BASARAの石田を幸せにし隊。

戦国BASARA3の石田三成をひたすらに応援するこっそり避難ブログ

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有心論 【the first part】

あれから大分経ってしまいましたが、『花言葉は。』の続きです。
のまかぷで三鶴。の、つもり。
兄妹以上恋人未満。
長いのでまずは前篇からどうぞ。


     君があまりにも綺麗に泣くから僕は思わず横で笑ったよ
     すると君もつられて笑うから僕は嬉しくて 泣く 泣く

     明日を呪う人間不信者は 明日を夢見る人間信者に
     もう昨日を探してた僕はいない いない

     君は人間洗浄機 この機会にどのご家庭にも一つは用意して頂きたい
     こりゃ買わない手はない 嘘ではない

     驚くべき効果を発揮します 新しい自分に出会えます
     ただ中毒性がございます 用法・用量をお守りください


     『有心論』  from RADWIMPS















満月が朗々と、大坂城の巨きな陰を浮かび上がらせていた。
其の西の丸の五階にでも届こうかという天守の上、白く浮かび上がる小さな影がふたつ。


泣かない 心で 終わらせましょう
むくろよ 冷たい 祷りに 変われ


冷たく、だが儚く響く歌声に魅き寄せられる様に三成の細い足がたんたんと天守を登る。辿り着いた先に佇む小さな影ふたつに、静かに近付けば。
「あっ…三成さん」
くるり、影のひとつが振り返った。
肩にかからないまでに切りそろえられた柔らかい栗色の髪がふわっと舞って、羽のようだ。
白い小さい顔が、自分を見上げてくることに。
もう何の違和感も感じなくなったのは、どうしてだろう。
自分自身に問いながら、三成は苔色の切れ長の瞳を細め、静かに首だけをく、と蛇のように動かして、彼女の隣で月に向かったままのお市の方を見やった。
「どうした、第五天」
「第五天じゃありませんっっ!!」
お市ちゃんです!
ぷう、と頬を膨らましてじろりと睨んでくるが、そんなきらきらする瞳で凄まれても、かえって小供らしさが強くなるだけだと、この娘は分かっているのか、いないのか。
は、と小さく息を吐いて彼女を無視すると、三成は自分の存在などまったく無視して歌い続けるお市の方の長い黒髪を、不思議そうに見詰めた。
「囀り止まぬぞ」
ふいに、三成が鶴姫に向かい問うた。
「うん…」
三成の問いに、声とも吐息ともつかぬもので困ったように返答しながら、鶴姫は静かにお市の背中の髪を梳きながら云った。
「お市ちゃん、夜中にそんな哀しい歌を歌っちゃダメですよ。口笛でなくとも、蛇が来てしまいますよ」
鶴姫の言葉に、はたと三成が顔を上げて
「夜中に口笛を吹くと蛇が来る」
呟くように、繰り返した。
「――来るだろうか」
三成の独り言のような問いに、鶴姫がはしばみ色の星のような瞳をぱちぱちさせながら、一瞬黙り込んだ後――
「来ます」
至極真面目に、そう応えた。
「…来るのか」
その答えに、思わず三成の瞳も見開かれる。
常に“凶王三成”として纏われている刃の様な雰囲気が解かれ、一瞬、歳よりもずっと幼い少年のような表情が白い面に戻る。
「ええ、蛇、即ち“邪”。物盗りさんや、人攫いさんたちが」
けろっと。
鶴姫が、はしばみ色の大きな瞳をぱちくりさせて、にやりと笑って見せた。
「悪いひとたちが口笛を合図に、“今夜はここだ!”って乗り込んできちゃいます」
ぽかん、と。一瞬でも自分が口を開けてしまったことを三成は後悔したが、もう遅い。鶴姫は得意げに「三成さんより、鶴のほう物識りですねー」と小首を傾げて見せて。
「煩い!大体、今の齢まで社に籠もっていたような小供が、何故其の様な俗世の知識を持ち合わせている!」
と、三成はつい怒声を。
だが鶴姫はといえば、もうそんな彼など慣れてしまったという風情で
「わたし、お社の中でちゃんとお勉強していました!だから、立派なオトナだし武将です♪」
と得意げに“おねえさん”風を吹かせて見せた。
「泣かない 心で 終わらせましょう…」
だがお市はそんな二人の声などまったく届かぬ、というように月に向かって歌い続けていて。「眠れ、眠れ 緋の華よ・・・」と、其処まで歌うと、ふいに白魚のような手で顔を覆ってすすり泣きだした。
