の棟梁は頬を引き締めた。
隙が無い。
亡くなった御屋形様の御尊父――元長が、或る日京から連れ帰った、不思議な青年だったと云う。
「この者は畿内のとある寺で燻って居ってな。賢しく、今の乱世に相応しい強き光を瞳に秘めておった。いづれ三好も上洛を目指そうなれば、千熊丸の乳父(めのと)に丁度よかろう」
最初は名家・三好の御曹司に何処の馬の骨とも知れぬ者を、と戸惑う家臣も多かったが、病気がちで線の細い千熊丸が――其の青年が乳父についてからというもの、目覚しく武芸に励み、兵法を覚え、馬を駆り活発になっていくことに――なによりも、千熊丸がまるで兄でも得たように懐いたことで、その青年は。
千熊丸が三好家宗主、三好長慶として畿内を圧する頃には、同じ位――いやそれ以上の実力をつけ、彼が失意の内に今際の時を迎えた時も傍に居て、そして――
差し出された椀に手をつけず動かぬ長逸の様子に、二人の弟が小声で「兄者」と囁いたので。はっとして、長逸は面を上げた。そして、目が合った。
心の内読めぬ、不思議に静かな笑みを湛えて。
松永は長逸を見詰めていた。
あ。矢張り、この色だったような。
己を逆光を背に見下ろしていた――
「如何致した、長逸殿」
至極静かに。松永は頭を軽く垂れた後、笑みながら云った。
「御疲れであろうか。そう畏まられなくともよい。なに、茶道だ数寄道だと申すが、そんなモノはまず、茶ありきにて。私程度の腕で、卿らの喉を潤すことが出来たら幸いと思って御招きしたのだが」
困ったように眉を潜めて笑む顔は、とても三好の為に将軍家さえないがしろにして次々と謀略を重ねてきた男のモノとは想えぬ程に、善良で整っているようにさえ見えた。
真っ直ぐに見詰められて、長逸が思わずく、と顎を引きながら
「いや。お気遣い無用也。悪く思われるな、まこと見事な茶室ゆえ、見入っておったまで」
と茶碗に手を伸ばした。
「これはこれは、嬉しきこと」
優美に瞳を伏せながら、松永が彼の緊張を解かすようにとうとうと語りだした。
「卿らは三好の御曹司、そうですな、御屋形様がご健勝であらせられた頃は歌会にも幼いながらに立派に出ておられたのを私は見ておりました。御三方とも京(みやこ)の公達にも勝るとも劣らぬ気品と教養をお持ちだと、私は感じ入ったものだ。その様な御方にお褒めに預かり、この松永弾正、まこと心から嬉しく思いまする」
男の滑るように語られる賛辞に、長逸が思わず手を止めて松永を見返した。
「御口に合えばよろしいのだが」
そして、琥珀色の不思議な色合いの双眸で真っ直ぐに射抜かれて。
長逸は「…いや…」と言葉を続けられず、義務のように静かに茶に口をつけた。


一度目の茶が終わると、松永は作法など気になさるな、と云いながら続きの茶を点てながら、今は亡き主君・長慶の想い出を語りだして、畿内の情勢云々は、一切口にしなかった。
御屋形様はほんに心細やかな御方だった。御優しいゆえに、将軍家に散々利用されたあげくが、御兄弟に御子息まで先に逝かれて無念の――

「ほんに、口惜しいことに御座る」

松永が初めて眉間に皺を寄せて、沈痛な面持ちで黙り込んだのを見て、三好の兄弟達は思わず息を止めた。
「御屋形様の無念を晴らす為にも、我ら松永一門、命を賭して三好の為に、これからも変わらず尽くす所存」
其処まで云われて、長逸は怪訝に眉を潜めた。
一体――何処までが本心なのだ。
一分の隙無き程に、目の前の男は美しかった。
とても齢四十を越えているとは想えぬ程に、逞しく均整取れた屈強な美丈夫。
未だ若い長逸には、計りかねていた。演技、にしても真に迫る言葉に表情――しかもそれがいちいち美しいのだから、思わず信じてしまいそうなのだ。
成らぬ、この男は――
ふいに、隣の政康の視線を感じて、長逸は弟の「(信じてはいけない)」という無言の進言に、微かに頷いて。
御屋形様。其れに御兄弟、御子息――
どうしてあんな次々と、まるで謀られたように亡くなっていったのか。
其処にこの男の影があるのは、三好家の者皆が感じている。
「――申し訳御座らぬ、暫し席を外させて頂く」
ふいに長逸は立ち上がり、静かに茶室を後にした。


