BASARAの石田を幸せにし隊。

戦国BASARA3の石田三成をひたすらに応援するこっそり避難ブログ

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燭蛾【陰】 -前篇-

お待たせ致しました、【陽】とはまったく異なる展開を見せる、『燭蛾』三成サイド・【陰】、書き上がりました。
長いのでまずは前篇からどうぞ。

《!ご注意!》死亡扱いのキャラ多数、流血表現・その他むぐむぐでR-15指定にさせて頂きました。よいこはみちゃだめでございます。あと、モブ将でばってます。喋り捲ります。そしてオリジナルのキャラクタも出てきます。三好の長兄が完全にオリジナルキャラと化しております。CPは家三で、松永×三好長兄です。それでも「結構、結構」なお方は、どうぞスクロールしてくださりませ・・・

P.S.【陽】が好評で本当に嬉しいです・・・豚もおだてりゃなんとやら。。。んがぐぐっ


 燭蛾

   燈前双舞蛾
   厭生何太切
   想爾飛来心
   悪明不悪滅
   天若百尺高
   応去掩明月


          孟郊





梟雄と童


さく、さく、さく。

灰色の重い空の下。
漆黒のビロードの南蛮渡来の外套を羽織り、首には極上のテンの毛皮を捲きつけて。
梟雄と呼ばれる男は、静かに焼け野が原を歩んでいた。

さく、さく、さく。

灰と化した、かつては堅固を誇ったであろう居城の跡を、時々冬の重い空を見上げて白く息を吐きながら。

「…皆殺し、か」

低く、艶の有る品格の滲む、歌うような声で。
男――松永弾正久秀は、焼き討たれた城跡を歩む。
焼け焦げて、黒炭と化した骸がごろごろと。燃え切れずに爛れた皮膚を晒す哀れな屍の山を。
崩れた塀を、堕ちた屋根を、踏み拉きながら。