「うっうっ…」
「お市ちゃん…」
「…第五天、何故泣く」
三成の問いに、お市が白い顔を上げて涙をそのままにこう答えた。
「想い出せないの」
「…想い、だせない?」
何をだ。
問いを続ける三成の顔を今度は鶴姫が微かに目を瞠って見上げた。初めて逢った頃、“家康”へのありとあらゆる負の感情だけで心を染め上げ、大谷刑部以外の人間にはとんと気にかけてさえいないような、彼だったが。
共に打倒東軍への道程を歩むうち、微かだが“こちら”を見詰めてくれるようになったような――鶴姫は「これは思い過ごしかもしれない」、と想いながらも自惚れたい、と希(のぞ)む。
「でも…」
お市の続けられる答えに、鶴姫もはっと彼女を見た。
「想い出せないの。市をこうして泣かせるくらい、大切だった、大切だったモノを、想い出せなくて、市、市…」
うっ、うっうっと。お市が再び顔を両手で覆って泣き出すので、鶴姫もまた優しく彼女の肩に手をかけ長い緑の黒髪を梳いた。
「…でも。わたし、お社に籠もっていたから識らないこともありました」
ふいに。静かな瞳で鶴姫が、三成の苔色の瞳を見上げた。
「“悲しい”ってなんだろう?世界はこんなに綺麗で、風も吹いて花も咲いて、お天道様はこんなにあったかくて、月は冴えて星はきらめいて、どうして人は“悲しむ”の?って」
それから。彼女は唇を微かに噛みながら俯いた。栗色の長い睫が、微かに震えた。
「…三成さんの心を見て、“悲しい”ってこういうことだと、知りました」
想いもかけない彼女の言葉に、三成が「…は?」と想わず間の抜けた応えを。すると鶴姫はこう続けた。
「大切な人を、大切な人に奪われた…あんなに大好きだったのに。みんな、みんな」
其の言葉に、今まで静かに和いでいた――三成の瞳がピキッと引き攣った。
「黙れ、其の様な戯言を云うでないッッ!!」
「でもっ!」
大切だったんでしょう、あの人のことも。
そう続けられた言葉に、三成は目を血走らせ、視線を彷徨わせながら呻いた。
「大切だった、だと…?私にとって大切だったのは、秀吉様…家康が、家康が私にとって“大切”だったなど…!!」
「ほら、だってわたしひとっっことも“いえやすさん”、とか云ってないのに、三成さんは“家康”って云う」
「……ッッ!!」
今や完全にこめかみに青筋を立て、三成は苔色の眼球をこれでもかと引き攣らせながら鶴姫に詰め寄ったが。
普通の者ならばこの時点で悲鳴でも上げて平伏すところを、この娘は一度たりともそうしたことがない。
き、とおおきなはしばみ色の瞳で見返されれば、逆にまるで――こちらが心の奥底まで射抜かれるような――本当は、手をあげようなどとも、これ以上怒鳴りつけようとも想っていないことを見透かしているような。
忌々しい、不可思議な娘。
「…三成さん」
それどころか、彼女はと、と一歩前に出て、恐れもせず三成の腕に手をかけてねだるように見上げた。
「わたし、想うんです。三成さんの太閤さまを想うお気持ちはとても美しいものだけれど、このままじゃ、このままじゃ…」
三成さん、壊れてしまうでしょう。
声に出そうとして、出来なくて鶴姫は今にも涙が零れ落ちそうな男の瞳に息を呑んだ。
「…触れるな…ッ…!」
擦れた声音で絞るように云うと、三成は腕にかかるあたたかなてのひらを振り払った。
「この…罅割れた、心に…!…ッ」
不愉快だ、と小さく続けて踵を返す三成の背中を呼び止めようとして、その背中から滲み出る血のように赤い痛みに――手を、伸ばせなくて。
「…闇色さんは」
立ち尽くす鶴姫の背から、ふいにやけにくっきりとしたお市の声が聞こえた。
「本当のことを言い当てられて、腹を立てたのね」
くすり、と。
牡丹の蕾の様な唇に弧を描かせて、お市が先程まで泣いていたことなど嘘のように、どこかしっかりとした光を宿した瞳で、逃げるように去っていた三成の背中が在った場所を見詰めていた。
「まるで小供ね」
くすくすと。お市は困ったように笑っていた。
「お、お市ちゃん…」
「白い鳥さん、心配しなくてもいいわよ。闇色さんは本当に小供なのね。いつもなんでも、素直に鵜呑みにするのね」
だからいつも本気で腹を立てるのね、と。
静かな笑みを湛えたままで、もう囀らずに目を閉じるお市の雰囲気の大人びたことに、鶴姫はいつものように“おねえさん”風を吹かせることが出来なくて、しばらく月光が射し照らす大坂城の天守の端に佇むばかりだった。






