BASARAの石田を幸せにし隊。

戦国BASARA3の石田三成をひたすらに応援するこっそり避難ブログ

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燭蛾【陽】 -後篇-

お待たせしました、『燭蛾【陽】』後篇です。
長い、長くなりました。そしていつもの家三になりました。
あと、慶孫です。元親もでばってます。
夢吉はジャスティス。っていうか前田家マジ前田家。

前篇は、ピクシ部でルーキーランキングイン1位を頂きました。
評価、bkmしてくださった方々ありがとうございます。

【陰】も頑張れます。



其の前に秀吉とかんべさんのお噺描くけど!!
BSR48ランクイン祈願で!!

拍手いつもありがとうございます。原動力です!!







揺らぐ視界の中で、彼は云った。
「いつものことだ」
それでも、微かに目元を紅に染めて。
嗚呼、雪よりも硬質で白いそれが染められるのを。いつもいつも、焦がれていた。好いていた――愛でて、いた。
「その程度で喜びはしない」
「そうだな」
云いながら、どうしたらもっと彼の人を喜ばせられる、と探る自分を浅ましく想いながら。
いとおしかった。
「みつなり」
そっと冷たい頬に手を伸ばせば、彼は摺り寄せる様に己が手を握り返して呉れて、泣いた。透明な雫、ひとつ零して。
「――いえやす」
そして、微かに薄く整った唇を動かして――なにか、何かを呟いた。
「――なに?」
問い返してみれば、彼は涙を幾筋も零しながら、必死でこちらを見詰めながら何かを――請うように呟いたようだったのに。
聴こえない。わからない。
「みつなり」
蜜月のようなあの頃。
彼がこの項に銀糸を摺り寄せ、何度も「ぬくい」と身を寄せて呉れていた頃。
嗚呼、コレは夢なのだ、と。想いながら、家康はまた暗い昏睡の底に引き込まれていった。
嗚呼、何を伝えたいのだ、と。
苦悶しながら。
叶うならば。今一度、君に触れたいと、渇望しながら。






ちゅんちゅんと、可愛らしい雀達がまつの撒いた米をせわしくつついている。
明るい前田の屋敷の縁側で、孫市はまつに着せられた質素に見えるようで実は手の込んだ作りの、花の散る着物を纏いながら、ふ、と息を吐いた。
包帯に包まれた己の頸を無意識に擦りながら、ひりり、と身体のあちこちが痛むことに気付く。だが、この痛みも――彼のものに比ぶれば、大した程度はないのだろう。
そう想うと、孫市は静かに目を閉じて、希った。
「…徳川…」
踵を返し向かうのは、満身創痍の徳川家康が休む床の間。其の時
「ききっ!」
「――夢吉?」
今は聞き慣れた彼の小さな友人の鳴き声に、彼女は其の方を向くと。
肩に小猿の夢吉を乗せ全身に包帯を巻いた、これまた満身創痍の慶次がこちらをうかがっていたので、彼女は歩を止めて彼の方に向いて問うた。
「どうした、前田」
「あ、えと」
着流しを纏い、これまた頸やら腕やら胸板に痛々しく包帯に巻かれた慶次が少し、気まずそうにした後。
「俺もさ、ちょっと家康を見舞おうと思って」
と、続けた。
「そうか」
孫市が、淡々とした口調で応える。
「どうせ、石田も横に在る。お前も気になるのだろう?」
「あー…うん」
ぼりぼりと、
前よりも短く切り揃えられた、孫市の朱色のふうわりとした毛先を見詰め、慶次が苦しそうに目を細めた。
「なんだ」
その視線に、孫市がいつもどうりの淡々とした口調で応える。
「いやあ、さすが俺の孫市、そんな短い髪も似合って別嬪だねぇ、と想ってさ!」
そして、無理に笑う。
本当は、もっと別のことを云いたいのだろうに。
けれど、もう孫市は目の前の絢麗な中に誰よりも繊細で脆い、優しさを隠し持っている男のことを知っていたので。仕方なし、と首を傾げながら。
「お前も、少々伸ばしすぎだと思っていたのだ。丁度よかったな」
慶次の髪もまた、焦げて散ったのを切り揃えたら、結い上げても腰辺りまであった艶やかな黒髪は、背中の半分くらいまでの長さになっていて。
「あー…うん」
「髪など、直ぐに伸びる」
「…でも、火傷の跡、残るかな」
慶次のまるで小供のような――子犬のように潤む大きな明るい瞳に、孫市が「は」と息を止め――
「治るよな?…治ると、いい、な」
そう云いながら、慶次はそっと孫市の傍に歩み寄って、彼女の肩を撫でた。
「ごめんな、俺、あんたを守るって云ったのに」
いっつも助けられてばっかりだ。
そう云って、慶次は孫市の肩に置いた手を滑らせて、彼女の包帯に包まれたうなじをさすった。
心地よい、と想えることに。孫市は自分で自分の変わりように呆れながらも、己をいたわる慶次の手に手を重ね、柔らかな表情で。
「前田。私は雑賀孫市。戦場で負う傷は、勲しだ。跡が残ろうが気にはしない」
「でも」
まるで、自分が負った――いや、きっとそれ以上に。
孫市の白い肌が焼かれた、という事実に傷ついている慶次に向かい、心の中で「からす」と呟きながら。孫市はとん、と己の額を彼の胸に押し当てたので。
慶次は息を止めて、胸元の朱色の艶やかな髪を見下ろした。
慶次の懐の夢吉も、不思議と穏やかな孫市の白い面を見上げて小首を傾げる。
「――揃いの傷だ。私はそれでいい」
呟かれた言の葉の優しいことに。
慶次の目元が紅く染まった。
「後は、徳川が目覚め…石田が。そうだ、石田なんだが」
つい、と孫市が慶次の顎に唇を寄せるように続けた。
「あれは、水もろくに飲んでいないぞ」
「ええっ!?」
孫市の腰に手を回しながら、慶次が心底困った、というように眉をしかめた。
「おいおい…あれからもう何日経つよ!?ダメだダメだ、とっとと無理矢理にでも喰わせないと!」
「ああ。だから、行こう」
慶次の手をそっと押しやると、孫市は彼をうながしてあらためて、傷ついた太陽の伏せる間へと歩を進めた。