「苛烈、苛烈」

琥珀色の瞳を細め、四方を見渡す。
かつて、長曾我部元親がからくりをこれでもかと築き上げて多くの海の男達に愛されていた根城は、完膚なきまでに討ち滅ぼされていた。

「……今宵は、この世の罪穢れを背負って磔にされたメシヤとやらの、聖誕節なのに」

誰にでも、何処にでもなく。
梟雄はほんの少しの哀れみを、滅びたモノに贈った。

「卿は今日の重い雲の海の上から、どう想われるか」

救世主とやら。

「卿が昇天してからも、大地は、人は相変わらずだよ」

さく、さく、さく。

「…凶王…」

そして、彼の名を呟く。

あの日、昇華を願い“不純”を贈った者の名を。
今、目の前の地獄を此の世に成して見せた者の名を。

「卿は、着実に育っているようだ」

そう呟いて笑みとも悲愴とも取れぬ表情を浮かべた松永の耳に――ふいに、この場には不釣合いな音が、聞こえた。
「――小供?」
驚いて、はっと琥珀色の双眸が見開かれる。
其の先には、焼け落ちた後も残る石垣の合間――まるで壕のようになっている、焼け残った穴蔵から。
幼子の泣声が、聴こえてきたのだ。
さくさくと灰を踏み拉きながら其処へ近付くと「しっ」と、泣声とは別の怯えきった――こちらも未だあどけないめのこのささやきが聴こえたので。
「誰か其処に居るのかね」
松永は静かに問いながら、両の腕で焼け落ちた木の残骸を押しのけると、壕の入り口を抉じ開けた。すると――
其処には、ふたりのおさなごが居た。
ひとりは今もまだぐずぐずと泣き続けているようやく立って歩けるか、という齢のおのこ。しかし、整えられた髪形と羽織られた着物の豪華なことに、その子が身分ある若君であろうことが窺えて。もうひとりは其の若君を抱えて、煤だらけになりながらも――これまた、纏っている着物の豪奢なことから、位のある姫君であろう、むっつ、ななつになろうかというめのこで。
怯えきったふたりは、ようやく自分らを見出した目の前の男が果たして味方なのか仇なのかさえ分からずに、怯えきって身を縮こまらせていた。
松永は瞳を凝らしながら彼らを認めると、「なんということ」と、呟いた。
恐らく、この子らは攻め入ってきた凶王軍から隠されたのだろう。せめて、生き残れるようにと。風のような速さで成された侵攻に、彼らの庇護者らが出来た精一杯の配慮。
だが、もう彼らを救い出す長曾我部の親族は――根絶やしにされたのだ
深く。深く息を吐くと。松永は端正な顔に至極穏やかな表情を浮かべて、真白の手袋に包まれた己が腕を差し出した。
「おいで。さあ、そんな寒い処に居てはいけない」
辛抱強く。
無理矢理ではなく、あちらから心を許して寄って来るのを待つ。
無理に抱き寄せれば恐怖心を煽ってしまうだけだと、松永は解っている。
「私は何もしないよ。君たちをこのまま見過ごしていきたくはないだけだ」
さあ、と至極優しく呟かれた言葉に、姫の小さなてのひらがおずおずと、松永の白い手袋に重ねられた。
「いい子だ」
そっと小供の手を握り返すと、穴蔵の中に半身を乗り入れて姫と、寒さと空腹でぐずり続ける幼い若君を抱え込む。
ふたりを静かに雪の降る明るい空の下へ出した後、松永は自身の首に巻いていたテンの毛皮を姫に捲いてやり、羽織っていた外套で若君のほうを包み込んだ。ふたりとも、小供とは思えぬほどに冷たい温度だった。
「可哀想に」
かたかたと小さく震えながら、首に捲かれたテンの毛皮のあたたかくさらさらした感触に目を丸くしている姫と、くるまれたお陰で少し落ち着き、不思議そうにこちらを見上げてくる若君を交互に見下ろし、それから深く嘆息して、松永は灰色の空を仰いだ。
「――早く温かい食事と、寝床を用意してあげなくては。姫、若君、何も心配は要らない。私と一緒においで」
「…そなたは、たそ、かれ?」
「嗚呼、これは失敬。私は松永弾正久秀。ここよりずっと東の土地から来たのだよ」
「もとちかあにさまの、おしりあい…?」
「いや、違うね。でもこれも何かの縁だ」
微かに笑みながら姫を見下ろすと、松永は続けた。
「私と一緒においで。悪いようには決してしないよ」
そこまで松永が云った時――かしゃり、かしゃり。分厚い鎧を、大太刀を鳴らしながら。松永の腹心である死神の一人である――三好の三兄弟・長兄が灰を踏み拉きながら主君のもとへと。
「殿よ、生き残りは居らぬようです」
淡々と。何の感情も宿さぬいつもどうりの声音で、三好の長兄は告げた後――主君の腕に抱え込まれている、おさなごに冷たい視線を向けた。
「…いや、居たようで」
彼の言葉に、松永が頷く。
「ああ。たったふたり。だが、長曾我部の縁者の姫と若君のようだ」
目の前の武者の出で立ちの物々しいことに、すくみ上がる姫に「大丈夫だ。私の家臣だよ」と、優しく囁く松永に向かい、長兄は問うた。
「殿、それらをどうするおつもりか」
その問いに、肩を竦めて改めておさなごらを抱えなおすと。松永は至極当然、というでもように、答えた。
「こんな寒空に置いては往けまい。この子たちは幼い。凍え死んでしまうだろう?」
そう云って腕の中の小さな姫と、若君に信じられないほど穏かな視線を送る主の姿に、いつものことながら――三好の長兄は何も返せず、ほんの少し混乱した。
あれだけ残酷なことを笑みながらやってのける、梟雄は。
動物や小供には信じられぬ程の慈しみを見せることがある。それが気紛れなどではなく、戦場の時でさえ。豊臣の在りえないほどに重装備をさせられて飾られた軍馬を見たときなどは、珍しく嫌悪を露わにして眉を潜め、「着飾られた彼が気の毒とは想わないのかね」と、声音を落として吐き捨てたくらいの。
だが、すぐに要らぬ詮索だ、と三好の長兄は淡々と述べた。
「殿、宝物殿の中もあらかた持ち去られておりました。九十九茄子も」
其の言葉に、松永が「矢張り、な」と笑った。
「…かつてなら、そんなモノに見向きもしなかったろう。凶王殿は」
矢張り、私を引き摺りだすか。
ふいに暗くなった松永の笑みに、彼を見上げる姫が眉を潜めて息を呑んだ。
その気配に、軽く眉を上げると松永は先程の殺気が嘘のように――おさなごに笑んで見せる。
「姫らには関係のない噺だったね。さあ、行こうか」
両の腕に無垢なおさなごらを抱えて、松永はしんしんと羽根のような牡丹雪が舞い散る中をさく、さくと優雅に歩みだした。