厠へ行きたい、と草履持ちに声を掛けると、長逸はかむりをふって思わず額に冷たくなっていた手をあてた。
松永弾正久秀。
計れぬ、想像以上に手強い相手だろう。
く、と思わず唇を噛み締める。
だが、今“三好三人衆”と呼ばれる己ら――其の長兄たる己が、しかとあの梟雄の動向を抑えていかねばならんのだ、と。
長逸は抱え込んだモノの重さに、ほんの少しだけ瞳を曇らせた。
ソレを望んで抱えたのか、と問われれば分からない、と答えざるを得ない。
だが、俺は三好三人衆の長兄なのだ。と。
結い上げられた、未だ幼さを微かに残すうなじにかかる後れ毛を靡かせながら、多聞山の城を鋭く見渡しながら、長逸は誰にでもなく頷いた。
負けはせぬ、と。


厠の帰り、磨き上げられた回廊を無心に進んでいた長逸は、ふと香る梅の花の気配に顔を上げた。
梟雄の居城に乗り込んだ、という緊張感で周りにあまり目もいっていなかったのに、ふいに見上げてみれば。其処には、見事な庭園が広がっていて。長逸は息を一瞬止めて、「…これは」と見入った。
すべてが自然に、だがあくまでさりげなく奥の池まで配された樹の数々、そして季節に合わせて楽しめるようにと、咲く順番に配された花々の茂みに、長逸は微かに首を伸ばして見入った。
なんと、美しい。
そうだ、この城は美しい。
気付いて、長逸は目の前に広がる庭園や真白の城の壁、其れと対成すような、厚い黒瓦で葺かれた屋根など改めて見渡した。
松永弾正が心を砕いて建築したという此処は。
長逸は気付いて眼を見開いた。
「あ」
ふいに、目に入った一本の梅に。長逸は惹かれて、草履持ちが「お、殿様」と止めるのも聴こえぬ様子で――裸足のままで、庭に降り立ち――冷たい石の上を器用に渡ると、其の梅の前に立って。
三好の御曹司は、流れる緑の黒髪を微かに靡かせながら、其の芳しき花弁に鼻がつくくらいに顔寄せて、すん、と息を吸った後。目の前の珍しい梅の色に見入った。
「…きみどり?」
目の前の白い――いや、それらは葉の色を微かに潜ませた黄緑の梅の花。
「なんと」
長く白い指ではなびらをなぞって、香りを確かめた後――青年は、微笑んだ。
ふふ、と。
「こんな色、在ったのか」
綺麗だな、と両の手の指で触れるか触れないくらいの微かさで、梅を愛でる。
其の様は、既に戦場でいくつかの首級を挙げている――“三好の三人衆此処に在り”と周りを平伏させるような若武者ではなく、可憐な、未だ幼さ滲ませる――

其の時だった。

「其の梅が、御気に召したか」

ふいに背中から聴こえた、謳う様な、低い耳を擽る声音。

ふぁさり、長逸が結い上げた黒髪を揺らしながら振り返れば。
「これは」
いつの間にか、其処には松永弾正久秀が居た。
口元に、心のうち読み取れぬような不思議な笑みを湛えながら。
「弾正殿」
長逸が彼に呼び掛ければ、彼は微かに優美に頭を垂れてみせたあと、長逸の横に並び彼の目の前の梅の花を撫でた。
「コレは“月影”、という品種でね。珍しい色で御座ろう」
「…何故、此処に?」
長逸の怪訝な表情に、松永は相変わらずの微笑で答えた。
「いえ、御帰りが遅いので気になりましてな」
「…御気を悪くされたか」
ぼそっと云われた青年の答えに、「とんでもない」と本当に哀しそうな色を潜ませながら。
「只、案じられただけに御座る。もしや御気分優れなくなったのか、と」
「…そう、では」
少しばつが悪そうに、長逸が答えたので。
松永は青年の為に頭を垂れた後、「どうか、己がこの城の主のように振舞われよ」と、云ってみせたので。長逸は驚いて、横に立つ大柄な男の顔を思わず――見上げて。
そして視線が絡み合ったので、すぐに後悔した。
嗚呼、なんと不思議な色合いだろう。そして――
何故だろう、思わず包み込まれそうになる。
青年がそこまで想って恥じらいさえ感じさせる様に頬を染めて俯いてみせたので、松永は彼を労る様に静かに「珍しい色の、梅で御座ろう」と話題を変えてみせれば。
長逸は急に無邪気なまでに、梅の花に向き直って答えた。
「嗚呼。白い…そう見えて、微かな緑を潜ませている。こんな色、見たことない」
続けられた言の葉に、松永が感じ入るように小首を傾げながら、己より頭半分程背の低い、三好の長兄を見返した。
「そのとうり。花の内に葉の緑を潜ませているのですよ、美しいでしょう」
「嗚呼」
そう答えて長逸は、まるで先程の茶室の中での刃のような雰囲気が嘘のように微笑んだので。松永は益々、魅入られたように青年の横顔を見詰めた。
「香りも清く、かろやか」
まるで宝でも愛でるように梅の木を撫でる青年の美しさに、松永は改めて探った。