静かに襖を押しやれば、全身を――いや、顔までも痛々しく包帯で包まれた徳川家康が横たわるのを、孫市と慶次は見止め、その傍らに――
月の化身のような彼は、息さえしていないかのような静かさで、只、傷つき臥せる太陽の手を握りながら、微動だにせず、小供のように座っていた。
其の様に、孫市と慶次は眉を潜めた顔を見合わせると、目線を交わし「どうしたものか」とお互いに問いかけた。
「きぃ…」
ふいに夢吉が慶次の懐から飛び出して、人形のように静かな三成の膝にちいさな手をあてて、其の蒼い顔を覗き込む。
「こら、夢吉」
先に孫市が静かに着物の裾を鳴らしながら夢吉に歩み寄り、小さな身を抱き上げてから、うな垂れる三成の広くて薄い肩にそっと手をかけて。慶次はくるりと二人と一匹の向かい側にまわり、家康の枕元に胡坐をかくと、彼の焼けて短くなった黒髪を撫でながら「よう、具合はどうだい、東の大将」と静かに、苦しそうに笑んだ。
「生きててよかったなぁ」
慶次の言葉に、ぴくりと三成の肩が揺れる。
「なあ、石田の大将。家康はちゃぁんと生きて、息して此処に居るじゃないか」
云われて、三成は不思議そうに目の前の、逞しい男の顔を見詰めていたが。
孫市が
「石田、まつねえちゃんが、粥を用意して呉れた」
と、己の白く節くれだった手を握ってきたので、大きな眼をもっと見開いて二人を交互に見やった。
「……」
「食べろ。このままでは、お前まで徳川と共に臥せることになるぞ」
「……」
「石田」
そっと。そっと、彼の顔を覗き込みながら、孫市が滅多に見せぬ女らしい、柔らかな表情で彼の肩に手を掛けて。
「徳川が目覚めた時、横に居たいのならば、まずお前が健勝でなければ」
三成が、その言葉にまったく見当違いの返答をする。
「私が殺す筈なのに」
「そうだな」
「私が…私だけが、この男を」
「ああ、そうだな」
「いえやす……」
そして、離れようとはしない。
包帯に包まれた家康の手を握ったままで、三成はただ、ただ彼だけを。彼だけしか視界には入れず。
「…石田…」
孫市が労るように、彼のやせ細った骨ばった肩を擦った時。
「――おい、石田ァ!!」
バンッと。
床の間の襖を勢いよく両手で押し開けながら、其処には――西海の鬼、長曾我部元親が仁王立ちになっていて。
「「元親!?」」「ききっ!?」
驚いて、慶次と孫市と夢吉が半身を起こして彼の方を見やる。
そう、西海の鬼こと長曾我部元親も、あの関ヶ原の乱戦の後、三成の身を案じて前田の屋敷に身を留めていて。
「てめぇ…!!」
元親がずんずんと三成の胸倉を掴み上げると、怒号を続けた。
「てめぇ…いい加減にしろよ!?」
「ちょちょ、ちょっと元親!?」
慶次が慌てて鬼の肩を制して。
「おい止せ、元親!!何を――」「きっきっ!!」
「うっせぇサヤカ!!ちょっと黙ってろ!!」
ぎ、と。幼馴染を睨みつけると、元親は呆けたように口を開ける三成に向って、怒鳴りかけた。
「てめぇ、どれだけ周りの人間がてめぇの心配をしてるか…いや、いいか、お前だけじゃない!!家康のことを案じてるのは、お前だけじゃないんだぞ!!」
「……」
元親の怒号に、微かに三成の眼が見開かれる。あの日以来、まるで半分人形かからくりか何かのように、家康だけを見続けていた瞳が。
「俺だってな…苦しい!!このまま、誤解を…過ちを抱いたまま、家康が逝っちまったら、俺は…ッッ!!」
「元親…」
孫市が、険を解いた悲しい眼で、幼馴染を見やる。
「もう、もう手が届くのに、届く場所に居るヤツがッッ…すり抜けるみたいに、目の前で逝っちまうのは、たくさんだ…ッッ!!守れなかった俺の土地の民草…独眼竜、甲斐の若虎…ッそして、今度はお前らだなんて、天がそう云っても俺ァ認めねェッッ!!だから…ッッお前は、」