凶王と高僧



   卿からは

いつも響く。
禍々しく、あの男が纏っていた黒い禍つのように、其の声が。

   絆を貰い

絆、という――耳にするのも忌々しい響きと共に、鮮やかな山吹の装束を纏ったあの男の苦悶に歪む最期の表情も。

止せ。

夢だ、これはもう夢なのだと解っているのに。
手を伸ばす、手を。
「なんとしなやかで」
褥で何度も撫でられくちびるでなぞられた腕を。
引き千切れるように伸ばしたのに。


   『――不純を贈ろう…!!』


チッ、と火花の散る音がして、目の前が真っ赤に染まる。
あの爆炎。黒煙。焔のかおり。
全てが生々しく甦り、いつも自分の叫び声で――

現に引き戻されて、凶王は浅い眠りからがばり、身を起こした。

「……ッッ……!!」

冷や汗でぐっしょりと濡れる寝間着の衿口をぎりぎりと握り締め、荒く息を吐く。
「……す」
失われてしまった。
今はもう此の世にすら居なくなった太陽の名を、微かに口にしてみれば、もっと虚無が胸を覆うだけだというのに。
どうして、どうして未だ息をしている。生きている、己は。
「……っ」
此処に来て、抱き締めて。
背中をさすって此の名を囁いて抱いて欲しい。
そうしたら。
貴様の首を締め上げ、私はもう一度、今度こそ――
其処まで想うと、ふいに襖の向こうに控える気配に気付き、深く、深く息を吐いて擦れた声音で三成は呼び掛けた。
「左近。何用か」
「――は」
主の問いに、すす、と静かに襖を開けながら、あの乱戦を生き残った、只ひとり生き残って呉れた石田親衛隊が隊長、嶋左近は「お休みの処、畏れいりまする」と頭を垂れた。
「前置きはいい。何用だ」
「――はっ。毛利元就公が、到着いたしまして御座います」
毛利、と三成は呟きながら、す、と立ち上がり枕元に用意されていた羽織に手を伸ばした。
「ようやくか。相変わらず腰の重いことだ」
「…毛利軍勢は大所帯故」
「…まあよい。天守に通せ。今からでよい、どうせ四国のことだろう」
私が自ら長曾我部を討ったのが、そんなに気に喰わないか。
クク、と哂う主の様に、嶋は表情を氷のように変えないままで――だが、「お変わりになられた」と、想う。
あの日。
関ヶ原の灰色の空。梟雄に掻き乱されて再び始まった――本当の乱世。
あの日から、大谷吉継を失って、己が主君の仇であった徳川家康の存在さえも奪われた三成は――何故。
要らぬ詮索だ。
心の中で呟いて、嶋は立ち上がり主君の着替えを手伝うために、手を打って小姓らを呼び寄せた。