美しい。

聞き及んではいたが、産みの母は京の公家の血を引いていたらしい。
色の白さ、髪艶のあること、整った目鼻立ち。細く弧を描く眉の下の睫の長いことに、阿波国の陽射しの強さを想わせるくっきりとした二重の大きな瞳がまこと秀麗であった。
本当に既に初陣も済んで、三好家を台頭する武者なのだろうか、とさえ。疑うほどに、どこかあどけのない目線が今、一心に梅の花々に注がれている様もまた。何故か、松永の心を動かした。
先程までは、まるで仇を――いや実際そうなのだが――首を寄越せと云わんばかりの冷たい睨みをこちらにきかせていた筈なのに。
長いうなじにほつれかかる後れ毛の、なんと艶やかで悩ましきこと。

――得難き、宝やもしれぬ。

心の内で呟くと、松永は深く嘆息した後、己を見返しもせず梅に心奪われているひとに云った。
「此の梅が、そんなにも御気に召したか」
長逸殿、と問いかけると、もう一度驚いて、長逸は焦茶色の瞳を陽光に煌かせながら松永を見上げ――恥じ入るように、「嗚呼」と、答えた。
「申し訳御座らぬ、もう戻らねば」
慌てて踵を返そうとする彼の肩に、そっと。手を添えて制すと。松永は囁いた。
「裸足の貴公子殿」
愛でるように囁かれたことに、長逸は初めて己が草履も履かずに人の庭に踏み入ったことを悟って頬を染めた。
「これは」
なんと、無礼を。
思わず片手を胸に当てて恥じ入る様子は――とても一族の命運を背負う棟梁とは想えぬ程の。
「よいのだ。長逸殿」
くすくすと笑みながら、松永は彼の肩に添えた手に、僅かに力を込めてみた。
青年が、驚いてこちらを見上げる。
あの時の同じように――焦茶色の瞳が、陽光に透き通ると一気に蜂蜜色に成る。
整った唇に乗せられた艶に、瑞々しい若さが映える。
初春の陽光を享けた彼は、本当に儚いまでの――十七、八の青年だけが持ち得る壊れそうな繊細さを露わにして、松永を捕らえた。

――得難き、モノやもしれぬ

そう心の内で呟くと、松永は微かに親指だけで彼の肩の線をなぞってみせた。
「長逸殿、そんなに気に入って呉れたなら、この梅は卿に差し上げよう」
「――え?」
息を止めてこちらを見上げる青年の頬を撫でたい衝動を抑えながら。松永は続けた。
「卿は三好の筆頭で在る。ならば、三好に仕える私のモノは卿のモノ。此の梅は卿のモノだ。望まれるなら、卿の城まで運ばせましょうぞ」
そう云う松永の顔を――息を止めて見上げた後、長逸は深く息を吐いて、改めて頬を染ながら
「弾正、殿」
と。
そして、青年は戸惑いながら眉を潜めた。恥じらいながら。
だから、代わりに松永の笑みが引いて、一瞬凍った。
「御心遣い感謝致す…だが」
顔を背けることで、晒された青年の首の白さに。松永思わず「…は」と息を零す。
「だが、この梅がこの庭から失せたら、さぞ寂しかろうに」
其処まで云うと、長逸は思わず長い指で己の口を塞ぎながら、「いや、御気になさるな」と俯いて恥じ入った。
其の様に、松永は確信した。
美しい。
己は、この存在を欲しいと想っている、と。
思わず離した手をもう一度肩に掛けて抱き寄せてみようか、という衝動を抑えて、松永はくっくっ、と笑んだ。
なんということ、と。
まさか、こんな風に想おうとは、と。
「――花よりも、なお」
擦れた声音で青年に艶っぽく囁くと、彼に顔を寄せながら――梟雄、と呼ばれる男は云った。
「長逸殿。どうか、この贈り物を受け取っては呉れまいか」
男の請うような問いかけに、長逸ははっとして息を呑みながら――見詰めて。
男の傾げられた首の逞しいことに息を呑みながら
「…え?」
と、小さく零した。
「きっと、贈って差し上げよう」
そう云って心の内読めぬような――なのにやたらやさしげな笑みを、向けられたので。
長逸はもう何も云えずに、ただ横に立つ男の顔を見詰めるしかなかった。