生きてコイツの傍に居なきゃならない。

元親の必死の言葉に「…は」と、三成が。微かに息を呑んで、西海の鬼の、今は丹色混じりの金に成ってしまった隻眼を見詰め返した。

「頼む、から…喰ってくれよ…」

崩れ落ちるように。
深くうな垂れて、三成の肩を掴みながら涙声になる元親に、慶次も傍に寄り添って――それから、三成に向かいもう一度請うように。
「なあ、石田…三成さん。俺からも頼むよ。あんたのこと心配してるヤツ、意外と多いんだぜ?そうだな…確かにあんたの大事な友達は俺たち、助けてやれなかったけど」
三成の為に松永の焔に散った大谷のことを想いながら、慶次は続けた。
「家康は、家康はきっと大丈夫!目覚めるさ!まつねえちゃんや利も、精一杯のことをしてくれている…だから、頼むよ、喰ってくれないか。んで、ちゃんと休んでくれ。あんただって結構な傷、こさえてんだから」
「……」
元親の、慶次の、孫市の己を包み込むようなあたたかさに。
三成の、あの日――関ヶ原のあの日から凍ったように沈んでいた正気が、静かに水面の上に昇るように。苔色の深く、淡い色合いの瞳にひかりが――久方ぶりに宿って。
「…喰う」
聴き取れるか否か、くらいの三成の呟きに。三人の眼が驚きで見開かれた。
「喰う」
「…そう、か…そうか!」
元親が潮で掠れた男らしい声音で、久々に肚から嬉しそうに云った。
「喰うか!おい慶次ッ!!」
「あ、ああ!今持ってきてやるからな、ちょっと待ってて!」
慶次が慌しく膝を打ちながら、立ち上がって「まつねえちゃん!」と縁側を早足に台所へと駆けて行く。
「石田…」
孫市が微笑みながら、三成の背を撫でた。孫市の掌に抱え込まれていた夢吉も、「き、き!」と笑いながら三成を見上げる。
「喰う。そういえば、立てないくらい腹が減っている。今気付いた」
幼子のような無邪気な言葉に、孫市も元親も思わず顔を見合わせて――呆れたように、笑った。ふたりで、まるで弟にでもしてやるように三成の尖った頭をぐしゃぐしゃと撫でて。
夢吉はひょい、と孫市から三成の膝の上へ恐れもせず飛び乗って、ぴょんぴょんと跳ねてみせた。

其の日から、三成は不思議と元親、慶次、孫市の云うことを素直に聞くようになり。また、なにくれとなく身の回りを世話に来るまつが「ほんに竹中様に似ていらっしゃる」と秀吉や半兵衛の想い出噺をしてくるので、しまいには「まつ殿」と懐いてぽつり、ぽつりと己の身の上のことを話すまでに心をほぐした。
其の様に、孫市は「前田の家は、不思議な処だな」と、慶次に囁いた。
「え?」
「フフ、あの凶王でさえ、くつろいでしまう。私も、また…前田の家は、誰にとってもいつか帰る場所になり得るのかもしれんな」
と。
「後は、徳川も目覚めてくれれば…」
と。慶次に身を寄せて微笑んで見せた。






やがて七日七晩も経とうか、という昼下がり。
三成は相も変わらず、食事も眠るのも、家康の横でしかしなかった。そして、傷だらけの手を握り続ける。ぬくもりを、脈を。常にこうして確かめていないと、胸が張り裂けて壊れそうになる己の胸の内に、打ちのめされながら。
浅い眠気に意識を奪われてみても、眼の裏に映るのは、あの日――梟雄に暴かれたお互いの、浅ましく罪深い心だけで。
手を伸ばした。
細くしなやかな、長い腕を。
だが、届かなくて、奪われてしまった。
殺したいほどに憎み、希み、願った男の存在を。
あの男は、云った。
“壊れて魅せて呉れるか”と。
今なら、其の言葉の意味がまざまざと解る。
もしも、あのまま慶次と孫市が乱入しなかったら、自分は、自分は――
魘されるように浅い転寝から意識を戻し、かむりを幼子のように振る。
目の前には、微かに胸を上下させる家康の姿。
全身を包帯で包まれ、眼まで覆われてしまっている。
じわり。
不思議と、勝手に目頭が熱くなる。
あの日から、もう何度も何度も。
あんなにも崇め奉った主君の為にでもなく、いつも背を撫でてくれた育ての親御の為にでもなく。
嗚呼、私は――