あれから、一体幾月過ぎたことだろう。
じりり、と太い蝋燭の先、灯りに吸い寄せられた蛾が其の身を焦がして死に逝く様を、切れ長の涼しい目元で捉えながら。ふと毛利元就は思った。
関ヶ原。天下分け目の戦い。
そうなる筈だった場があの男の乱入によってあっという間もなく掻き乱され、援軍を差向けた時には――東軍総大将・徳川家康は灰燼と化しており、その傍には大谷吉継の亡骸も転がっていて。
虚ろな目で炭と成った仇たる男の名残を何度も両手でなぞりながら、いえやす、いえやす、と壊れたように繰り返していた西軍総大将――そう、それが今、日の本を容赦なく蹂躙し、己に刃向かうもの一人残らず一族郎党血祭りにあげている――凶王三成だった。
あれから、一体幾月過ぎた?
あそこで石田を斬り伏せ西軍総大将という地位を掠め取る選択肢もあったが、毛利は敢えて彼を助け起こした。
其の後ろには未だ、長曾我部に大友の立花、鬼島津も付いていたのだから。
だがしかし――
今、すべては己の読んでいた筋書きとは大きく外れたほうへと傾いていた。
石田三成は、西軍総大将という肩書きを捨てずに日の本を蹂躙している。し続けて、己と同盟していた諸大名すら、異を唱えれば即座に叩き伏せた。
前にも増して凶行に拍車をかけ、恐怖で以って日の本を席捲し、それから何処へ向おうというのか。
毛利にも、未だ掴みきれぬ――凶王の変わりようの種。
夜にも煌々と明るい大坂城の豪奢な広間で、彼は美しく幾重にもいろんな緑の絲威で織られた鎧のまま、床机に細く小柄な身を預け、真っ直ぐに背筋を伸ばし黙して――胸に秘める策を今は畳んだまま、総大将が出ずるのを待つ。傍らには、身内である毛利隆元、吉川元春、小早川隆景が控えており、緊張した面持ちで主の顔色を伺っていた。
「…元就様」
躊躇いがちに、母親に似た面影を色濃く残す隆元が、口を開いた。
「此度の凶王の凶行、さすがに我ら毛利家一同、腹に据えかねまする」
元就の寵愛を享ける身であるからこそ、彼はいつも矢面に立つ。二人の弟が息を呑んで、元就の返答を待った。
「――」
元就は切れ長の薄い瞳を閉じたまま、答えない。
「長曾我部は、我らの宿敵ではあったはず。殿の御気持ちを一切無視して、独断での侵攻――」
「もうよい、黙れ隆元」
元就のまったくいつもと変わらぬ口調に、隆元の顔が哀しみに歪められた。
「…元親公は、一時は我らと同盟さえ…」
俯く彼の様に、元就が苦々しく想う。
これは、本当に母親によう似てしまった、と。情が深く繊細過ぎる、と。
「隆元。大谷亡き今、西軍が副将は我。もしも石田が誤った選択をしておったのならば、事前に止めておった。今の我にはそれが出来る。あとはもう云わずとも解れ」
元就の淡々とした答えに、隆元もそれ以上はなにも云えなくて――はっと顔上げて、己を見詰める視線に気付き、其の先に在る銀色の影に目元を歪めた。
長い銀髪。白花色の煌く装束――だが、髪の下で光る蛇のような金色の眼と僧とは思えぬ甲冑の姿に、隆元はいつも思う。
果たして、コレを本当に“僧”と呼んでいいのだろうか、と。
そして、何故コレが西軍総大将、石田三成の横に――いつの間にか、控えるようになったのだろうと。
「御足労、いたみいります。元就公」
黒く重い皮の面で固く閉ざされた下の、艶やかな唇が弧を描きながら恭しく微笑んで毛利家の将らに頭を垂れた。





安寿姫と厨子王丸


乱世の暗雲などそ知らぬように、あの日四国からおさなごふたり、連れ帰った後。大和の国に隠された城に入り、松永はぱたりと出歩くのを止めて隠遁した。
各地へ放った間者らから凶王軍の凶行を伝え聞いても「そうか」と一人納得し、表立って軍を動かすことは無く。
三好の弟達が長兄に「殿は一体どうされるのだろうな」「太陽を握り潰してまで育てようとしていたのではないか?」と問うたが、「あの男の成すこと、何一つ理解出来たことなど我らには無い」と答えた。