大坂城の本丸は天守近くに設けられた軍議の間で、西軍総大将たる石田三成を中心に、大谷吉継――刑部、甲斐武田が大将・真田幸村に、その向かいには大柄な体躯に逆立つ銀髪の“西海の鬼”長曾我部元親、隣り合って九州の鬼こと、島津義弘――ら大将首が集い。
その端に。
いつもどうり、しゃんと背筋を伸ばして、場違いに可憐な娘が居ることに、控える石田三成の腹心・嶋左近はほんの少しの痛々しさを感じた。
伊予河野は大祝一軍を率いるは、あの“遺された”隠し巫女しかおらぬのだから、致し方の無いこととはいえ。
三成の庭で抱えきれないほどに花輪を作って無邪気に笑い、三成だけでなくその周りの人間(例えば大谷刑部や嶋にとか)にも花冠を贈ることもある、彼の娘は。
今は血の気の失せたような人形のような面で、それでもその細い体躯に男と同じように甲冑を纏って、大将首として軍議に参じている。

「――やはり、ここは“囲師必闕”よなァ」

やがて広げられた布陣図に注いでいた黒い視線をつい、と上げながら、大谷刑部が病のせいでしゃがれた声音で呟いた。
「囲師必闕…で、ござるか」
真田幸村が、床几に腰掛けた身体を大谷のほうへと向けながら、神妙にその孫子の兵法の名を繰り返した。
「左様。毛利が暗を連れて、東方のごたごたを収めに行っておるゆえ、力押しはしたくない」
幸村だけでなく、控える他の将にも聞かすように。大谷は続けた。
「尼子も賢しき砂の蛇。毛利が東へ動くのを見計らったように…だが、島津勢がこちらについておる今、篭城は必至。ま、この大戦に紛れて、毛利に奪われていたかつての領地と勢いを取り戻したいだけであろ」
「――つまり、潰す必要がねぇってことだな」
大谷の言葉に、今度は長曾我部元親が低い声音で続ける。
「尼子どんは東軍に義理立てする必要もありゃぁせん。ここで豊臣に力を誇示した上で、中国での己の復権をねらっとるだけじゃ。ここは首まで獲らんでも、そこそこ力くらべで終わらせて、尼子どんを西軍に引き入れるがあ、得策かの」
次に、数多の経験から大谷の思惑をさっと汲み取ったかのように、島津義弘が。
「な、なるほど」
幸村と云えば、先程から目を瞑ったまま微動だにしない三成の様子を気にしつつ、年長者らがさくさく進める事の子細に頷く。
「左様、左様。“囲師必闕”…四方のうち、わざと一方だけを逃げ道として残しつつ、三方から鬼のように攻めんや。そのうち、弱きものから空いた一方からぞろぞろと逃げやる。此度は力押しはしたくない。先も云うたがな。出来るだけ小戦力で弱らせたところに、そうよなァ、鬼島津殿あたりにでも――」