「…いえやす」

囁いて、震える指先で乾いた彼の唇をなぜた。
かつて、其れを己の唇に、頬に、髪に押し当てて、抱き締めてきた男の。
「…いえやす」

赦さない。

「赦さない。このまま、貴様が逝くことは赦さない」
云いながら。信じられないことに、自分でも信じられないけれど、三成は彼の丸みのある鼻先にくちづけて、頬に額を押し付けて、涙声で囁いた。
「私を見ろ。云え。何か、云え。目を…開けて、て」

私を。



   三成 今助けに
   来るな 己の陣図を守れ
   私に構うな
   そう怒鳴るなよ お前が疲れてしまうぞ
   私に 触れるな
   
   手を伸ばす

   お前が死ねば 秀吉殿も悲しむ
   秀吉様は悲しまない
   私一人という兵が失せたくらいで
   あの御方の歩みは止まらない
   
   では 儂が悲しむ
   誰よりも 誰の分までも
   何故
   お前が大事なんだ
   何故
   絆だから
   ようやく手に入れた
   
   主でも 傅くでもなく
   
   私の威光など どうでもいいと?
   違う そうじゃない

   でも もし 自分が触れることで
   君が 君が傷ついてしまうなら
   下ろすべきか 触れてはいけなかったのか
   
   でも 天が 予感がそう告げても
   触れずには居られなかった

   でも 君が

   手を伸ばす
   深くまどろんだ意識の底で

   「還ったら」

   水底から希むような光の中に、ふいにその人の泣く顔が見えた。
 

   「貴様には、云いたいことが、山ほどある」


   泣いている。泣いている。

   
   「――みつなり」


   手を伸ばした。
   たとえ、天が、地が、星が否、と云おうとも。
   今、君に触れたい。
   涙を拭ってやりたい。

   「…ッッ」



そして彼は彼に触れた。
   



声に成らない嗚咽と共に、家康の頬に三成の涙珠がひとつ、ふたつと零された時――
三成の細い指を微かな力で握り返しながら。
家康が、囁いた。
「な、り」
掠れた、焔に焼かれた喉で、必死で家康が最初に発した名は――
「……み、つ、な…」
「いえやす…!?」
「そこ、に、居るのか。みつな」
「たれそ!!たれそある!!?」
三成の悲鳴に、前田の家の侍女たちが、慌てて床の間の入り口へと集った。
「三成様!?」「いかがなされました!?」
「いえやす…家康が!!」
彼の手を離さずに、三成が襖を押し開けた侍女たちに必死に命じた。
「まつ、まつ殿を!!匙を、孫市を、長曾我部を!!嗚呼、家康、家康」
ぽろぽろと、涙が零れる。勝手に、頬を熱く塗らす。
その雫を受け止めながら、微かに家康は首を捻った。
「みつ…な、り。無事、か」
「いえやす、いえやす、いえ、や」
ぽろぽろと。透明な雫を幾筋も流しながら、必死で包帯に包まれた彼の手を握り締めながら、三成が叫んだ。
「私は此処だ。此処に在る…!!家康、いえ、やす」
やがて背後にまつや孫市、長曾我部元親や慶次の足音が響き、前田の屋敷は太陽の光を取り戻したかのように明るく、慌しく。
「竹千代殿!?目覚められたのですね!?」
「徳川ッ!!」「おい、家康!!」「家康、家康――」
利家の「早く、匙を!!おい、竹千代ッ!!しっかりしろ、今――」と溌剌とした声音が前田の屋敷に響き、まるで盆と正月が共に来た様な騒々しさになった時――
「貴様ァアアッッ!!!」
「いっ!?」
「石田!!?」
目をまるくして叫ぶ周りなどお構いなしに、三成が家康の胸倉を掴んで遠慮なく――思い切り、揺さぶった。
「貴様ッ七日も起きないなど何事だ!!そんなにも私が憎いか!!」
「こら石田!!」
「お止めくださりませ!?」
「…わ、たしを…七日も待たせるなど…ッッ!!」
叫びながら、三成は堰を切ったかのように泣きながら、彼の身を掻き抱いた。
「赦さない、絶対に、赦さない、家康、いえ、や」
其処に慌てて前田の家の従医が駆けつけて、困ったように利家を見やったので、利家が
「石田殿、さ、医者に診せよう」
と三成を宥めたが。彼が小供のように泣きじゃくるので、利家はまつのほうを見やって、それからまつは孫市に向って頷くと、ふたりでやさしく、やさしく三成の肩を宥めすかしながら家康から引き剥がした。
「いえやす」
それでも彼が家康のほうへ腕を伸ばすのを、孫市がまるで姉が弟を抱き締めるように制して。三成の身体を労るように抱え込むと、優しく銀の髪を撫でながら「よかったな、石田」と彼女は微笑んだ。
「…いえ、やす…いえやすが」
起きた。生きていた。
繰り返しながら、孫市の腕の中で肩を揺らして幼子のように泣き続ける三成の様子に、元親も呆れながらも微笑み、ぐしゃぐしゃと才槌頭の銀髪を掻き回した。
「っとによう、お前らって奴は…」
云いながらも、西海の鬼の顔にも満面の笑みが戻り。その後ろで、慶次は羨ましそうに三成の銀糸を見詰めながら。
「いいなぁ、三成さん、孫市にそんな風にしてもらえて」
俺、妬いちゃうよ、とからかうように笑って。その肩の上で、夢吉も「きぃきぃ」と孫市に文句をいうようにでも鳴いてみせる。
孫市は「フフ」と三成を抱え込んだまま、やわらかに慶次と夢吉に向って笑って魅せた。