そうして大和の国へ連れられた幼子ふたりは、温かな寝床と食事を与えられれば、凛とした佇まいを直ぐに取り戻した。
南国の民らしい彫りの深い目鼻立ちに気品のある顔つきは、松永の好むものであったゆえ、三好の長兄は「また気紛れに愛玩して、飽きたら捨てるのであろうか」と思っていたら。
暫く経った或る日のこと。
城の庭先で侍女らに
「さあさ、若様、こちらこちら」
「手の鳴るほうへ」
「まあ、あんよが本当にお上手」
「姫様、さあ姫様も」
と、遊ばされているふたりを目を細めて眺めた後、松永はてんてん、とおさなごらの手を離れて己の足元に転がってきた手毬を拾って駆け寄ってきたおさない姫に膝を折って目線を合わせた。
「姫、新しい住まいは御気に召したか」
彼女に恭しく手毬を差し出しながら、松永は侍女らが溜息を吐くような優美な笑みを浮かべてみせて。
彼の手に己のちいさなてのひらを重ねながら、姫は心から嬉しそうに無邪気に答えた。
「はい、殿。とってもきれいで、みなしんせつです。姫はうれしうございます」
ね、お前もうれしいね。
おぼつかない足取りで自分の横に並び、松永に向ってにこにこ笑ってみせる弟の頭を撫でながら、彼女は笑った。
「それはよかった。なにか足りないモノはあるかね?食事には満足しているかい?欲しいモノがあったらなんでも遠慮なく云うんだよ」
「殿、うれしうございます」
両手を合わせて拝むように小首を傾げる姫の愛らしいことに、松永が珍しく「ははは」と声を上げて笑うのを庭の隅から見ながら、三好の長兄は「ほう」と呟いた。
ひとしきりおさなごらの頭を撫でた後、松永はふいに――其の琥珀の瞳に不思議な光を宿して彼らに告げた。
「君たちからは、古い名前を貰おう」
「え?」
「その代わり、新しい名前を贈ろう。ふたりは今から、私の子だよ」
「まあ」
姫が大きな二重の、きらきらする瞳を見開いて松永を見上げた。
「…では、やはり、ととさまとかかさまは、討ち死になされたのですね」
幼いながらも、やはり武家の子なのだろう。
「……嗚呼。なんとも気の毒なことだった」
松永の言葉にすべてを悟ると――幼い姫の、大きな瞳がたちまち涙で潤んでいった。
「ととさ、ま…かかさま…」
ぐ、とこらえることのいじらしい様に、松永が同じように悲しそうに眉を潜めて云ってやった。
「泣きなさい。いいのだよ、泣いても」
彼の言葉に、姫が驚いて顔を上げる。
「君らはそれでいいのだ。思い切り泣いて、泣いて吐き出せばいい。そして忘れなさい。もう、君らのととさまとかかさまは此の世に居ないということを」
その言葉に――姫は、ぐしゃっと可愛らしいちいさな顔を崩して。
「うわああああ」
と、泣いた。
「と、ととさま、かかさま…っっ」
うわああん、と姉姫の泣くさまに、弟も――うえええん、とあどけいない声を精一杯に、城中に響き渡るような声で泣いた。ぽろぽろと、つやつやの頬に珠のような涙を伝わせながら。
其のおさなごらの肩を大きな腕で抱き寄せながら、梟雄は瞳を閉じて――まるで、其の感情を感じ入るかのように。黙して、ただ強く抱き締めてやっていた。ちいさなからだふたつ。
其の様子に、周りに控えていた侍女らが小袖の裾で貰い涙を拭いながら「なんとおかわいそう」「殿はやはり、おやさしいわ」と、小声で囁きあった。
やがて姉姫のほうが息が詰まってすんすんと鼻を鳴らしたので、松永は懐紙を取り出して、小さな鼻をかませてやった。つん、と姫が鼻をかんで落ち着いたのを見た後、ふえええ、と泣き続ける若君の顔を広い掌で優しく拭って。ふたりの顔をかわるがわる見詰めた後、梟雄は至極優しい声音で思い出したように囁いた。
「そうそう、君らの新しい名前だが」
松永が、ぐしゃぐしゃになったおさなごふたり、顔を拭ってやりながら優しく低い声音で告げた。
「安寿姫に、厨子王丸殿だ。よい名だろう?」
「あんじゅ…ずしおう?」
新しい響きに小首を傾げる姫に向かい、松永は穏かに笑みながら頷いた。
「お伽噺の、姉弟の名前だよ。姉は弟のタメに其の命を投げうった、哀しい話だ。だが、安寿姫、君はあの焼け落ちた城の跡…厨子王丸が助かるためなら、其の命を投げ出しただろう?だから、君らにはこの名がぴったりだと想ったのだよ」
其の言葉に、幼い姫が
「あんじゅ、ずしおう…まる…」
と、贈られた新しい名を己の声で確かめた。
「すてきなおなまえ」
そう云って花がほころぶように笑う――安寿姫に微笑み返すと、松永は「そうだろう?」と姫の緑の黒髪を撫でて、抱き上げてやった。
其の様子を庭の片隅で息を潜めて見詰めていた――三好の長兄は、不思議と主の見たことのないやわらいだ笑みに、何か。何か、言葉にし難いものが胸にふわりと沸いてきたことに戸惑い、かむりを振って踵を返し、その場を立ち去った。