「――認可しない」

流れるように進められていた議を断ち切ったのは、総大将の刃のような一声だった。
「豊臣に刃を向けた、即ち秀吉様の御威光に背いた…其の罪」

万死に値する。

三成の宣言に、西軍の大将首全員が息を止めた。
「私はその様な怯懦な策など執らぬ。尼子の首は、私が刎ねる」
「待て、待てよ?石田ァ」
元親が心底参った、という様子で大きな掌で自身の額を覆った。
「あんたの“悟性”も云ってンだろうが!今回はあんまり戦力割けねぇってよ!!」
「それに、西軍の貯えとて無尽蔵というワケではありませぬ、特に毛利殿の保持する兵糧に兵、武器の量は大きい。その毛利殿が居ない今、大谷殿の云うように…」
元親に続いた幸村に向かい――三成は、今まで静かに閉じていた瞼をかっと見開いて血走った眼で凛と叫んだ。
「時間などかけん!!私が親衛隊と共に赴き、半月もかけずに尼子の首を獲るッッ!!」
「三成どん!!」
今度声を上げたのは、鬼島津だった。
「そげに血の気の失せた顔で…おまはんにあの砂丘の熱は毒にしかならん!」
「そうだぜ石田、まずはあんた自分の身体を…」
「――笑止!」
己が身を案じてくる年長者たちの言葉に激昂してガタッと床几から立ち上がると、三成は大太刀の切っ先を元親と鬼島津に差向けた後、相変わらずの怒声で続けた。
「この身も命も、私はとうに秀吉様に捧げている…!!あの日、私は死んだのだ!殺されたのだ、家康に…秀吉様と共にな!今更この手が、腕が足が捥げようが千切れようがかまうものか…尼子の首も、家康の首も!!私がッ…手折る!!」
そこまで一気に吐き出すと、三成は踵を返して荒々しく“豊臣の五三の桐”の旗印で飾られる部屋から出て行ってしまったが――
しばらくその後を息を呑んで見守った後、残された一同の中からそろり、幸村が声を上げた。
「…い、行かれたでござるか?」
「――は」
その問いに、石の様に微動だにせず畏まっていた嶋が答える。
「行かれました。では、私もこれにて」
嶋が兜の下の漆黒の長髪を靡かせて三成の後を追うのを確かめた後、残された――鶴姫以外の――西軍大将たちは、額を寄せて溜息混じりに“軍議”を再開した。
「やれ、いつものことよ」
まず、大谷がまったく動じぬ嘆息を。
「今回も、適当に煙に捲くしかないのかのお」
鬼島津の言葉に、元親が不安そうに尋ねる。
「でもよう、うちのとっておき、“ホンダタダカツ・改”はこないだ使っちまっただろ?」
次はどうすんだよ、という元親の嘆きに、幸村がはっと息を呑んだ後、ぱああ、と顔を輝かせながらこう云った。
「佐助を徳川殿に化けさせる、というのはどうであろうか!!」
「やめてよッッ!!俺様速攻殺されるッッ!!!」
間髪入れずに天井から聞こえてきた悲鳴に、はああ、と幸村以外の全員が肩を落とし――
そんな様子を眺めながら、鶴姫は想う。