三成を宥めるように別の部屋に連れて行って寝かしつけた後、まつは「火の様子を見て参ります。そろそろ皆様方の夕餉も準備しなくては」と、台所へと戻っていって。慶次は「俺、ちょっと利と話してくるわ。三河方に伝えなくちゃいけないし、謙信にも文を書かないと…ああ、いろいろやることあるなぁ」と珍しく、要人らしく前田の家の家臣や侍女らにてきぱきと命を下しだして。
孫市はすんすんと涙を流しながらも、薬のお陰もあってようやく眠りに入ってくれた三成の髪を撫でた後、縁側で様子を見ていた元親の傍に戻った。
「おう」「ああ」
幼馴染のふたりは肩を並べて、前田の家の明るい軒先でちゅんちゅんとさえずる小鳥たちの歌声に――久々の、心からの安堵に息を深く吐いた。
「…独眼竜や若虎の死も、これでちったぁ報われるかねぇ」
元親の低い声音に、孫市が瞳を伏せながら「そうであって欲しい。いや、太陽の権現が目覚めたのだ。そうであろう」と、答えた。
ふたりは暫くそうして、先に逝ってしまった若き乱世の雄らに沈黙を捧げていたが。
やがて元親が逆立つ、潮に灼けて細く明るい銀髪を掻き揚げながら――ぼそり、と孫市に向って。
「っかし、石田の野郎のあの…家康への執着は何なんだろうな。なんっか、自分の主君を獲った仇へ、というよりは…まるで大切なお宝を失うまいとする小供みたいな――」
「可愛らしいではないか」
「はぁ!!?」
「若さ故、かな。なんとも一途な恋情ではないか。石田は怖ろしいのだ。怖くて堪らないのだろう。もしも、また目を一瞬でも逸らした隙に、徳川が自分の目の前から逝ってしまったら――」

そう想えば、怖くて怖くて離れられない。

孫市の言葉に、ぽかんと口を開けるしかない――
一体彼女は、何を云いたいのか。
呆けた彼に向かい、フフ、と何時ものように静かに低い声音で笑って見せた後、孫市は柔らかく微笑みながら続けた。
「未だ分からんか?」
からすめ、と。孫市が明るく笑った。
「フフ、可愛らしいではないか。惚れた相手を死ぬほど案じているだけなのだ、あの小供は」
孫市の答えに――元親がこれでもか、とあんぐりと口を開けた後。
「……ぇえええ!?」
と小鳥達が一斉に飛び去ってしまうほどの悲鳴を上げた――後。
「…やっぱり、そうかい」
と。
はあ、と鬼の肩を小さくすぼめて、肘をついて顎を掌に預けた。
「ふーん…まぁ、ねえ。俺もそこまで鈍くはねぇけどよ」
金赤色の隻眼を伏せながら、元親が記憶を辿りながら呟いた。
「同盟してた頃、寝ても醒めても“いえやすいえやすいえやすいえやす”って繰り返すアイツを見てたら、なんとなぁくは察したのよ。只の家臣が己の主君の首、獲っただけではこうはならんだろう、ってよ。どうもこりゃ…って。家康のヤツ、何度か文でそれらしいことは書いてきたけど、まさかお相手が、泣く子も黙る凶王様とはなぁ」
とんでもねぇぜ、とクク、と苦く笑う元親を見やりながら、孫市も静かに述べる。
「…私にはあんな風に、振舞えることはもう無理だろう。色々識ってしまったからな。それだけで世界がひっくり返ることなど、もう私には無い。でも、あのからすら共は、お互いの存在の有無ひとつで、世界がひっくり返ってしまうのだろう」
「まあ、まさかお前があの慶次と好い仲になっているってのも、考えてみりゃ“ありえねぇ”って俺は想ったしな。そんなモンなのかもな」
「なんだ、私と前田がそうなのが、なにか可笑しいのか」
なんてことはなし、といういつもどうりの涼しげな目線で、己を見てくる孫市に――元親は心底面食らったように、だが、苦く笑いながら続けた。
「だってよぅ、慶次の野郎のケツの軽さにふらっふらした危なっかしいトコとか、なによりちゃらんぽら…ってあででッッ!!」
気付けば、元親はぎりぎりと片頬を、孫市の細く、だが節くれ立った白い指できつくつまみあげられていて。
「ちゃらんぽらん加減では、お前だって同じようなモノではないか」
今度は朱色の瞳の下に明らかな皺を寄せて睨んでくる孫市に、元親は驚きつつも――何故か、どこか楽しくもなり。
「あれにはあれで、善いところがあるのだ。優柔不断で女々しい、落ち着かぬ風来坊なところも、ひっくり返せば全部あれの優しい、好いところなのだ。この戦国の世で、本当は一騎当千のもののふとして名を上げられる程の腕前を誇っていても、敢えてあれは――」
「いひゃ、だからいひゃいいひぇえって!さひゃは!!」
「ふん、お前の目など、まぬけなからすの寝る節穴だ。タダ飯を喰らうだけならさっさとここから出て行け。節穴め!」
そこまで一気に云うと、孫市は勢いよく元親の頬を引っ張ってからばちん、と離した。
「…ってぇ!!って、お前まるで此処が――前田の家が自分ちみたいな云い様じゃねぇか」
「まつねえちゃんが云ったのだ。“自分の家だと想って居てくれればいい”と。私は其の言葉に甘えている。まつねえちゃんの飯は、雑賀の智恵にしたい程の美味さだから…っと、どうでもいい、で。出てくのか、いかんのか」
「っっでぇなぁ!俺だって、石田のことは弟みたいに想ってんだよ!!家康のことだって心配だし…暫く厄介になるぜ。って、べ、別にまつねえちゃんの飯が食いたいだけじゃねぇからなっ!!」
「からすめ。本音がダダ漏れだ」
呆れたように眉を潜める孫市に向かい、元親は心の中で「なんか、だんだんまつねえちゃんに似てきてねぇか」と呟いて、不思議そうに孫市をまじまじと見詰めた。
「…お前、変わったなぁ」
元親の言葉に、孫市が不思議そうに目を見開いて。
「変わった?何が」
「いや、随分女らしくなったぜ?っていうか、雰囲気柔らかくなったなぁ、と想ってよう」
元親が、懐かしい――遠い日々を辿るように隻眼を細めてみせて。
「慶次じゃねぇけどよう、恋って、好いモンだな。確かに、周りをあったかくするわ」
そう云って、元親が豪快にはっはっはっ、と笑ってみせるので。孫市も、もう何も言い返せずに、苦く笑うしかなかった。
そう。
あのからすに出逢い、絆されなければ。
きっと、こんな風に女物の着物を纏い、台所に立って誰かの為に膳の用意をすることも二度としなかったろうな、と苦く、だがどこか甘く想いながら。
石田、お前もそんな風に泣くことは、この家が無かったら出来なかったかもしれない、と不思議な縁を感じながら。