梟雄、と呼ばれ常に何かを欲し、手に入れる為なら相手の羽を、まるで蛾かなにかにそうするように無残に毟り取り、踏み躙るあの男が。
あの幼い姫と若君を手に入れてから、本当に出歩かなくなったことに、松永の家臣らも徐々に戸惑いを隠せなくなっていった。
凶王の凶行は留まることを知らず。
この間は己の振る舞いに異を唱えた、中立を貫いていた前田を焼き払い、その次はもう黙っては居られぬ、と立ち上がった越後の軍神とも一騎打ちの果てに命を捥ぎ取ったという。
なのに、松永様はどういう心算だ、と。
それらを伝え聞いても「そうか」と、一人納得して暇があればおさなごらと花を摘んでみたり、鞠を転がしてみたり。
まるで己も小供にかえられたようではないか、と。
「兄者、本当にこのままでは」「いつ、大和も攻め入られるか分かったものでは」と弟達さえ三好の長兄に戸惑いをぶつけた。
「兄者は何も聞かされていないのか?」
という真ん中の弟の言葉に、長兄はふ、と溜息を吐いた後
「何度も云わせるな。あの男の成すこと、我らが理解出来たことなど一度足りともないのだ」
と少し――自身でも驚いたが――苛ついた返答を。
だが、弟達の怪訝な視線にもう一度溜息を吐くと、「分かった。殿に心中を伺ってみよう」と、すす、と袴の裾を鳴らして磨き上げられた城の回廊を歩みだしたのだった。


どうせ今日も、あれらと共に在る筈。
そう思い、三好の長兄は城の西側、広く作られた庭に向ってみた。
案の定、其処には安寿姫と厨子王丸が、きゃっきゃ、と小供特有の高くて愛らしい声音を響かせていて。
侍女らに見守られながら、姫は楽しそうに唄いながら器用に小さな手で、花輪を編んでいた。
確かに可愛らしい。ふと、信じられないけれどそう想う。
小さくまるまるとして、柔らかそうだ。暇があれば唄い暇があれば走り、何が面白いのか声を立てて笑う。
今は城中ゆえ、ものものしい鎧兜を脱いで袴姿になって素顔も露わにしている三好の長兄は、艶やかな黒髪を風に撫でさせながら、静かに庭先を縁側から望みながらふと考える。
確かに、愛らしい。
愛でることに理由を問われたら、「愛らしい」の一言で充分だった。
何故だろう、あの男に魅入られ見出され、“死神”としての鉢を与えられてから――とんと、人らしい感情など捨て去ったはずなのに。
縁側に立ち尽くすようにしていた――青年を、ふと見つけたのは安寿姫のほうだった。
「みよしのあにさま」
はっきりとそう呼ばれたことに、青年は驚いて焦茶色の瞳を見開き己の足元へ駆けてくる姫を見詰めた。
「いかがなされたのですか?」
にこにこと。
松永に向けるものと同じ無邪気な笑みが、三好の長兄に向けられて。彼は「……」暫し沈黙した後、瞳を伏せながら淡々と「……殿を探しているのだ」と、姫に答えた。
「殿を?まあ、殿なら読みたいえまきがあるからと、おへやにかえられたところなの」
安寿はもっと一緒に遊んでほしかったのに。
と、無邪気に笑みながら続けられたことに、ふいに胸に暗く過ぎる感情を。感じて。青年は何も云えずに無表情のまま、姫の黒い瞳を見返していたが。
そんなことはお構いなく、安寿姫は恐れもなく、三好の長兄の大きくて冷たい掌に、自身のちいさな指を絡ませた。
驚いて息を詰まらす青年に向かい、姫は云った。
「殿がおっしゃっていました。みよしのあにさまは、おのれのふところがたなで、たてであると」
小供にしか出来ぬ、無邪気な笑みで。彼女は続けた。
「だから、姫らもみよしのあにさまをたよっていいのだと、こわがらなくていいのだよ、とおっしゃっていました。みよしのあにさまは、殿に好かれているのですね」
いいなあ、と。本当に羨ましげに彼女が見上げてくるものだから、思わず情けなく「…え?」と。三好の長兄は、声を零した。
「これからも、殿をおまもりくださりませ。安寿と厨子王丸の殿を」
ね、と小首を傾げられて――そして己の手をあたためてくるちいさなぬくもりに。青年は、酷く動揺して、思わず身を引いた。
手を解かれたことに、不思議そうに姫が瞳を潜める。なにかわるいことをしたかしら?と案ずるように。
「…俺は…殿の死神。鉢。云われなくとも、この命は久秀様の為に有る」
辛うじて。
それだけ擦れた声音で呟くと、きょとん、としている安寿姫にくるり、背を向けて。
ずんずんと、磨かれた回廊を歩く。彼が籠もっているであろう庵へと。
なんなのだ。一体。あの童は。
「…久秀様が、まるで己の…」
思わず声に出しながら。込上げる感情を押し殺そうと、彼はぎゅ、と己の胸元の襟を握り締めていた。