三成さん、総大将なのに。
ここでも、ひとりぼっちだ。

彼の人の知らぬところで、上手に目隠しされるよう、事は進む。
「ま、兎に角なんとか三成を大坂に足止めはしよう。さて、では巫殿」
「は、はい」
大谷からの呼びかけに、はっと慌てて居を正しながら、鶴姫が顔を上げた。
「毛利の水軍が今は不在ゆえ。そちらの水軍で、海から尼子の物資、兵糧の補給を断ってもらえるか」
「はい」
「こちらからの増援は、必要か」
「いえ、補給路を断つくらいならば、当面伊予河野一軍で事足りるかと。あの、苦戦したらお願いしてもいいですか?」
「無論無論。頼もしきよな。ああ、よければ第五天を連れてきやれ。今はアレがこちらに居らぬでも構わぬ」
ヒヒッ、と続けられた引き攣った笑いに、じわり、苦い感覚が胸に広がる。
鶴姫は、この苦い感情の正体の名を未だ知ってはいない。
ただ、この感情が自分の顔を“曇らせて”いることだけは、分かるのだが。
「…お市ちゃんは連れて行きません」
お城で休んでいてもらいます、と続けた後。
「…わたし、もう行ってもよいでしょうか」
と鶴姫が訊ねたので、大谷は「上々よ。海は、お任せした」と頷いた。
すす、と濃い葡萄色の――今、彼女は上下とも暗い色目の落ち着いた衣装を纏っていた――短い袴の裾を鳴らしながら、爺やや若き家臣を連れて、鶴姫は軍議の間を後にした。



「姫御前、お顔の色が優れませんね」
いつも兄のように寄り添ってくれる家臣の言葉に、鶴姫はとっさに答えることが出来ず。
「…姫御前、少しお休みになられたほうがよいのでは」
今度は爺やからかけられた心配の言葉に、慌てて彼女は
「だだっ大丈夫ですよぉ!わたしは元気、元気です☆」
と微笑んで見せて。
「ふたりとも心配性ですっ。わたしはもう泣いてばかりのちっちゃい姫御前じゃありませんよ!鶴は、白い翼で羽ばたく鳥です!だいじょうぶ、だいじょうぶ!」
そう云って明るく笑ってみせるのに。
彼女の顔が曇ったままなことに、幼い頃から彼女を見守ってきた二人はしかと気付いていて。二人の視線に
「…し、仕方ないです」
すす、と身を縮ませながら。彼女は呟いた。
「…わたし、戦、やっぱり好きじゃありませんし…」
それに。
「姫御前…」
「…でも、バシッ☆とお守りしなくては!!」
ぱっと顔を上げると、鶴姫は云った。
「三成さんを!」
「「――え?」」
「わたし、ちょっと三成さん探してきます。ほんと、海賊の云うとうり。何か、食べないと…今日も朝から水しか口にしてないんですよ」
みかん、むいてあげよう。
そう続けてたった、と駆けていく姫の背中を。
残された爺やと若武者が、呆気にとられて見守っていた。
「…姫御前は、あの凶王を…」
どう想われているのでしょうか。
その問いに、隣でむーん、と低く唸っていた爺やは、こう答えた。
「乙女心と秋の空…まさか、風向きは変わったのじゃろうかの」
気まぐれな潮風のように、と。






「すいませーん、三成さん、見ませんでしたか?」
雑務をこなす小姓たちが集う間とか、未だ大坂城に残ると決めた胆の据わった侍女らが陣羽織を繕う部屋とか。あちこち覗いたものの、
「いいえ、姫様(ひいさま)」
「三成様は、こちらにはいらしていませんよ」
と、いう答えばかりが返ってきて。
町のように広大な大坂城ではいくら凶王三成がどかどかと歩いても、そう簡単に見つけられるものではないようだ。
「うーん、どこいっちゃったんだろ…」
呟きながら。気付けば、彼女の鹿のように細い足は自然と“彼の”庭へと向っていた。