目覚めた日から、家康の回復はめざましいものがあった。
傍らにかつて其の首を狙いあった凶王が在ることが、彼にとってはなによりもの薬になるらしい。
孫市が呆れながら「見ていると、本当に阿呆らしくなる」と苦笑するくらいに。
ふたりは、離れずに居た。
三成は当たり前のように家康の包帯を変えること、薬を塗ってやること、食事の世話をすることを成して。
まつが「まつめはどうやら、お邪魔にござりますれば」とからかうほどに、三成はかいがいしく家康の世話を焼いた。
痛いと彼が疼けば其処に手を当てて擦り、水が欲しいと云えば丁寧に匙でゆっくりと飲ませ、厠に立つのも共になければ気が済まないくらいに。
そうまでに、彼は執着していた。周りが呆れるくらいに。本人はとんと、自覚すらしていないようでも、周りは黙って其れを見守った。
前田の家の侍女たちなど、とうとう「なんといじらしい」「一途な御方」などと、三成の容姿の美しさも手伝ってか、三成様、三成様、なんなりとお申し付けくださいな、と彼を慕うくらいにまでなって。
慶次が「いやぁ、俺、前田の家がこうだって知ってたけど、やっぱ此処すごいわ」と嘆息するくらいに。
日々はやわらかに穏やかに、流れる。
暴かれた恐怖に沈みかけた太陽と月を、どうかもう一度此処へ、と喚び戻すかのように。