「――殿」
庵の入り口にす、と座して、三好の長兄は大きめの声で中に居る人に声をかけた。
「なんだ」
袴姿でくつろいで、松永久秀は脇息にもたれながら、何かの絵巻を眺めていた。
「折り入って、御話しをしとうございます」
いつもと少し違う彼の声音に気付き、松永は琥珀色の眼をす、と滑らすように、障子の向こうで佇む青年を見やった。
「どうした」
まあ、入れ。
云われて、三好の長兄は一度頭を垂れた後、部屋に一歩だけ身を入れて座して畏まった。
「殿」
きり、と弧を描いている眉の間に皺を微かに寄せた後、三好の長兄は緊張と共に――だが、不満をあらわにして主に問いかけた。
「いつまでこうしておられるおつもりか」
険の篭った声音に、松永が無表情のまま静かに彼のほうへ首を動かした。
「皆、凶王三成の凶行に戦々恐々としております。いつこの城の存在も気付かれるのか、と。それに、凶王は決して忘れてはおらぬはずです、殿が関ヶ原で東照とあれに成した――」
「それで?」
手元の絵巻物をくるくると丸めながら、松永がなんということもなし、と返答したので。
思わず顔を顰めながら、三好の長兄は声をほんの少し、荒げた。
「大体、あれらを四国から連れ帰ってから、ほとんどの時間をあれらと共にお過ごしになり、軍議もろくにせず、遊ばれてばかり。いえ、貴方にとって生きることなど道楽に過ぎぬと解ってはおりますがしかし――」
「長逸」
松永が、ほんの少し――琥珀の艶やかな色の瞳を見開いて――三好の長兄の諱を呼んだ。
「まさか、妬いているのか?」
ずっと年上の情人のからかうような低い声音に、思わずはじけるように顔を上げる。
「なにを」
近付いてきたくちびるとくちびるが触れあう寸前、三好の長兄はす、と半身を引いて――乾いた笑みを浮べ、松永を見据えた。
「まさか」
いつもどうり抑えた声音で答えたつもりだったのに、微かに上ずっていることに己で動揺しながらも。三好の長兄は続けた。
「あんな童相手に?」
笑みながら。
普段、般若の面頬で隠されている端正な顔立ちを崩しながら、ふふ、と。彼は哂いながら続けた。
「もとより、俺は貴方に何も求めてはいない」
仮面を脱いだ青年らしい、若く艶の有る声音で。
彼は乾いた笑みを浮かべながら、まるで挑発するかのように、松永に向かい続けた。
「俺は死神。只の鉢。たまたま、気紛れに愛でただけだろう?」
其の言の葉に。
松永がふいに張り付いた笑みを引いて、一歩。詰め寄った。
「そんな風に想っていたのか」
伸ばされた指が己の長い黒髪を撫でた後、頬に添えられたので。
三好の長兄は息を呑んで――己が主の琥珀色の瞳に捕らわれた。
「心外だな」
ふたり、動きを止めて。
暫し声も出さず探り合うように見詰め合った後、松永はふいに微笑んで青年の顎を掬ってやわらかく食んだ。
腰を掴まれ抱き寄せられて、思わず口を開いた瞬間、中を弄られて青年は瞳を閉じて理性をとは裏腹に相手の胸に腕を添えた。
酷くかろやかな接吻のあと、顔を離されて我に帰ったように青年は顔を下げて「は」とよろめいた。
今一度彼の身体を抱いた後、松永は静かに身を剥がし、続けた。
「お前は私の大切な懐刀である以前に――想うに値するモノだよ」
己の心中を見透かされたように続けられた、聴きたかった言の葉に、何故か目元が熱くなり。青年はいたたまれないように己が主の腕を引き剥がして、後退って。
「そうだな、お前のそういう素直でないところ、そのくせ正直なところが好きだな」
囁かれ、もうこれ以上は、と青年は琥珀の瞳を睨みつけた。
「――今宵、一献。お前と傾けようか」
いいだろう?と問われたので、青年はもう何も云えずに苦しそうに、だが不敵に微笑んで魅せた。