目の前で人夫たちが己の居城の庭の土をせっせと掘り起こし――その傍らに、あの日愛でた梅の木が根っこごと見事に控えていることに。長逸は呆気に取られながら、松永から送られた使者の言伝えを聞いていた。
「殿からの、献上に御座いまする」
壮年の使者は、軒先に立ち尽くす長逸に向って絹の風呂敷を解くと、其処に仕舞われていた上質の桐箱をす、と差し上げた。
「“月影”と、こちらも長逸様に献上せよと」
返答もせずに、長逸は差し出された桐箱を何気なく開いて見せた。すると――其の中には、見事な色鮮やかな壷が鎮座していて。
「…これ、は?」
若き三好の筆頭の問いに、松永の使者は淡々と「馬尼拉からの渡来の品に御座いまする」と答えた。
「え?」
白く顎の細い、青年の瞳が驚きに見開かれた。
馬尼拉、と云えば明国の領土の異国の地、其処よりの渡来の品、しかも手に取ったソレは――今までに見たことの無い美しい色鮮やかな絵巻のような、陶器の壷であった。
「どうして…あ」
ふいに。
長逸は壷の中に白く折り畳まれた――文を見つけた。
誘われるように其の紙を紐解いて見たら。とても美しい墨の後が


   枝を手折って
   卿の部屋に飾られるよう
   こちらもお贈りさせて頂きたく
   裸足の貴公子殿


と。
そして松永弾正の花押を認め、長逸は思わず息を止めてようやく掘り終わった穴へ収められようとしている“月影”を見やった。

本当に、贈って呉れた。

青年は己の立場を一瞬忘れ、目の前の品々を見詰めた。
ソレらは、決して安くは無い品々であった。
梅の木一本、まるまると掘り起こして無事に此処まで届けた苦心。そのうえ、その枝を切って活けられるにようにと――馬尼拉由来の壷など、堺衆の豪商でも中々飾られぬモノだろうに。
思わず「裸足の貴公子殿」と、囁かれた不思議な低い、甘い声音が耳元に甦った時。
「――何の騒ぎだ?兄者」
自分と同じつくりの顔をした次兄の政康が、いつの間にか己の横に立っていたので。長逸は思わず松永からの短い文を懐に仕舞いながら、「梟雄からだ」と、ぼそっと答えた。
「はぁ?」
長逸の焦茶とは違う、青褐色の瞳を顰めながら。政康が庭にいきなり増えた大層な梅の木を見やった。
「なんだ、アレ」
「月影」
「はぁ?」
兄のいつもどうりのそっけない答えに、政康の顔が情けなく歪んだ。
「なんだそりゃ」
「あの梅の木の名だ」
そこまで云うと、長逸は裸足のまま、裸足のままで。器用に石の上を渡って植えられたばかりの梅の木に寄り添った。
花は大分散ってしまってはいたが、残った花弁の黄緑の潜む白に、長逸は長く白い指を伸ばし――暫し、瞳を伏せ。
この贈り物に一体どういう心算を潜ませたのだ、梟雄よ。と。
心の中で問い掛けた。
懐柔?忠誠の証?それとも――
「なんだって、またこんなモノ」
身軽に軒先から下りて横に並んできた政康の言葉に、長逸ははっと顔を上げた。
「兄者にか?それとも、オレら三人衆に?だとしたら御門違いもいいトコだぜ、花なんて女に贈るモンだろ。持ってる宝刀のひとつやふたつ、寄越せってモンだな」
政康の其の言葉に――長逸は、まさか、と。ふいに、あの包み込まれるような視線を想い出して。まさか、と。
だが、そうなのだとしたら。
「……俺に、贈ったのだ。この花の色が珍しい、と愛でたので」
「はあ!?」
未だ確信は持てないが、長逸にはこれだけは解った。この梅の木は己に贈られたのだと。たった一言、「気に入った」と云った己に。あの男は。
「――政康。あの男はどういう心算であろうか」
ふいに問われて、弟は眉を顰めて「…どういう、って…」と腰に手をあて鼻を鳴らした。
「…まあ、筆頭格である兄者へのご機嫌取り…?に、しても手が込んでるな。わざわざ木ごと贈ってくるとか」
「――あの男は、俺が気に入ったのだろうか」
少し声音を落として続ける長逸の顔を見返しながら、「ああ?」と弟はさらに眉を顰めて。
「――政康。俺はあの男の懐に忍び入ることが出来るやもしれぬ」
そう呟いて、ふいに妖しく笑んで見せる兄に。弟は息を呑んだ。
そう、この長い黒髪を持つ、色が白くて顎の細い――兄は。