陽が落ちた仄暗い帳の中、どこかで静かに梟が啼いている。
その声に、ほんの少し歩を止める三成を、後ろから続く侍女らが不思議そうにうかがったが。「…違う、アレはもう居ない、居ないのだ」とかむりを振って、心配そうにする彼女らに「気にするな」と声を掛け、再び歩みだして彼は太陽の臥せる床の間へ辿り着いた。
「入るぞ」
両の腕に、清い水桶やら布やら、包帯やら薬やら。溢れんばかりに抱えて、家康の傍へと静かに歩み寄りしゃがみこむ。
「包帯を変える」
云いながら、三成はもう慣れたように家康をそっと床から起こし、侍女らに助けられながら彼の古い包帯を剥がして、傷に薬を摺りこんでいった。細く、白い蛇のように冷たい指で。
やがて長い時間をかけて丁寧に全てを終わらすと、三成は侍女らに「もうよい。粥を」と命じて。「はい、三成様」と微かに笑んで侍女らがまつの心の籠もった薬粥を恭しく用意すると、「後は私がやる。下がれ」と。三成が、艶のある声音で侍女らに静かに命じたので、彼女らはまた静かに笑んで「何か御座いましたら、いつでもお呼びくださりませ」とすす、と襖を閉じた。
残されたふたり。
なんなのだろう、この静かな日々は、と。
三成が自身に問う。だが、答えられないまま、もう慣れたように、小皿に粥を分けて、口に含んで熱さを確かめた。後で、「食え」とそっと己の含んだ粥を匙に戻して、家康に差し出す。
「ん」
と答えると、家康も慣れたように其れを口にし、ゆっくりと飲み下した。
「…もうそろそろ、粥以外も食いたいな」
もぐもぐと口を動かしながら彼がぼやいたので、三成は「何がよいのだ?まつ殿に頼んでくる」と立とうとしたので。
思わず、包帯で盲いたままで、家康が冷たく細い彼の手首を握って留めた。
「いや、今はこれでいい。次は…そうだなぁ。三成は何が食いたい?」
大分艶を取り戻した唇で問われたので、三成が眉を顰めながら首を傾げる。
「何故?私の食いたいモノを問うのだ」
「いや、一緒に食したいし」
「…はあ」
呆れたように、三成が膝を折って彼にまた冷ました粥を運びながら口調を冷たく。
「戯れるな。貴様が癒えたら、今度こそ其の首を私は獲る」
「うん」
こくり、と粥を飲み干しながら、家康が微かに笑みながら答えるので。少しいらっとして。三成は手を休めずに、続けた。
「貴様を殺すのは、私だけだ」
「うん」
「貴様の命は、私のモノだ」
「ああ」
笑みながら。家康が答えるので、三成は粥を運ぶ手を止めて、包帯に包まれた彼の頭を両手で包んで己の方へ向かせた。
「貴様、其れは本心だろうな」
「それでいいと分かった」
家康の答えに、三成が苔色の眼を見開いた。
「…誰かにやるくらいなら、お前に捧げるよ。三成」
儂の首を。
そう云って。彼が己の腕を掴み抱き寄せてみせるので。
三成はもう言葉に出来ない想いで口を閉ざすしかなくて、傷だらけの太陽をそっと抱き締めた。
「馬鹿め」
「うん」
「三河武士達は待っているぞ、貴様のことを。差し置いて、本当に私に首を差し出せるものか、貴様」
あんな裏切りまでしてまで。守り抜きたいモノたちを差し置いて。
「いや、もういいんだ」
儂、一回殺されてるし。
あっけらかんと続けられた答えに、三成が呆れたように怒鳴る。
「馬鹿め!!本多も待っている!!軽々しく云うな!!私がその様な惑わしに」
三成の続けられる怒号を、手探りで家康が遮る。
「儂がそうしたいんだ」
は、と。三成の息が止まり。己の薄い唇を這う指のぬくもりに戸惑う。
「暴かれてしまったら、呆気ないものだな。儂はもう、東照、だとか太陽、だとか呼ばれなくてもいいんだ。三成、お前に名を呼んでもらえるなら死んでもいい」
「――馬鹿が!!」
三成が思わず、家康の指を払いのけながら彼を揺さぶった。
「前田慶次が、孫市が、どんな想いで貴様を助けたと思っている!?簡単にそんなことを云うな――」
「簡単に?本当にそう想うのか」
家康が、手探りに三成の細い腰に手を回しながら声音を落としながら。
「命を懸けて云っているぞ。三成、お前にだけこの首を捧げたい」
其の言の葉に、怒りを通り越して――三成は、はあ、と己でも馬鹿馬鹿しい、と呆れながらも。家康をそっと抱き締めてしまう。焼かれた彼の首を撫でながら。ぬくもりを感じて、嗚呼、生きている、私の手の内に有る、と罪深い恍惚に酔いながら。
暫くそうして彼を擦っていたら、ふと、彼の手先の包帯がほつれていることに気付いたので、三成は至極静かに彼から身を剥がしてそこに手をかけて、丁寧に結びなおしだした。家康は顔を三成のほうに向けたままで、それを受け入れる。
最中に、ふ、と想い出した様に家康は呟いた。
「昔、刑部にお前が…儂に今のように包帯をいてやっているのを遠目に見ては、儂は密かに羨んだものだ」
「は?」
「……あのように、お前に想われてみたいと」
「…貴様は、馬鹿か」
「そうだな」
ふふ、と。しゃがれた声音で、それでも優しい声音。
「お前のことを想うと、儂はいくらでも馬鹿に成れた。ああ、お前の視線を此の身だけに受け取りたい、其の手を、指を、唇を、儂だけに注いで欲しいと」
其の言葉に――三成の手がぴたり、と止まり、彼は息を止めた。
「好きなんだ」
両目を包帯で盲しいたままで。
それでも、しかと三成の顔を捕らえて、彼は続けた。