そういえば、今朝は小雨が降っていた。
今もぼんやりと曇る彼の――三成がまだ“佐吉”だった頃から大切にしているという西丸殿の広大な庭を、軒から眺める。
相変わらず其処は季節の花々と樹々で埋められていて。
まるで造った本人の様だ、と鶴姫はいつも想う。
さりげなく、でもきっちりと。義務のようにただしく咲いて、馨って。
見る者を慰めるように綺麗なくせに、引き留めるような、儚い風情。
「…三成さん」
どうして、どうして。
こんなに綺麗な場所を造る手で。
「…お辛くは、ないですか」
こんなこと、本人の前で云ったらまた怒鳴るんだ、と、しゅんと鶴姫は俯いた。
「…ほんとに、このままでよいのでしょうか…」
出逢った頃から細かったのに、彼は希う“家康の首”に近付けば近付くほど、血の気を失いさらに痩せ細っていく。そして、泣く。
涙を流さずに、いつもいつも。
このままではあの人は――
そこまで鶴姫が想いを巡らせた時。
彼女はその気配に気付き、はっと顔を上げた。其の先に――
雨上がりの霧に紛れるように、ぼんやりと。其の人は、立っていた。
「あ……」
ぼんやりとでも分かる、三成と同じ紫苑の影を潜ませる銀髪に、雪の様に白い肌。そして女人のように美しい面に映える、桃の紅を注した唇。ほっそりとした身体は明の国でつくられているような変わった衣装――だがそれはとても華やかで美しかった――で包まれている。
其の佳人の名を、鶴姫は知らない。
時々この庭に佇んでいるのを“視て”はいるのだが、既に――恐らく“こちら”の側の人でないものに、無暗に声をかけるのはよくないことだ、と教わっていたからでもある。
それに、其の人が鶴姫に気付くことはなかったから。
いつも其の人は、庭の様子を見に来た三成が去っていく後姿をそっと見ていることがほとんどで。
だから鶴姫も“三成さんに縁のある人だろう”程度に想い、下手に声をかけることを止めていたのだが。
今、其の人の視線の先にある――すっと消えていった月白の地に紫色の羽根が映える背中を見つけ、思わず「あっ」と声を上げた。
すると――
彼の人は、見た。
初めて、ゆっくりと春風がそよぐような柔らかさで、鶴姫のほうを。
仮面に覆われた下の大きな瞳の色が紫苑の璧のようなことに、鶴姫も息を呑んで彼を見詰め返す。
やがて佳人は鶴姫に向って哀しげな瞬きを寄越すと、其れをそのまま――三成が去っていった回廊のほうへと向け、またじいっと見詰め続け。
其の様に鶴姫は不思議ともう、躊躇うことはなく、彼に一歩近付き――

往けないんですね 向こう側に

鶴姫が言葉でない言葉で以って問いかけてみれば、美しい白い佳人は、もう一度彼女の方に向き直って微かに頷いて見せた。

心配で

そして佳人の顔が悲愴に曇るのを見て、鶴姫の胸もまた締め上げられるようで。何も云えないまま立ち尽くしていたが、やがて彼女は気付いた。
其の人の少し向こう側、深緋(こきひ)の陣羽織が映える大柄な人の影に。驚いて手前の白い影に問う。

あちらへ往けないんですか?

きっと、あの大柄な人の影は――迎えに来ているのだ。多分。
だが、佳人は静かに困ったように笑んで見せると、ふっと――霧が掻き消えるように、見えなくなった。

「………」

今まで何度かその影が庭に佇んでいるのを“視て”いた。
もう“こちら”の人ではないことも、解っていた。だが、こんなにもはっきりむこうが意思を示したのは、初めてだった。


死んだ人にまで、あんな顔させるなんて。あんな、優しそうな人に。
もう絶対云おう、怒鳴られても、斬りつけられたって、いい。
じゃないと。
じわり、気付けば目尻が熱く、知らないうちにぽろぽろと涙が自分の頬を伝うのを、彼女は止められなかった。

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ゆみのや

Author:ゆみのや
戦国BASARA3の石田三成にぞっこん一目惚れいたし
こっそり応援し隊所存にございます。

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