女人よりもなお、艶めかしく悩ましい色香を持ちえていたのだ、と。其れはもう居ない、産みの母が持っていたような――
そして「まさか」と。政康は長逸に問うた。
「…だが兄者、松永弾正は酷く色好み、しかも相手を手に入れるタメならどんな手段も厭わぬと聞いている…オレは赦さないぞ、もしアイツが兄者を」
慌てて詰め寄ってくる弟に、長逸はふふ、と笑んで見せた。
「俺が簡単に手篭めにされるような男と思うてか」
そして長逸は腰に差していた刀をぬらり、引き抜き弟を促した。
すると政康もにやり、と笑って背中に背負っていた長い棒を抜いて構えて。
双子のような兄弟は――周りの者達が呆気に取られる中、いつものように剣劇を舞いだした。
息は合い、まるでそれは決められた舞のように。
兄弟はじゃれ合うかのように獲物を鳴らしながら、言葉を続けた。
「面白いと、思わないか」
長逸がくるり。野太刀程の重さの刀を軽々と回しながら云う。
「弾正が、この俺に若しも――」
「面白いっていうか、さ」
政康も次々と棒――戦場では槍と持ち替える――其れを兄の刀にぶつけながら、続ける。
「兄者さあ、もっと自覚しとけよ。アンタ顔、そこら辺の侍女より綺麗だし、細いし髪綺麗だし」
兄者のコト狙ってるヤツ、結構多いんだぜ?
と。
弟がやたら真剣に入ってきたので、長逸は交えた先をく、と下げながらきょとん、とまるで少年のような顔で「…そうなのか?」と。
「――あーーもう、大丈夫かよ!?ほんとに!?もしも弾正が本気だったら!?」
「――え?」
兄の無邪気な呟きに――政康はかなり嫌な予感しか感じられなくなってきて、じり、と歩幅を詰めた。
「あのな、もしあの色好みで御高名な松永弾正が本気で詰め寄ってきたら…そりゃ、寝首を掻けるかもしれんが…」
「其れをこそ、狙っている」
長逸が息を潜め、誰にも聴こえぬくらいの微かさで答えた。
「どうせ、齢二十歳にも満たぬ小僧、とあっちが油断しているのなら」
いちもつ、切り取ってやるくらいの。
そう、長逸が妖しく笑んで続けたので。
面食らって、政康が力を抜いた時――
「隙あり!!」
かあん、と勢いのよい音がして、政康の構えていた棒がくるくると宙に舞った。
「――兄者!?」
二人の兄の騒々しいことに、いつの間にか末弟の友通も姿を現して怪訝そうに――双子のような兄らに近付いた。
「友通、丁度よい、お前も構えろ」
長逸が楽しそうに笑いながら、真剣の刃を向けるので。
兄らより大柄で朴訥な弟は、面食らって真ん中の――獲物を弾かれてやれやれ、と肩を竦めている兄を見やったが。
「ま、こんなけ血の気多いなら、まず心配は無い…っか。友通、兄者に付き合ってやれ」
そう云われて、ぱっと棒を投げられて受け取れば、長逸が容赦なく踏み込んでくるので、末の弟は「おう」と戸惑いながらも、愉しそうな兄に付き合い腕を振るった。



   贈り物 とても有り難く
   心より 御礼申し上げ候
   弾正殿は誠 心細やかな御方
   御屋形様が 心許されたこと 
   お察し申し上げ候
   三好の行く末 共にまた語らいたく候



使者が持ち帰った長逸からの礼状に、松永は静かに目を落とし、暫し沈黙していたが。
「…成る程」
く、と、三日月のような整った唇に弧を描かせて。
梟雄は彼が直筆でしたためた墨の後を指でなぞった。
「一筋縄ではいかぬ…か」
只の若造ではないようだ、と心の中で続けながら。
松永は文を愛でるように丁寧に畳んで文机に乗せると、おもむろに立ち上がり、少し寂しくなった――庭に向って誰にでもなく、呟いた。
「だが、其の方が面白いというもの」

裸足の貴公子殿。

そう囁くと、松永は彼へ新たな誘いの文をしたためる為、上質な織の袴の裾を鳴らしながら、文机に向かい筆を取った。



《続》

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ゆみのや

Author:ゆみのや
戦国BASARA3の石田三成にぞっこん一目惚れいたし
こっそり応援し隊所存にございます。

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