「好きなんだ。あれからもずっと、ずっと好きだった。抑えることは無理だった。想いは募り、心は罅割れ壊れて軋んだ。天下なんて要らない、ただ、ただお前が欲しかった」
嗚呼、と。
淡く微笑む東の照が。
崩れ落ちるように、細い三成の身体に縋りながら、震えた。
「決して云わぬ、墓まで持っていく、と誓ったのに。松永久秀に“云ってしまえ”と囁かれたあの時さえ。退けぬと想うたのに。死にかけて、儂は気付いてしまった」
なんて浅ましく、欲深い我が身よ。
「みつなり、好きなんだ」
そう云って、己の細い腰を掻き抱いて声を震わす――東照に。
三成もまた、指先を震わせながら、彼の黒髪をそっと抱いて。
「誰よりも、何よりも。いと惜しい、我が月の化身」
囁かれれば、あの頃どれだけ拒もうとしても無理だったぬくもりが、今この手の内に在ることに、身が震える。
「早く、治れ」
「ああ」
やさしく、やさしく。
彼のつむじにくちづけながら、三成は透明な涙を一筋、流した。
「でなければ…わた、し、は」
嗚呼、と。
太陽の権現の肩を抱きながら、彼は泣いた。
「私も、私もお前を殺したい、お前を殺すのは私だけなのだ、と想っていたのに。あの梟雄に暴かれてしまった。其れは、何よりも業深い、恋情なのだと」
は、と息を呑みながら。涙を零すまいと堪えながら。彼は彼に囁いた。
「殺したいほど、お前がいと惜しい」
はあ、と零される月の吐息の、なんと艶やかで悩ましいことよ。
「私だけの太陽」
囁かれた想いに、太陽は月の頬に触れ、迷うことなく焼け爛れたくちびるを冷たい彼に寄せた。
くちびるだけでそっと、そっと触れ合っただけでも、溢れるように分かる。
天下。仇。輩。
どうでもいい、すべてが君への愛しさで消え失せるよ。
「……いと、おしや」
三成が、震える声音で泣きながら。
「お赦しください、秀吉様。半兵衛様。刑部。私は、この男が癒えるならば、命さえ惜しくはない」
「三成」
そして二人はきつく、きつく抱き締めあい泣いた。
あの頃のように。
ふたり、幼い頃のまま、ままごとのように花の溢れる庭で睦んでみたあの頃のままで。
「赦せ」
三成が苦しそうに息を繋ぎながら、ただ、ただ傷ついた太陽に冷たい頬を摺り寄せた。
「もう、私は。赦されなくとも、貴様への想いを止めることは出来ない」
もう、留めることは出来なかった。暴かれた想いを。伝えたいこと。どれだけ、どれだけ希うか。
「怖かった。本当に、怖かった…!!お前が、お前があのまま梟雄に焼き殺されていたら、私は、私は…ッッ」
声を上げて泣く彼の頬を、火傷だらけの身でそっと、そっと撫で上げた。
くちづけて、髪を梳き。
ただ狂おしく、熱の赴くままに引き倒した。
「嗚呼、お前の顔が見たい」
家康の囁きに、三成が息を呑む。
「お前は、無事だったのだろう。美しい顔はそのままか。淡い苔の瞳、筋の通った鼻、薄く整った唇、艶やかな銀糸、すべて無事か?」
「わ、たし、は」
「早く見たい」
「なら、ば」
彼の黒髪を掻き抱きながら、三成が答える。
「一日も早く癒えろ、家康。そして私を見ろ。そして抱くがいい、好きなように暴いてみせろ。死に損ない。豊臣に刃向かって、そして私まで陥落させた男よ」
強欲な。
「私の恐怖を掻き消してくれ」
震える声音で、柔らかな髪を己に摺り寄せられるから。
もう、躊躇う必要はどこにもなくて。
熱に浮かされたままくちづけを続けて彼の肩にかかる着物を脱がしてみれば、驚きに零された吐息が首にかかる。
「ま、て」
三成が、心底信じられない、というような呆けた声音で家康に。
「待て。貴様、そんな身体で、まさか」
「――いや、いけるみたいだから」
あの頃のように、余りにもさらり、とそう云ってのけられれて。
三成はかあっと耳まで紅く染め上げながら、首を左右に振って辺りを慌てて見やった。
「ま、て、まだ皆寝入っていない…と、いうか、貴様、健在なのか!?」
「いけそうなんだが」
けろり、と。
火傷だらけの顔で。それでも、厚い唇をに、と弧を描かせて彼が己を組し抱いてくるので、三成は本当に混乱しながら、襖の奥とか、その向こうの廊下に人の気配が無いか馬鹿馬鹿しい、と想いながらも必死で案じだして。
「馬鹿め!!こ、此処は前田の屋敷だぞ!?」
「いいじゃないか」
儂が健全あることを、確かめたくはないか?
そう、掠れた声音で耳元で囁かれれば、もう留められぬ熱と情は。
「……」
諦めたように、傷ついた今でも逞しいままの彼の背中に両手を這わせてみれば、彼は喜びを抑えきれぬように、獣のように。
喰らいつかれて、水音は響いた。
「…いえやす」
掠れた声音で呼びかければ、希求したやさしい、やさしい声音が答える。
「みつなり」


暴かれて。
あんなにも残酷な終わりの後に。
暴かれて、やっと辿り着いた答え。

君よ、いとおしや。
他には何も要らない。どうでもいい。
君だけを、欲したい。


「――馬鹿め」
呟かれた月の化身の声音の艶やかなことに、太陽は生を確かめるように彼の肌を弄った。




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ゆみのや

Author:ゆみのや
戦国BASARA3の石田三成にぞっこん一目惚れいたし
こっそり応援し隊所存にございます。

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