月と太陽


満月の白い光に照らされる間に座して、凶王三成は手元に在る茄子のような容の茶器を、なんの感慨も示さぬ視線で眺めていた。
世の茶人達が、垂涎して欲すると云う。
己も秀吉の茶席に並ぶ為に茶道を嗜みはしたものの、只のモノであるコレが、何がどうして天下を賑わす程の価値を持つのか――三成には解せなかった。
「…只のモノではないか」
思わず呟く三成に答えたのは、いつの間にか傍に佇む、白花色の袴と――僧が纏うべきではない甲冑を身に着けた、天海であった。
「そうですね。私もそう思います」
凶王様。
三成は鋭い視線だけを静かに天海に向けた後、もう一度、長曾我部の宝物殿から奪い取った茶器にまじまじと――解せぬ、と視線を落とした。
「これで本当に、きゃつは来るのだな」
「勿論です」
凶王の問いに、恭しく頭を垂れながら。天海は金色の瞳を長い銀髪の下でうっすらと細めた。
「あの梟雄が興味を示すのは、金子でもなければ天上の美姫でもない。可笑しなことです、容易に叩き壊せる、このようなモノなのですよ」
凶王様。
「…貴様の云ったとうりに配すれば、本当に“奴”は黄泉還るのだな」
三成の、一段と低く唸るような声音に満足そうに。蛇のような金色の眼を細め、天海は微笑みながら頷いた。
「ええ。東照権現の首から、最後の血を受け止めたのはあの梟雄の腕。アレの血さえ手に入れれば、後は私が成してご覧に見せますよ。禁忌とされた、黄泉還りの術をね。貴方のいとしいいとしい太陽の化身を、必ず現世に喚び出してみせましょう」
其の言葉に、三成が狂気に染まる苔色の暗い瞳を虚空に投げかけた。
「…家康…」
呟いて、憎しみと愛しさで溢れる想いに勝手に目頭が熱くなる。
溢れ出る憎しみで、言の葉織り上げそれでも愛した。
失って、初めて知った。
狂おしく、こんなにも狂おしく。
今こそ、と向き合った関ヶ原の血戦の時でさえ、其の山吹の瞳から目を逸らせなかった。
何故なら、解ってしまったから。
其の色が、瞳に滲む想いが。
今でもお前がいとおしい、手に入らぬならば息の根止めてでも抱き締める、と。
己に迫ってきていたのだから。
だから、今はもう迷わない。
もう一度、此の世に現せて。
此の身を抱かせて、掻き抱き狂おしく抱き締めて、云わせたい。
いとおしや。君よ、と。
そして――首を。
首を削ぎ堕とし、抱きたい。
嗚呼、私は狂ってしまったのだ、と酷く冷たい頭で想いながら、三成は想う。
恋が人の身を滅ぼすとは真実で、私はこの恋に気付いてしまったから、もうなにひとつ赦されはしないのだと。
「紙と筆を持て」
静かに呟いて、三成は天海を見上げた。
「松永弾正久秀を引き摺り出す」
凶王の狂気に満ちた宣言に、さも愉しそうに瞳を細めた後、天海は「貴方の希むままに」と、恭しく頭を垂れて見せた。


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ゆみのや

Author:ゆみのや
戦国BASARA3の石田三成にぞっこん一目惚れいたし
こっそり応援し隊所存にございます。

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